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好敵手、現る

 その時だった。

「ロバート! 伏せてろ!」

 怒声と共に、部屋の外から窓ガラスを割って、何かが投げ込まれる。

「えっ、……あ、アデルさん!?」

 この問いにも答える声は無かったが、代わりに投げ込まれた煙幕弾が煙を噴き出す。

 瞬く間に部屋は白煙で覆われ、視界が真っ白に染まる。

「こっちだ! 動けるか!?」

「あ……あひ……あひっ……」

 ロバートの声はするが、位置が動かない。どうやら完全に腰が抜け、歩くことさえままならないらしい。

「しゃーねーなぁ、……だあッ!」

 叫び声と共に、アデルが部屋の中に飛び込んできた。

 それと同時に、銃声が立て続けに轟く。ロバートたちを襲ったものと、そしてエミルからの援護射撃だ。

「うおっ、わっ、ひっ」

 アデルの情けない声が切れ切れに、しかし段々とエミルに近付くように聞こえてくる。

 やがてもうもうと立ちこめる白煙の中から、ロバートを背負ったアデルが飛び出してきた。

「に、逃げるぞ!」

「言われなくても!」

 アデルたちは逃げながら、あちこちに煙幕弾を投げ込む。

 真っ白に染まった深夜のイタリア人街を、3人は大慌てで逃げて行った。


 部屋の中の煙がようやく収まり、その場に残された男は、忌々しげにつぶやく。

「……Zut!」

 握っていた銃の撃鉄を倒し、男はそのまま、部屋の奥へ消えた。




「はーっ、はーっ……」

「追っ手は、いないみたいね」

 どうにか街の外れまで逃げ、3人はそこで座り込んだ。

「……済まなかった、ロバート」

 と、アデルが沈鬱な表情を浮かべ、ロバートに頭を下げた。

「俺のせいだ。お前らをこんな、危険な目に遭わせちまった」

「アデルさん……」

 ロバートも頭を下げ返す。

「俺の方こそ、あんたに折角、期待をかけてもらったってのに、こんなしくじりを……」

「……済まない」

 二人が頭を垂れたまま硬直してしまったところで、エミルが声をかける。

「落ち込んでるところ悪いけど、これからどうするつもり?」

「……」

 アデルは顔を上げるが、口を開こうとしない。

「混乱して、何にもアイデアが思い付かないって顔ね。でもこのままじゃどうしようもないわよ?」

「……ああ、そうだな」

 アデルはのろのろと立ち上がり、数歩歩いて、またしゃがみ込んだ。

「そうだよな、手がかりは見付からなかった上に、敵に警戒されちまった。はるかに難易度が高くなったわけだ。完全に失敗だ」

「アデルさん……」

 未だ泣き崩れているロバートに、アデルは弱々しい笑顔を返す。

「お前のせいじゃない。俺が完璧にしくじっちまったんだ。生きてるだけまだマシだけどな」

「マシってだけよ。このままじゃ任務の遂行なんか、絶対にできやしないわ」

「ああ、分かってる。……と言って、もう一回忍び込むってワケにも行かないだろうな」

「そりゃそうよ。今夜のことで、相手は防衛網を敷いてくるはずよ。

 ほぼ間違い無く、あたしたちは町に戻ることすらできなくなってるでしょうね。下手すると、列車すら止められるかも知れないわ」

「おや、それは困りますな。わたくしの退路が絶たれてしまうではないですか」

 と、飄々とした声が飛んで来る。

「……!?」

「誰!?」

 声のした方へ、3人が一斉に振り向く。

 そこには西部の荒野にはまったく場違いとしか思えない、全身真っ白な男が立っていた。


「お、お前は……!」

「イクトミ!?」

 唖然とするエミルとアデルに構わず、相手は肩をすくめる。

「ご無沙汰しておりました、マドモアゼル。またお会いできて幸甚の至りです」

「な、何がマドモアゼルよ、このクソ野郎!」

 珍しく顔を赤らめたエミルに対し、イクトミはきょとんとした表情を返す。

「おや? もうマダムでしたか?」

「違うわよ! そうじゃなくて、あんたに馴れ馴れしく話しかけられる筋合いなんか無いって言ってんのよ!」

「おやおや、つれないご返事ですな。

 折角、僭越ながらこのわたくしが、あなた方に手をお貸ししようかと思っていたのですが」

「何だって?」

 尋ねたアデルに、イクトミはこう返した。

「いや、わたくしも彼らからいただきたい一品がございましてね。

 しかしその狙いの品物は厳重に、金庫かどこかに収められているようで、ちょっとやそっとわたくしが侵入しても、一向に見付かる気配が無かったのですよ。

 一方――今の今までじっくり観察させていただきましたが――あなた方が探る情報もまた、どこをどう探しても見付からなかったご様子。

 この二つの事柄には何か、符号じみたものを感じるのですが、ね」

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