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これが我らの部活日誌  作者: 無良独人
第1章-オープニング-
2/13

絶対にルールを守るマン

私立宮代学園は、2000年に設立された他と比べると新しい方の私立校である。

国内初の小中高一貫校であり、生徒数は6000人を抱える。

大きな特徴としては、国内初というところに行きがちだが、真に大きな特徴としては別にある。


【生徒には全ての権利が存在する。】


校則の範囲内でという縛りはあるが、基本的に何を行っても許される。

タバコを吸う、酒を飲むなど、大人にならないとできないことは流石に校則に明記されているが、それらを破らない限りは自由である。

学業レベルも様々である。社会には様々なレベルの人間がいるということで、具体的な基準を定めていない。誰でもウェルカムな学校ということだ。

仕組みとしては、一度入ったら高校卒業まで学園で過ごさないといけないという訳ではない。卒業のタイミングや親の転勤などでの途中入学や途中退学も認めている。


そして、一番独特なのは、生徒が運営も行っている点である。


風紀委員会は、校内の安全を守る、謂わば『警察』の役割を担っている。トラブルが起これば駆けつける、それが風紀委員の仕事だ。

財務委員会は、会社でいうと経理課である。校内の予算はどれほど存在するのかを教師から伝達され、その金額内で行事ごとの予算を決定する。さらに、部活への予算割り振りも考えているのは財務委員である。各部活は予算のいくらを使用したのかを財務委員会に報告する義務がある。

他にも委員会は存在しているが、主にこの2つが運営に携わっている組織と言える。

そして、それらを統率するのが生徒会だ。

生徒会は組織ピラミッドの頂点に存在している。校則の改正会議、財務委員が出す予算案の審議、風紀委員が執り行う裁判の審議役を主な業務としている。当然他にも業務はある。

