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新たな仲間と、かつての……

「結論から言えばだ」

 ヒエロテレノの戦いから、2週間後。

 アデルたちを前にし、パディントン局長が今回の結末を総括していた。

「今回の任務自体は成功した。

 君たちが発見してくれた地下工場を無事に摘発し、リゴーニによる武器密輸の拡大・継続を防ぐことができたのだからな。クライアントも喜んでいた。ちなみにネイサンの希望通り、感謝状も受け取っているよ。

 だが重要人物、リゴーニ本人の逮捕には至らずだ。地下工場にはおらず、地上にも姿は無かった。どうやら捜査局が来る前に逃げてしまったか、町の異変に気付いて来訪をキャンセルしたらしい。

 一方、そのトリスタン・アルジャンなる人物も、まんまと逃してしまった。つまり残念ながら、ゴドフリーの仇を討つことはできなかったと言うことになる。今回のところはね。

 強調するが、『今回のところ』とだけは、是非とも言っておきたい」

「ええ、全く同感です」

「そして――やはりと言うか、何と言うか――今回、偶然出くわしたイクトミも、結局は逃がしてしまった。そうだな?」

「申し訳ありません。気付いた時には、姿が……」

 エミルが頭を下げかけたところで、局長が制する。

「いや、いいんだ。犯罪者を野放しにしたままと言うのは気分のいいものでは無いが、釣りかけた魚が逃げたと言うだけだ。それを咎めなどせんよ。

 とは言え、だ」

 局長は残念そうに、こう続けた。

「イクトミ。そしてトリスタン。手強い犯罪者が2人、我々の手から逃げおおせている。これは厳然たる事実だ。そして間違い無く、今後も我々と深く関わってくることになるだろう。

 よって、より一層、警戒心を強く持って任務に当たって欲しい。いいな?」

「はい」

「……それと」

 一転、局長は複雑な表情を浮かべ、エミルとアデルの背後にいる人物――ロバートに目をやる。

「まあ、なんだ。人員に空きが1名出ていることは事実だ。代わりを募集せねばとは考えていた。

 しかし、君。我々の仕事は非常にハードで、常に正確かつ良識ある判断を求められる。タフで無ければやってられんし、良心が無ければやっていく資格は無い。

 その覚悟はあるかね?」

「はっ、はい!」

 松葉杖を付いたまま、ロバートは大きくうなずいた。

「よろしい。では今日から君も、我がパディントン探偵局の一員だ」

「ありがとうございます、ボス!」

 局長から任命され、ロバートは顔を真っ赤にして敬礼した。




 数日後の夜。

「じゃ、先に上がるわ。おつかれ」

「はい、おつかれさま」

 その日の当直だったエミルは、探偵局に内側から鍵を掛け、窓にブラインドを下ろし、ニューヨーク・タイムズの夕刊を片手にして、ソファに寝転ぶ。

「ふあ、あ……。さーて、と」

 長い夜を少しでも楽しく過ごそうと、彼女は新聞の家庭欄を探す。

「……誰?」

 と、エミルは新聞をたたみ、振り向きもせずに問いかける。

「こんばんは、マドモアゼル」

 その声を聞き、エミルはようやく振り返り、立ち上がった。

「イクトミ!?」

「ああ、いや、そう警戒なさらず。

 本日は1点確認したいことがございまして、こうして参上いたしました。敵意はございません。ご安心を」

「……何?」

 へりくだるイクトミに、エミルは拳銃を向けずに尋ねる。

「トリスタンが言っていたように、あなたが本当に、エミル・トリーシャ・シャタリーヌであるのかを、です」

「……」

 エミルはしばらくイクトミをにらんでいたが、やがて口を開き――フランス語で答えた。

「Non.Je suis Hemille Minou(違うわ。あたしはエミル・ミヌーよ)」

「Je vous remercie pour de répondre(お答えいただきありがとうございます)」

 恭しくお辞儀し、イクトミは、今度は英語で返した。

「また今度お会いできる時を、心より楽しみにしております」

「あたしは楽しくないけどね」

「相変わらず、無粋な方だ。それでは、また」

 イクトミは静かに、部屋から出て行った。

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