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これが我らの部活日誌  作者: 無良独人
第2章-お嬢様の悩み-
11/13

裏お嬢様モード

休憩室から出ようとしたところ、彩女は和佳奈に捕まってしまった。

その対峙と同時に、授業の開始のチャイムが鳴った。

「じゃあ、私は授業に行かないと……。」

そろりそろりと教室に戻ろうと考える彩女だったが、あえなく、進路を塞がれてしまう。

「待ちなさい、授業なんてどうでもいいわ。それよりも私はあなたに聞きたい事があるの。」

「私は早く戻りたいかな〜……なんて」

ガンッ‼︎と、和佳奈は壁を蹴って威嚇とともに通さない意思表示をした。

「いいから私の話聞きなさいって〜、ほら、個室に入りなさい。」

強引に彩女の腕を引っ張ったかと思うと、そのまま空いている個室に入れられてしまう。

強引に叩き込まれた彩女は、個室の壁際まで追い詰められてしまった。

さらにその上から和佳奈が彩女を壁ドンするような形になり、もはや逃げ場はない状況である。

「単刀直入に聞くわ。あんた、さっきの私の話聞いてたでしょ。」

もう逃げ場はどこにもないと彩女は悟った。

もう正直に話そう、なんかこの人は、敵に回してはいけない気がすると、彩女は直感的にそう思ってしまった。

「何か独り言を言ってたくらいから聞いていました。」

「そう、やっぱり聞いてたのね。」

和佳奈は少しだけ下を向き、目を閉じて考え込む。

「私の本性を知ったからには、あんた、私に協力してもらうから。」

「え?」

「聞いてたんでしょ、私の独り言。ハッキリ言うけど、私はこっちが本性なのよ。教室であいさつした時の礼儀正しくて品行方正な私は偽物の私なの。」

「そんなことぶっちゃけます?」

「いいのよ、私が今話したいのはその事じゃないし。」

和佳奈は一呼吸置いてから話した。



「あんた、私と一緒に部活の勧誘を断るの手伝って。」


「え?勧誘を?」

「そう。」

「……そんなので大丈夫なんですか?」

「私にとっては重要よ。さっきも言ったけど、私は表向きは高貴なお嬢様を装ってるんだから、そういうこまごまとした事にも気を配らないと私の評判に関わってきちゃうじゃない。」

「そ……そうなんですか?」

「そうよ‼︎」

和佳奈は興奮した様子でさらに口調を強める。

「ほんと、どうして私がこんな事をしなくちゃならないのかしら。変なお嬢様になんかなるもんじゃないわね。」

「お嬢様?」

和佳奈から出てきた言葉に思わず彩女は疑問を浮かべた。

「あら?言ってなかったかしら。私は、北條グループっていう金持ちの娘よ。」



「……え、えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ⁉︎」


和佳奈から返ってきた言葉に、思わず驚いてしまった。

北條グループとは、明治時代から存在する超巨大グループ企業であり、知らない人はほとんど存在しない超有名財閥である。このグループでの総資産は国に匹敵するとまで言われており、国が出す国家プロジェクトも、裏ではこのグループが操っているのではないかとも囁かれるほどである。

なお、宮代学園を創設するときにあたる出資額はこのグループが過半数を出資している。

「今は、学校の計らいで私が北條グループの娘だって事を内緒にしてもらってるわ。」

「なんでまたそんな事を……?」


和佳奈は深く深呼吸をして、言った。

「楽しめないに決まってるからじゃない‼︎」


「ええっ‼︎」

急な大声の反撃で思わずビクッとする彩女。

「私は、純粋に一生徒として学校生活を謳歌したいの‼︎それなのに父様ときたら、私が心配だからって理由で学校にもSPをつけてくるんだもの‼︎それじゃあ普通に学校生活を楽しめないじゃない‼︎」