他にも、体育、文化、交通、保健、選挙管理委員会といった委員会が存在する。


長々と説明してしまったが、つまりはこういうことである。


宮代学園とは、【小社会を実現した唯一の学校】ということだ。


「第10条、校内での不純異性行為を禁ず…」

さて部室の中で一人生徒手帳の校則を音読しているこの男、山本幸太はルール第一主義である。

黒ぶちメガネをかけた、頭も良い、ザ・優良生徒というイメージを放つこの男は、ルールを破る者は誰であっても注意する厄介者体質である。

先日は生徒二人が喫煙していたことを注意して騒動に巻き込まれていた。


幸太が生徒手帳を読んでいると、部室の扉が開いた。

「先輩、何生徒手帳とにらめっこしてるんですか、暇なんですか?」

入ってきたのは園部彩女。

幸太の一個下の後輩で、前髪の右についている髪留めがトレードマークの女の子である。

「誰も居なかったから部室で待ってただけだ。」

その言葉を軽くあしらう。

「今日も俺ら2人か…」

「全く、先輩と2人きりはもう飽きました。」

「ほんと、ちょくちょく心を抉ってくるよなお前…。」

「異性の後輩に罵られるのは嫌いですか?」

「いい気分にはならないな。」

「またまたご冗談を。」

「いや、冗談じゃないって。」

異性に罵られて喜ぶ紳士たちとは違って、幸太にはその気はなかった。

「まぁいいです。さっさと撮影いっちゃいましょうか。」

「また校外でいいよな?」

「たまには校内の写真を撮りませんか?」

「確かに、今までは外に撮影場所が偏っていたな。」

「それに、私はまだ入学したばかりなので、まだ行ってないところがあるんです。」

彩女は途中入学者だ。高校生から宮代学園へ入学したので、それまでまだ一ヶ月しか経っていない。だから、校内の仕組みがまだ不十分なのである。

「じゃあ案内も込みで校内撮影にしようか。」

「他の人たちが遅れて到着した時にどうします?」

この2人以外にも写真部員はいる。それぞれの理由で、参加は限られてきているが。

「置き手紙をしておこう。『本日の活動内容は校内撮影。着いたら合流してください。』…よし、これを机に貼っておこう。」

「黒板に貼ったほうが目に入りやすくないですか?」

「いや、荷物は机の近くに置いてるからな、こっちの方が分かりやすい。」

幸太は机の上に手紙を貼った。

「それじゃ行くぞ。」

「はーい。」



写真部の部室は活動棟の3階の右端の部屋に所在する。ちなみに隣は美術部である。

二人共、3階の廊下を利用して撮影の練習をしていた。

パシャパシャと、一眼レフの心地よい音がリズムよく立っていた。

「ねぇ先輩。」

「何だ。」

「いい加減校内撮影止めません?」

二人は部室を出てから一時間近く校内撮影を続けていた。

同じ風景をずっと撮影しているので、写真を撮る手も雑になっていた。

「しかし、残りは外ということになるが…」

「隣の美術部の方々に撮影許可をもらいましょうよ。」

「何度も言っているが、それはできないんだ。失礼に当たるからな。」

「どうして失礼なんんですか。当日ですけど話くらいは聞いてくれますよ。」

彩女は校内撮影に飽きていたので、ここで新しい撮影機会を得るために、必死に食い下がってきた。

しかし、それに対して幸太は「どうしてかと言うとだな…」と言って続ける。

「実際の社会でもそうだが、当日にアポを取るのは失礼に当たるぞ。せめて前日に撮影許可を取らないと、常識のない人間に見られてしまうからな。」

幸太は首を振って答えた。

その答えに彩女はため息をつき、「先輩はブレませんね。」と続けた。

「ルールは絶対だ。ここ重要。」

「はいはい。分かりましたよ。」

「はいは一回。」

「親ですか先輩は。」

彩女はじとっとした目で幸太を見た。

幸太の手は、完全に撮影から離れていたからである。

「…まぁ、同じ場所でずっと撮影することに関しては、飽きてきたのは認めるが。」

「じゃあせめて、外に行きませんか?外なら許可とか、いらないでしょ?」

彩女は上目遣いで幸太を見た。別にぶりっ子というわけではない。

幸太の方が身長が高いからそうなっているだけである。

それに対して幸太は目線をそらして答えた。

「人が映らなければ、問題ないと思う。」

「やった!」

彩女の顔に笑顔がはじけた。

「じゃあ、早速外に「キャァァァァァァァ‼︎‼︎」 何だ⁉︎」

校舎内に、悲鳴が木霊した。

「園田、今の悲鳴どこから聞こえた⁉︎」

「え…多分この校舎の1階くらいから…」

彩女は耳がいいため、小さい音でも聞き取ることができた。

声がした場所を聞いた瞬間、幸太はすぐに動いた。

「よし行くぞ‼︎」

「ええ‼︎先輩、外の撮影はどうするんですか⁉︎」

「悪い今は後にする‼︎お前は部室で待っててくれ‼︎」

幸太は急いで階段を下りていく。

急に取り残された彩女は、急展開過ぎた状況に理解が追いつかず、その場に立ち尽くすのみだった。




1階入口には、生徒二人がもめていた。

女子生徒が持っているバッグを男子生徒が引っ張っているような形になっていたため、幸太は瞬時にしの状況を理解した。

--窃盗だ、と直感的に感じた。

「そこで何してるんですか⁉︎」

「ッ‼︎」

幸太に気づいた男は、盗ろうとしていたバッグから手を離して外に逃げていった。

幸太はその場にへたり込んでいる女子生徒に話しかける。

「何があったんですか⁉︎」

「あの人が、私のバッグを盗もうとしてきたんです‼︎」

女生徒が指差した方向には、男子生徒の姿は消えていた。

昇降口へ出てあたりを確認するが、それっぽい人影は見当たらなかった。

幸太は転んでいる女生徒の元へ戻り、手を差し伸べた。

「逃げられました。怪我してませんか?」

「ええ、大丈夫。ありがとう。」

女生徒は幸太から差し伸べた手に「立てるから大丈夫です。」と言って拒んだ。

女生徒が落ち着いたところで、幸太は何があったのかを改めて聞き始めた。

「いったい何があったんですか?」

「私が帰ろうとして降りてきた時に、あの男の人が後ろから来て、私のカバンを持って行こうとしたんです。」

やっぱり盗みをしようとしたのか、と幸太は顎に手を当て考える。

「失礼ですが、あの男の顔を知っていますか?」

「……知りません。」

女生徒は顔を俯かせて答えた。

(何を盗む気だったのかは知らないが、立派な校則違反だよな、これ。)

