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「鉄麦」

「嘘でしょ? まさか、そんな……」

 目を丸くして尋ねたアデルに、パディントン局長は真剣な面持ちで、首を横に振った。

「これが嘘や冗談なら――とんでもなく悪質だし、おおよそ紳士の口から出るような内容じゃあ無いが――まだ笑っていられた。だが、本当の話なんだ。

 ゴドフリーは殺された。胸と頭を蜂の巣にされてな」

「どうして……!?」

 顔を真っ青にして尋ねたアデルに、局長は滅多に吸わないパイプを口にくわえながら、淡々と説明した。

「6日前、わたしはゴドフリーに、ある人物の足跡をたどるように命じた。

 人物の名はジョージ・リゴーニ。いや、通り名を言った方が分かりやすいだろう。『鉄麦』リゴーニだ」

「鉄麦、……と言うと、あのリゴーニですか。武器密輸の」

「そう、それだ」

 局長はパイプをくわえたまま、机に置いてあった新聞紙にアメリカの東海岸と、ヨーロッパの図を描く。

「君も知っての通り、リゴーニは国籍上ではイタリア王国系の移民となっているが、実際には父親の故郷とこの国とを、頻繁に行き来している。どちらに本籍があるのか分からない程にね。

 表向きの職業は穀物の貿易商とされているが、ちょっとその道に詳しい者なら誰でも、彼が本当に扱っている『商品』が何かと言うことは知っている」

「ええ。小麦袋の底にコルトをゴロゴロ隠してるとか、トウモロコシの芯を繰り抜いてライフルの部品を埋め込んでるとか、胡散臭いうわさの尽きない奴らしいですね」

「うわさはあくまでうわさだ。そんな子供だましなんてやっちゃいないだろう。

 しかし奴が武器の密輸を行っていると言う話自体は、かなり信憑性が高いと思われる。恐らくはイタリア王国のマフィアに向けてだろう」

「マフィア?」

 聞き慣れない言葉を耳にし、アデルは首を傾げる。

 それを受けて、局長は新聞紙上に描いたヨーロッパの、イタリアの南辺りに丸を付けた。

「昨今台頭しているらしい、シチリア辺りの私兵団だ。

 あの国もようやく南北が統一され、内乱が収まってからまだ十数年かそこらと言ったところだからな。王族や、王国の体制に反発する者がいてもおかしくない。

 しかしそれが事実であれば、我が国において犯罪が行われていることに他ならんし、イタリア王国にとっても直接的ないし間接的に、国際的な不利益を被ることになる」

「と言うと?」

 アデルの問いに答えつつ、局長はイタリアと大西洋に線を引いていく。

「例えば北の人間にとっては、南のシチリアが武器を集め武力蜂起でもしようものなら、ようやく収束した騒ぎがまたぶり返しかねんし、下手をすれば王国の分裂にまで発展する危険がある。そしてそれはイタリア王国全体にとって、対外的な力が弱まることにもなる。

 それが現実化しないまでも、不正な方法でカネと武器がやり取りされていると言うのは、紛れも無く悪評だ。リゴーニを除く他のイタリア系移民にとって彼は、迷惑極まりない行為を繰り返す男だと言うことだ」

「ふむ……。つまり依頼主は、イタリア王国絡みの人間ってことですか」

「そう言うことだ。ただし相当の地位にある人間だから、彼について詳しいことは明かせんがね」

 局長はそこで、アメリカの西部側に丸を付けた。

「依頼内容はこうだ。リゴーニが武器を密造・密輸している事実を突き止め、その証拠をつかみ、可能ならば拘束すること。

 拘束できないまでも、我々が証拠を依頼人に渡せば、リゴーニは1ヶ月と経たずイタリア王国から永久追放の身となり、二度と王国の土を踏めなくなる。そうなれば当然、武器も穀物も卸せなくなる。

 同時にアメリカの当局からも追われることとなり、彼の貿易網は破綻。両国にとって有益な結果となり、ハッピーエンド。そう言う算段だったんだ。

 ところがゴドフリーに捜索させてからたった2日後、彼からの連絡が途絶えた。そして翌日のニューヨーク・タイムズの地方欄に、彼の死亡が報じられたと言うわけだ」

「ってことは」

「うむ。リゴーニは用心棒か何かを雇い、ゴドフリーを始末させたんだろう。

 だがこれにより、リゴーニがクロである可能性は極めて高まったと言える。そこでアデル」

 局長はパイプを机に置き、アデルの両肩をつかんだ。

「君にこの仕事を引き継いでもらう。

 何としてでもリゴーニの悪事を暴き、レスリー・ゴドフリーの無念を晴らすんだ!」

「……了解です、局長」

 アデルは深くうなずき、局長からの命令を受けた。

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