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これが我らの部活日誌  作者: 無良独人
第1章-オープニング-
1/13

プロローグ

「新法案を定めます。」


その言葉に、国民全員は耳を傾けた。作業中の人も、遊んでいる人も、全てがテレビの中の人物に釘付けである。

天皇は続けて話した。

「我が国は少子高齢化の影響から、将来人口が減少するとみられています。また、借金、赤字が膨大に膨らみ、このままでは財政破綻が起こってしまいます。」

日本は少子高齢化の影響で、年金が払えなくなり、財政的に困っていた。

それは日本国民全員の知っていることだった。

「我々は、これらの打開策の議論を重ねてきました。そして、ある考えにたどり着きました。」



「それは、子供を社会貢献されればよい、ということです。」


真面目な顔から言われた言葉はとんでもないものだった。テレビ中継を見ていた国民は困惑した表情を見せた。

天皇は間をおいて、真剣に言った。



「ここに、『未成年社会適用法』を公布します。」


2010年、季節の変わり目になる2月に国の歴史に残る出来事が起こった。





校舎の中を、二人の生徒が後ろを振り返りながら鬼気迫る表情で走っていた。

一人は耳にピアスを開けた金髪で、もう一人はブレザーのボタンを止めておらず、金色のネックレスを首からかけていた。いわゆる『不良』と呼ばれる部類である。

「おい、急げ!捕まったら一貫の終わりだぞ!」

「チクショウ!どうして場所がバレたんだ!」

二人は全速力で逃げていた。やがて校舎の端まで追い詰められてしまった。

「クソッ、行き止まりだ!」

「いや、窓から出て外に逃げるぞ!」

「外は開けてるがしょうがねぇ!」

この二人は校舎内でタバコを吸ってしまい、風紀委員にその現場を目撃されて、逃げているというわけだ。

「時間がない、出るぞ!」

二人が外に出た時に、人影が通り過ぎるのが見えた。

見た目はいかにも大人しそうな感じで、制服も着崩しているところは全くない、黒髪黒目で黒ぶち眼鏡をかけた男だった。

その男を見た時に一人が、ひらめいたというような表情を見せた。

「おい、アイツに足止めをしてもらおうぜ。」

「は?どうやって。」

「簡単だよ、アイツに俺らの居場所の嘘の情報を伝えるんだ。そうすれば、簡単に風紀委員のやつらを撒けるはずだ。」

「なるほどな、確かにそれなら逃げ切れる気がするぜ。」

二人は悪い笑いを浮かべ、作戦を実行した。

「おい!そこのお前!」

「はい?僕ですか?」

静かそうな男は、大きな声で呼ばれ驚いたように二人の方を向いた。

「俺たち今、風紀委員に追われてんだ!」

「時期に追って来るヤツらを撒くのを手伝え!」

「風紀委員に追われるって、いったい何をしたんですか?」

急なことでいまいち状況を読めない様子の男は、慌てる二人に聞いた。

「実は校内でタバコ」

「おい馬鹿!余計なこと言ってんじゃねぇよ!」

「……タバコ?」

「何でもねぇよ!いいから言った通りにしろや陰キャ!」

「今のも聞かなかったことにしねぇと痛い目に遭わすぞコラァ!」

不良二人が男を捲し立てたため、男は俯いてしまった。

当たり前だ、誰も見ていない状態で不良と呼ばれる存在から左右に言葉責めに遭っているというのに、誰が怖がらないのか。

しかし、男は違った。

俯いたかと思えば、よく見れば独り言を小さく喋っているのが聞こえた。

「ピアス…ネックレス…着崩し…違反」

細々とした声で喋っていたため、不良二人は聞き取れなかった。

「わかったらとっとと行けや!俺たちゃ逃げるから「校則違反だ!」よ……は?」

声を荒げた不良の言葉を遮るように、突然男が大きな声を上げた。

そして、今まで下を向いていた男は顔を上げ、不良二人に向かって大きな声で抗議した。

「いいですか!校内の喫煙は校則第4条第1項にしっかりと禁止条項として記述されています!さらに、ピアスやネックレスも校則第4条第3項に、制服の着崩しにも校則第5条に明記されているはずです!そのようなことを平気で行うあなた方は、風紀委員からの罰則を食らうべきだと思いますが!」