「え、ええ……。」

「前の学園では、私を特別扱いする人しかいなくて、みんな私に近づこうともしないんだもの。だから転校してきたのよ。」

「でも、北條グループはうちの生徒でもほぼ全員知ってるよ?」

「この学校は先生より生徒の方が主体らしいじゃない。私から先生に言って口止めさせているわ。」

そう言って和佳奈は右手で親指と中指で輪を作った。

「……ってお金なんだ⁉︎」

「買収するのに手っ取り早いのよ。」

やっぱりぶっ飛んでる……彩女は深くそう思った。

「でも待って、それと今回の部活の勧誘を断るのと何が関係してるの?」

「はぁ?ここまで言ってわからないの?しょうがないわね。」

「だって普通の生徒になりたいんだったら、部活の勧誘を受けてどこかに所属して部活動を楽しめば普通の生徒と同じ事できると思うのに、それを断っちゃうんですよね?」


「話しかけてきた部活は、ほとんど運動部だからよ。」

「運動部はダメなんですか?」

「ダメに決まってるわ。あんな脳筋ばかりの部活に入ったら、私はマネージャーとかいう男に奉仕する役になるに決まってるじゃない。」

「ものすごい危ない部活になってます‼︎運動部ってそういう部活じゃないですから‼︎」

「ほとんど同じようなものよ‼︎どうして私がただ球技や運動しているだけの男におにぎり作ったり世話したりするんでしょ。そんなの興味ないわ。」

「では女子の運動部に入るというのは」

「一通り小さい頃にスポーツやらされたから、却下。」

確かのこれじゃあ運動部は務まらないなぁと、彩女は思ったのだった。

となると次はこの案しかない。

「……じゃあ文化部って事になると思うんですけど。」

「それもないわ」

「即答⁉︎」

「文化部ってただじーっとしてるだけの部活でしょ?私には合わないわ。」

「もう疲れてきました……。」

とてつもないわがままを聞かされた彩女は、もうお手上げと言わんばかりにうんざりとし

た表情である。

諦めようと思った彩女は、絞り出した最後の質問をぶつけた。

「じゃあ逆に聞きたいんですけど、どういう部活動ならしたいと思えるんですか?」

「私が楽しいと思えばその部に入るわ。」

「難しすぎます‼︎」

「何でよ‼︎私が楽しいと思えばいいのよ‼︎そんなの簡単なことじゃないの‼︎」

「あなたはです‼︎でも私にとっては難しすぎます‼︎運動部も文化部もダメなら、もう入る部活動なんてないに決まってるじゃないですか‼︎」

互いに息を荒げて行われる舌戦。

ノーガードの打ち合いは、しばらく続いた。

二人が疲れてきた頃、完全に諦めた彩女は疲れた表情で答えた。

「わかりました、とにかく部活を探すことに協力しますよ……。」

「それでいいのよ。」

「納得いかないけど……。」

ここでふと、彩女は時計に目をやった。

時刻はすでに10時になっており、一時間目の授業の終了時刻でもあった。


つまり、一時間目終了のチャイムがなる時間である。

「……。」

彩女は呆然とした表情で時計を見つめていた。

「授業、終わったわね。」

横で和佳奈がふん、と鼻息を鳴らす。

現状を再認識した彩女は、その場で膝から崩れ落ちるのだった。



ようやく和佳奈との喧騒から解放された彩女は、部屋の隅の自席から和佳奈の様子を眺めていた。

当の和佳奈本人は、転入早々ということもあり、各人に囲まれていた。

「北條さん、さっきの授業いなかったけど大丈夫だった?」

「ええ……実は私、幼少の頃から体が少し弱く、新しい環境になってしまうと眩暈が度々起こってしまいますの。」

「え‼︎大変じゃん和佳奈さん‼︎何かあったらいつでも俺らに言ってくれよ‼︎」

「ええ、皆さんのお心遣いに感謝いたしますわ。」

和佳奈から繰り出される一挙手一投足の優美さに気をとられる周りの生徒たち。

心なしか、クラスのみではなく、他のクラスの人たちまでも様子を見にきているようだった。

しかし、本性を先ほど知った彩女は頬杖をつき思っていた。

(裏と表が違いすぎる……。何枚猫かぶってるつもりなのあの人……。)