当然、盗みを働くことに関しての校則も存在する。

暫くの沈黙の後、幸太から先に話した。

「このことを風紀委員会に相談しましょう。その方が確実に捕まりますよ。」

「でも…面識もない相手をどうやって…。」

その疑問に対して幸太は「大丈夫ですよ」と言って女生徒の後ろを指さす。

「管理体制がしっかりしている学園ですからね。監視カメラも至る所にあるんですよ。そしてこの映像は風紀委員会の監視室で見られてます。被害報告すれば確認してもらえますよ。」

「……‼︎」

幸太は何回か(悪い意味ではなく)風紀委員会に世話になっているため、少しばかり顔が効いているのである。

今の情報は普通の生徒はあまり知らない情報であるため、女生徒は驚きの表情を見せた。



幸太は今から風紀委員に報告しようと考えていたが、辺りが暗くなってきていることに気がついた。

もう少し時間があればすぐに風紀委員に報告と行きたかったのだが、相手は女性ということもあって、報告は明日にすることにした。

しかし、ここで幸太はあることに気づく。

(やべ…。園部を忘れてた…‼︎)

急ぎ足で部室に戻る。

部室に入ると、一人机に向かって何やら書いている彩女が一人で待っていた。

「あ…えと、園部?」

「ああ、先輩、帰ってきてたんですか?てっきり二度と戻ってこないのかと思いましたよ。」

この言葉を聞いた瞬間、幸太は「やばい…。」と思った。

「そんなところに立ってないで、こっち来たらどうですか?」

「いや、俺の椅子が無いから座れないかな〜なんて…。」

「何言っているんですか。座る場所ならそこにあるじゃないですか。」

彩女はニコニコしながら床を指差した。

「いや…できれば床じゃなく椅子に座りたいなぁ…と」

「へぇ〜、撮影のことをすっかりと忘れていて、挙句、私のことも忘れていた人が、よくもまあそのようなことを言えますね〜♪」

「ご、ごめんって…。」

彩女のあまりの迫力に後ずさりする幸太。

彼女の醸し出す雰囲気に押され、思わず床に座って頭を下げた。

「わ、悪かった‼︎今度はちゃんと活動するから‼︎」

「…もう後輩の事を忘れません?」

「絶対‼︎天に誓って忘れないから‼︎なんとか気分を戻してくれ‼︎」

必死すぎる謝罪を見て、彩女は微笑した。

そして、「はい。じゃあ次から気をつけて下さいね。」と言って幸太の椅子を差し出した。

幸太は「もう園部を怒らせることはしないでおこう…」と心の中で固く誓っていた。

差し出された椅子に座ると、彩女は一冊の本を幸太に渡した。

「今日は先輩が部日誌を書いてください。私のことを忘れてた罰です♪」

にっこりとした笑顔で日誌を渡してくる後輩に、幸太は真面目な顔をして答えた。

「謹んでお受けいたします。」



【宮代学園 写真部 活動記録】

5月13日(月)  晴天

参加者  山本幸太 2年

     園部彩女 1年

活動報告

本日の活動は校内撮影を行いました。目的は、廊下の撮影を行い、奥行きの撮影技術を向上させて、今後の撮影に生かそうとする意図があります。しかし、参加者が上述の通り2名しかおらず、しっかりとした活動は行えませんでした。他の部員は何をしているのでしょうか。特に部長とか部長とか部長とか。

追伸:本日の活動の午後4時ほどにて、昇降口で盗難未遂とみられる事件が発生しました。明日、風紀委員に報告しようと考えています。『盗難』は、本校校則第23条に記されているとおり、見つかれば最低で2週間の雑用、最大で一ヶ月の雑用または留年という罰が降ります。直ちに犯人を見つけ、被害を最小限に抑えるように努力します。

                                山本幸太


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