男が大きな声で話し終わると、不良二人は男に近づいて威圧的に言い放った。

「はぁ?それがどうしたよ。」

それに対し、男も負けず相手の目を見てしっかりとした口調で話した。

「おとなしくブタ箱に入れと言っているのです。」

その言葉に、不良二人は憤激し、男の胸倉をつかんだ。

「この陰キャ、言わせておけば!」

「おい風紀委員の前にこいつをボコるぞ!」

「今更謝っても許さねぇからなテメェ!」

不良は男を左右から囲むようにして男との距離を詰めていった。

「調子こいてんじゃねぇぞオラァァァァ‼︎」

「ふぐっ⁉︎」

不良のうちの一人は、男の胸ぐらをつかんだまま男の頬を殴った。殴った時の音はかなり大きい音をたてたため、相当な強さで殴っている。

普通なら一発で泣いてしまうような暴力だが、男はそれとは反対に殴られた後に笑って見せた。

「ついに殴りましたね…」

「てめぇ…何笑ってんだナメてんのか‼︎」

男は殴られた頬をさすりながら淡々と言い放った。

「舐めるなんてとんでもない、僕はたった今あなた方のもう1つの校則違反を見つけただけです。」

「あぁ?」

「これであなた方は『暴力罪』も適用されますね。冷静になって、周りをみて下さいよ?」

すると、もう片方の不良が焦った様子で喋り出した。

「お、おい‼︎やべぇぞ風紀委員に囲まれてる‼︎」

「はぁ⁉︎」

つかんでいた胸ぐらを離し、周りを見渡してみると、そこには風紀委員がつけている腕章をもつ人間が周りを取り囲んでいた。

実際の人数としては20人程度なのだが、めずらしいもの見たさに集まってきた野次馬が一歩下がった状態で周りを取り囲んでいたため、逃げ場所は無くなっていた。

「卑怯だぞテメェ!2人に対してこんなに応援を呼びやがって!」

「卑怯?何をおっしゃいますか…。さっきあなた方は何をしましたか?一人の僕に対して二人で詰め寄ってきたじゃないですか。自分のことを棚に上げて、卑怯を語ってるんじゃないですよ!」

