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これが我らの部活日誌  作者: 無良独人
第2章-お嬢様の悩み-
13/13

商業区の隅のラーメン屋

就活が9割方終わってきました、更新速度を戻していこうと思います。

和佳奈を体験入部として迎え入れた翌日、部室内で幸太は悩んでいた。

「……どうしたものか。北條さんが体験で来てくれるとはいえ、本題の部員問題はまだ解決してないぞ。」

現在の部員数は3名。部長の秀に、幸太、彩女。そこに和佳奈が入って来れば、条件である部員数5名はクリアできる。

「他にツテは……無さそう。なんで俺、友達いないんかなぁ。」

「だいぶ今更ですね先輩。友達がいないのが先輩でしょうに。」

「ひどない?一応俺先輩なんだけど……。」

「事実でしょうに。」

「辛辣。」

部室にて談笑?する幸太と和佳奈。それとは別に、今日は和佳奈が遊びに来ていた。

その和佳奈は、昨日から借りているカメラを持って部室内を右往左往している。

窓から見える景色、幸太と彩女、ロッカーの中、机の下、彩女のスカートの中を撮っていく。

「……何してるのかな北條さん。」

「何って、撮影ですけど。」

「そんなところ撮影しなくていいの‼︎いったいどういうつもり⁉︎」

「……お近づきの印にと思いまして」

「何のお近づきですか、そんなことに使うならカメラ没収しますからね‼︎」

「ケチ」

「何か言いました?」

「言ってません。」

一方の北條和佳奈はカメラを持ち歩いて以降、校内のありとあらゆる場所の撮影に向かった。

写真のことを気に召したようで、幸太は少しだけ嬉しい気分になった。

ただ一点、幸太は和佳奈に対して疑問を抱いていた。

「なぁ北條さ「それでは私、外の写真を撮ってきますわ。」……。」

幸太が和佳奈に話しかけようとすると、どこかに行ってしまうのである。

「……なんか俺、避けられてる?」

「明らかに避けていますね。」

様子を見ていた彩女が幸太に話しかける。

「俺、北條さんに何かしたっけ。」

「ん〜〜〜、私はわかりませんね。もしかしたら先輩、自分で気づいていないだけで本当は北條さんに何かしたんじゃないですか?」

「いや、心当たりが無いんだがなぁ……。」

「うぅぅぅん」と唸り、過去を回顧する幸太、しかし当然、検討なんてつかないのである。

「すまないが、もし北條さんと話す機会があったら、それとなく聞いてみてくれ。先輩と話さない理由は何かあるのか〜?って。」

「え?珍しいですね先輩。人の評価を気にしない先輩が北條さんのことを気にするなんて。……もしかして、北條さんのこと「そんなわけはない。」」

彩女の理論が飛躍してしまう前に、幸太は飛躍し始めた理論を制した。

(こうなると止まらなくなるんだよなぁ。)