和佳奈の行動や言動全てが演技だと思うと、よくもまぁあそこまで自分を偽ることができるなぁと感心する。

(誰だって本性は隠したがるのはわかるけど、北條さんのは異常よ……。)

思想に耽っていると、偶然なのか輪の中心にいる和佳奈と目が合った。

しかし、それに気づいた彩女は思わず視線をすぐにそらしてしまった。

(あんなことあったからか、やっぱり顔見づらいなぁ……。)



先ほどの休憩室の時点、一通り話を終えたときに、休憩室から出ようとした時である。

和佳奈は、彩女の顔を覗き込み、ドスの効いた声で彩女を脅す。

『バラしたら覚悟することね。グループの力を使って、あなたを学園から消し去るから。』


(怖いいいいいいいいいいい……。)


彩女はその出来事以降、完全に主従が決まってしまったかのように、和佳奈と目が合うたびに視線をそらしていた。


当然視線をそらされるので、和佳奈は避けられていることに勘づいているのである。


その後は順調に時間が過ぎていった。

ただし、昼食までは、である。

「園部さん、せっかくですから、私と一緒にお食事でもしませんか?」(断ったらおめーどうなるか分かってんだろうな。)

「う、うん……いいよ……。」

彩女は何か威圧をかけられているような感覚を受け、必然的に承諾してしまう。

「北條さーん、こっちで食べないの〜?」

とある女生徒たちが、和佳奈に声をかけた。

やはり転校初日というだけあって、クラス中のみんなが興味津々なのである。

しかし、その誘いを和佳奈は丁重に断った。

「ごめんなさい、今日はこちらの園部さんと昼食をいただきますわ。また明日にでも誘ってくださいまし。」

「いいなぁ園部さん、北條さんを独り占めできて〜。」

「そ、そんなことない……。」

「うふふ、では皆さん、失礼しますわ。」

彩女は、和佳奈と一緒に教室の外に出された。

当然、和佳奈が彩女を入れたのは、先ほど一悶着行ったあの部屋である。

部屋に入れられた瞬間、彩女はたちまち角に追いやられる。

「そんなに避けないでもらえるかしら。」

「無理です怖すぎます……。」

「失礼しちゃうわ。この私と目線が合ったのだから誇りに思ってくれていいのに。」

「もぉやだぁこの人ぉ。」

「しばき回すわよ。」

しっかりと裏女王モードの和佳奈は口調も行動も全てが野生化していた。

「本題に戻るわ。どうやったら部活の勧誘を断れるのかしら。」

彩女を角においやるのをやめ、彩女が座る場所の向かいに腰を下ろした。

「嫌なら嫌って、素直に言えばいいじゃないですか……。今のままの状態で言えばきっとすぐにわかってもらえますよ……。」

「嫌よ、それは私が許さないわ。」

「わかりません、北條さんの基準が……。」

「とにかく、私は他の奴らが私に持つ高貴なイメージを崩さずに丁重に断りたいの。」

「だったら……さっきの状態で断ることだってできるはずです。私と昼食を食べる時に丁寧に断ってたじゃないですか。」

和佳奈は今は裏モードで言葉の雑さはあれど、有名グループ会社のお嬢様ということもあり、言葉遣いも丁寧に正されたのである。

それは、表モードのときにしっかりと出来ていた。

そのことを和佳奈に思い出させる。

「私から聞いたら、表の顔の時の口調はおしとやかそのものでした。なので、表モードのままで断ることができたら、イメージを保ったまま断れると思うんですけど……。」

「あの口調、変じゃなかった?」

「全然。かなり丁寧でしたよ?」

「そう、きっと私の感覚が麻痺してるのね。」

「?どうしてです?」

「前の学園が格式ある学園だったから、私よりも言葉遣いが丁寧な奴らばかりが集まっていたのよ。その中だったら私の話し方は下の方だと思うわ。」

「うへぇ……。」

「正直、私のしゃべり方はあまり丁寧だとは思わないけど、試してみる価値はありそうね。」

「まぁ多分ですけど……。」

自分の話し方にイマイチ自信が持てない和佳奈は少し考えた。

しかし、すぐに結論を出したのである。

「とにかく、やってみるわ。」


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