それまで大人しくしていた男は声を荒げ、痛烈に不良2人を非難した。

「これでお終いです。潔く捕まってください。」

この一言が発せられた後、風紀委員が不良二人に向かって言った。

「風紀委員会だ!お前たちを『喫煙罪』及び『暴力罪』の容疑で連行する!」

20人のうちの半分が、不良二人を拘束するため、こちらに向かってきた。もう半分は野次馬の対応をしていた。

2人に対して10人で来られたため、抵抗虚しく不良2人は拘束された。そして、二人は観念して大人しくなった。


そして、二人は風紀委員に連れられて、風紀委員が拠点とする詰所へ連行されていった。


騒動が終わり、周りに集まっていった野次馬は次第に少なくなっていった。

殴られた男は保健委員からの治療を受けていた。

そこに、風紀委員の腕章をつけた男が駆けつけてきた。さっきまでは居なかった、新しい風紀委員だ。

「現場証人として御同行を願いたいのですが、よろしいですか?」

「いいですよ。…って、そんなに畏まらなくてもいいじゃないですか、巡査長さん?」

「今は仕事ですからね。」

巡査長と呼ばれた男は少し笑って答えた。

「しかし、君はいつも騒ぎの渦中にいるね、幸太君。」

「そんなことはないですよ。」

「もう外には出ないでもらっていいかな?」

「人の自由を奪う気ですか。」

お互いに冗談を言って笑い合う。

 先ほど殴られた真面目そうな男は山本幸太という。クソがつく真面目でそれ以外は特徴のない男だ。

幸太とこの巡査長はお互いによく知っている。しかし、友達というわけではない。

幸太が毎回のように騒ぎの渦中にいるので、騒ぎに駆けつけなければいけない巡査長としては毎回のように顔を合わせる、ある意味問題児である。

他愛も無い話をして、巡査長は歩き始めた。

「それじゃあ、現場証人を連行します。」

「言い方悪いですね。」

2人が風紀委員の詰所まで行こうとした時に、背中から誰かに呼ばれた。


「先輩、何かあったんですか?」

「うわぁぁ‼︎」


後ろには誰もいないと思っていた幸太は、思わず驚きの声を上げた。

そこには、可愛らしい髪留めを止めた女の子が1人立っていた。

「園部…いつから居た…。」

「先輩が暴力に遭っていた時からです。後ろにいたのは、周りの人たちがいなくなってからすぐですが」

「結構序盤からじゃないか!もうちょっと存在感出して行こうぜ?」

「私は存在感を少しも消してはいないんですけどね。」

「うぐ…だ、だがこうして気づいたから大丈夫だ!」

「私が声をかけたんですけどね。」

幸太の体に見えない矢が刺さっていくように後輩は淡々と返答していった。


「それで、先輩は今から詰所に行くんですよね。」

「あぁ。ちょっと取り調べをされてくるわ」

「…遅くなりますか?」

「え?いや…どうですか?」

幸太は横にいる巡査長に話が長くなるかを聞いた。

「いや、具体的に現場の話を聞くだけだから、そうだなぁ…10分くらいだと思うよ?」

「だそうだ。それがどうかしたのか?」

「いえ、先輩の帰りが遅いと部室を閉めれないので、いつまで私は待たされるのか気になっただけです。」

「別に待ってなくても、一人で帰れば」

「待 っ て ま す か ら。」

「はい。」

何か迫力を感じた幸太は即答した。

「それじゃ、部室で」と言って、園部という女の子は戻っていった。

その後ろ姿を巡査長は見つつ、横にいる幸太に話しかけた。

「えっと…彼女か何か?」

「違います。部活の後輩です。」

これまた即答だった。

「急かされてるんで行きましょう。すごい圧を感じたんで。」

「そうだね」

巡査長は苦笑し、二人は詰所へ向かった。



巡査長からの質問に一通り答え、部室に戻った幸太はそこで先ほどより不機嫌になっている後輩を見かけ、思わずため息をついてしまった。

「先輩、遅いです。」

「だから先に帰ってればいいって言ったのに…」

「私が帰ったら誰が先輩の荷物を見ておくんですか。」

「鍵かけておけばいいでしょうに」

「この場合の荷物は先輩ですよ。」

「当たりキツ過ぎませんかねぇ‼︎」

荷物をまとめながら話す中で、かなり辛辣な言葉をかけてくる後輩に突っ込む。

それもそのはずだ。なぜなら…

「10分て言っておいて、30分待たされたので、私は心が荒れています。」

「だから帰れば」

「黙ってください聞き飽きました。第一、どうしてこうなったと思ってるんですか?」

「……ごめんなさい。」

後輩からの止まることがない口撃に思わず謝罪する。

平謝りではない、深々と頭を下げた謝罪だ。もちろん、片付けの手を止めての。

後輩は、心配をした表情をして言った。

「…ずっと待っていたんですから。」

その言葉に頭を下げながら返した。

「はい、重々承知しております。」

幸太は顔を上げて真剣な顔で言った。



「帰りは何か奢らせていただきます。」

「デザートのあるお店を所望します。」

話しているうちに片付けが終わり、いよいよ帰ろうとした時に、幸太はあることを思い出した。

「あっ‼︎日誌書いてないわ。」

「それなら私が書いておきました。先輩が居なかったので。」

「マジか⁉️」

「はい。先輩が居なかったので。」

「本当にありがとうございます。」

「もう感謝の言葉はいいです。」

後輩はうんざりした表情を見せて、部室の扉に手をかけた。

「ほら、行きますよ。」

「はいはい。」


二人が学校を出たのは、夕日が沈んだ頃だった。







【宮代学園 写真部 活動記録】

5月9日   晴天

参加者  2年 山本幸太

     1年 園田彩女

活動報告

     校内の風景の撮影に行きました。

     しかし、どっかの写真部の先輩がトラブルに巻き込まれてしまい、それどころで

     はありませんでした。

     部長は今日も来ませんでした。

                           園部彩女


初めまして、無良独人むら ひとりと言います。

初回の投稿ということで少し緊張していますが、これからどうかよろしくお願いしますね。


この小説は連載小説にしていきます。

更新頻度は理想は週一ですが、更新できないことも稀です(笑)。

気長に見てくれれば幸いです。


それでは、再度、よろしくお願いします。

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