彩女の妄想癖に、幸太はよく困らされてきた。

どうしてそのような考えになるのか、幸太はミリ単位で理解できないでいるが、それを言うとなぜか和佳奈が怒ってくるので、あまり言わない。

「もしかしたら同じ部の人間になるかもしれないんだから、仲良くしといたほうが効率的だろう、だから今のうちに避けられている理由を知りたいんだよ。」

「まぁ、そういうことなら……。」

彩女はまだ納得いってない表情をしているが、ぐっと堪え幸太からの願いを承認した。



今日中の活動が無事終わり、辺りが暗くなり始めた時、各々がそれぞれ寮の自室に帰っていった。

幸太もたった今、自分の部屋に帰ってきたのである。

時刻はすでに6時半。

夕飯を作ろうと棚を開けたその時、幸太はあることを思い出した。

「しまった……、カップ麺が無い。」

いつもなら買い置きしているカップ麺が底をついており、買ってこなければならないのに忘れていたのである。

「仕方ない、商業区で安く済ますか。」

幸太は自宅に戻って早々、財布を持って再度出掛けさせられるのだった。



宮代学園を見て東にある商業区には、様々な建物が立ち並ぶ。

学園と提携しているこの区には、生徒の就職において有利になるよう、会社のオフィスや、和食、イタリアン、中華様々なお店が並んでいる。

平日休日ともに賑わいを見せるこの区は、すっかり宮代学園の生徒の心の安らぎとなっている。

学生証を見せれば学割が効き、アルバイトも行うことができる、まさに宮代学園の一部と言っても良い区である


そんな中で幸太は、まだまだ活気あふれる商業区の中を一人でうろついていた。

「んー、安いラーメン屋が見つからない……。」

学割を使えば500円で買えるラーメンだが、幸太にとってはそれは高い出費なのである。彼もまた、金銭面での問題は多かった。


商業区をうろつき始めて30分が経過しようとしていたが、幸太は未だに意中の店を見つけることができず、道という道をうろついた。

安いラーメン屋が見つからなさそうだと、いい加減あきらめ雰囲気な幸太は、歩いて行くと、細い道の中に明かりのついた場所を見つけた。

「こんなところに店なんてあったのか。」

近づいてみると、そこはよく見たらお店で、扉の前には簾が引っかかっていた。

来夢らいむ》と書かれた店は、辺りの繁華街から離れた小道に申し訳なさそうに立っていた。

「よし、今日はここにしよう。」

なんの躊躇もなく、幸太はこの店の中へ入っていった。



店の中に入ると、そこには客も店員も一人もおらず、さらには天井の隅に蜘蛛の巣が張ってあるという、店と呼ぶには最悪の環境だった。

(……これは確かに誰もこないわけだ。)

食事をする環境とは思えないほど汚かったので、幸太は思わず絶句してしまった。

悪すぎる環境だったため、幸太はこの店から出て行こうと思った。

しかし、少しばかり行動が遅かった。

人の気配に気づいたのか、厨房の奥から足音がした。

「いらっしゃいませ〜。」

中から出てきたのは、髪型がベリーショートの小さな女の子だった。

「おひとりさまですか〜?」

「え、あぁはい。そうです。」

「ようこそ、ラーメン店らいむへ‼︎お好きなところに座っちゃってください‼︎」

「し、失礼します。」

幼女?から接客を受けた幸太は、まだ状況が読み込めないのか、受け答えがたどたどしくなってしまっている。

「これ、お水とおしぼりです‼︎」

「あ……ありがとう。」

「どういたしまして‼︎」

向けられる天使スマイル。

「えーっと、君一人なの?」

「はい‼︎そうです‼︎」

「そ、そう。ちなみにラーメンが食べたいんだけど、親御さんはもしかして留守?」

泣かせないように言葉に気をつけながら、幸太は目の前の少女に向かって話しかける。

極力笑顔で。顔ひきつってるけど。

すると、少女は複雑そうな笑顔を浮かべ、話した。

「お父さんは今、寝込んじゃってて……」

「そうなんだ、じゃあ今日はお店お休み?」

「いいえ‼︎私がラーメンを作るんです‼︎」

少女はえっへんと胸を張って答えた。

「君が?大丈夫なの?」

あまりに心配そうに聞く幸太、

それを察したのか、少女は不満げに答えた。

「大丈夫です‼︎私、ちゃんと作れますから‼︎」

かなりの自信がある様子で、少女は厨房の中に入っていった。

幸太はそれを心配そうに見るだけだった。

「……んしょ、ん〜しょ……。」

厨房の中から道具を取り出していく少女だが、重たそうなものをギリギリで持ち上げていく。

足がプルプルしているのが見てわかる。


「……手伝おうか?」

思わず幸太は助力をしようとした。

「いいえ‼︎お客様にご迷惑をかけてはいけませんから‼︎」

少女は元気いっぱいの笑顔で答えた。

なんと健気な生き物なのだろうか、幸太は思わず涙をこらえた。

(なんだこれ、可愛い……。)

幸太ははじめてのおつかいに自分の子供を行かせる気分になった。

なんというか、非常に危なっかしいが、頑張ってという応援はしたくなる、そのような感覚である。


厨房では、せっせと少女がラーメンを作るべく奮闘している。

(そういえば、味を伝えてなかったな。)

「ねぇ、君。」

「はい‼︎なんでしょうかお客様‼︎」

「このお店は、何味のラーメンがあるの?」

「ああー‼︎聞き忘れていました‼︎」

「うん、僕も伝え忘れてたよ、今からでも言ってもいいかな?」

「すみませんお客様、もう私、塩ラーメンのつもりで作っちゃってました……。」

「しゅん……」と、明らかに少女は落ち込んでしまった。

泣き出してしまいそうな表情に、すかさず幸太がフォローに入った。

「だ、大丈夫大丈夫‼︎僕も塩ラーメンにしようと思ってたから‼︎いやー、以心伝心できて嬉しいよ〜。」

「本当ですか‼︎よかった〜。」

落ち込んだ顔が、みるみる嬉々とした表情に変わっていった。

コロコロと表情が変わって、本当に元気な女の子である。


女の子が具材を切り始めたので、話しかけて包丁で怪我させては良くないと察した幸太は、店の中を一回りしてじっくりと眺めた。

ラーメン屋で良く見かける、メニュー表などが見当たらず、何を作っているのかもわからないほど、ホコリや染みがついてしまっており、まさに「寂れている」を体現するようだった。

どうしてこんなにまで店内が汚くなってしまったのか、また、父親は寝込んでいると入っていたが、では母親はどうしたのかがすごく気になってしまう。

母ももしかして寝込んでいるのか、それとも不在なのか。

どちらにしても、子供が厨房に出て作っているのは異常である。

その子供に料理を振る舞ってもらっている自分も、考えているうちにやはり申し訳なく思ってきてしまった。

「塩ラーメン完成しました‼︎」

と、考え込んでいたら、いつの間にかラーメンが完成したようだ。

少女は器を持って机に乗せようとする……が、身長が届かないようだった。

それを見た幸太は、少女のほうに駆け寄って行き、直接器をもらったのだった。

「すみません、ご迷惑をかけてしまって……。」

「大丈夫、作ってくれてありがとうね。」

「はい‼︎」

(ううん、可愛い。)

さっきからこの女の子の一挙手一投足が危なっかしくて目が離せない。

と、幸太は実際には違う感情を隠しながら思ったのだった。

器を受け取り、さっきまで座っていた椅子に戻る。


実際の店では出せない程のかなり不格好のラーメンだ。

ネギやチャーシューが完全に切れていない部分もあり、通の人たちにこのラーメンを出したら怒られるんだろうなぁと思ってしまった。

だが、不思議と嬉しい感情が、幸太の中で溢れた。

これは、どこの店でも味わえない感情だ、そのように幸太は思った。

「いただきます。」

「召し上がれ‼︎」

幸太は一口、麺を啜った。

少女は期待に目を輝かせているようだ。

どうも感想が聞きたいらしい。

「うん、美味しい。」

「やったあ‼︎」

自分の望み通りの答えだったのか、少女は嬉しそうに飛び跳ねた。

(だからそういう……)

仕草が可愛いと言いたかったのだろうが、幸太はその感情を思う前に二口目のラーメンをすすっていく。







気がつくと、器の中にはスープしか残っていなかった。

かなり夢中になって食べていたのである。

そして、最後の残りのスープを一気に飲み干していった。

「ごちそうさまでした。」

手を合わせて一礼をする。

お会計を済まそうと女の子を探すが、どこに行ったかがわからない。

「お客様、夢中で食べてくれましたね‼︎」

声がした方を向くと、隣の席に少女が座っていた。

次に時計を見てみると、気がつけばラーメンを食べ始めてから20分近くが経過していた。

「美味しかったよ、ありがとね。」

「はい‼︎こちらこそありがとうございます‼︎」

キラキラと、少女の笑顔が眩しい。

「お会計がしたいんだけど、ラーメンはいくら?」

「500円です‼︎」

「ワンコインってかなり良いなぁ、はい、これね。」

幸太は500円ではなく、千円札を渡した。

それに対して、少女はお釣り分を渡そうとする。

「お釣りの500え「お釣りはいらないよ。」」

少女が言い終わる前に、幸太は口を挟んだ。

「それは君が一生懸命に作ってくれたお礼。大事に持っておいて。」

「でも、それじゃお客様に申し訳ないです‼︎」

「ううん、君はそれくらい頑張ったんだから、評価されて当然だよ。」

幸太は少女の指を手に取った。

そこには幾つかの痣や傷を抑える絆創膏がいくつも貼ってあった。。

そして、人差し指に痛々しくできてしまった傷を示す。

「これ、今回でできた傷だね、痛いだろうから治療してあげるよ。このくらいしかできなくてごめんね。」

幸太は財布の中から常備している絆創膏を取り出した。

「あの‼︎……ありがとうございます。」

少女の手を、水洗場で消毒して、絆創膏を手際良く貼っていく。

「こっちこそありがとね、また来るね。」

絆創膏を貼り終えた幸太は、店の扉に手をかける。

すると、「ありがとうございました‼︎また来てください‼︎」と、元気の良い声で送り出された。

幸太は定期的にこの店に来ようと、思ったのだった。


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