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因縁のガンファイト

 一行は昇降機に飛び乗り、操作盤に群がる。

「早く!」「分かってら!」

 レバーを上げ、昇降機が動き始める。

 当座の安全を確認し、アデルがイクトミから手を離し、床に座らせる。

「大丈夫か、イクトミ?」

「心配ご無用、……珍しいことだ。あなたがわたくしの心配をなさるとは」

 若干顔を青ざめさせながらも、イクトミは平然とした口ぶりで答える。

「弾は貫通しておりますし、骨や動脈などにも当たっていないようです。止血さえしっかりしていれば、大したことはございません。

 と言うわけですみませんがムッシュ、お願いいたします」

「お、おう」

 言われるまま、アデルはイクトミに止血を施した。

「だ、大丈夫なんスか?」

 ロバートが怯えた声で、誰ともなく尋ねる。それは恐らくイクトミの状態では無く、トリスタンの追撃について尋ねたのだろう。

 それを察したらしく、エミルが答える。

「追ってきたとしても、この昇降機自体が盾になってるようなもんよ。拳銃程度じゃ撃ち抜けないわ」

「あ、そ、そっスよね」

「いや、マドモアゼル」

 と、止血を終えたイクトミが首を横に振る。

「問題が1点ございます」

「え?」

 エミルが振り返ったその瞬間――昇降機ががくんと揺れ、停止した。

「……まあ、こう言うわけです」

「下で停められたか!」

 アデルは昇降機を囲む立坑に目をやり、はしごを指差す。

「あれで登るぞ!」

 4人ははしごに飛びつき、大急ぎで上がっていく。

 その間に昇降機はふたたび動き出し、下降し始めた。


「はーっ、はーっ……」

「ひぃ、ひぃ……」

 どうにか昇降機に追いつかれる前に、4人は地上に出ることができた。

「や、休んでる間は、無いぞっ」

 息も絶え絶えに、アデルが急かす。

「どこか、電話、あるとこっ」

「サルーンよ!」

 ほうほうの体のアデルとロバートに比べ、女性のエミルと怪我人のイクトミの方が、ぐいぐいと距離を伸ばしていく。

「ま、待って、はぁ、はぁ」

「ひー、ひー……」

 アデルたちも何とか両脚を動かし、エミルたちに追いつこうとした。

 だが――。

「あう……っ!」

「ロバート!」

 ロバートの左脚から血しぶきが上がり、その場に倒れる。

「逃がしはせんぞ、お前ら全員ッ!」

 倉庫の方から、トリスタンが立て続けに発砲しつつ迫ってきていた。

「ちっ!」

 エミルが敵に気付き、即応する。彼女も走りながら、拳銃を乱射し始めた。

 やがて互いに6発、銃声を轟かせたところで、その場に静寂が訪れた。

「や、……やはり!」

 トリスタンは拳銃を持った手をだらんと下げ、エミルを凝視している。

「その腕前、そしてそのご尊顔! 間違い無い!」

「あんたの知ってる奴とは人違いよ!」

 そう叫び、エミルは弾を装填し始める。

「私があなたのお姿を、見間違えるものか! あなたが閣下で無ければ、一体誰だと言うのだ!?

 そうだ、あなたがエミル・トリーシャ・シャタリーヌその人であるならばッ!」

 だが一方、トリスタンは6発装填のはずの拳銃をそのまま構え、引き金を絞った。

「これを避けられぬはずが無いッ!」

 その瞬間、傍で見ていたアデルにはまったく信じられない、異様なことが起こる。

 トリスタンの拳銃から、7発目の弾丸が発射されたのだ。

(変だぞ、あの拳銃……!?

 それに発射の瞬間、シリンダーからガスを噴かなかった? いや、違う――シリンダーが無い!?)

 そして直後の状況も、アデルにはまったく理解のできないものだった。

 何故なら――弾丸の装填中を狙われたはずのエミルは平然と、硝煙をくゆらせる拳銃を片手に立っており、その逆に、先んじて銃撃したはずのトリスタンが、右手から血を流していたからである。

「……は……ははは……素晴らしい……」

 しかしボタボタと血を流しながらも、トリスタンは恍惚の表情を浮かべており、感動に満ちた声でこう叫んだ。

「Magnifique! C’est magnifique!(素晴らしい!)」

「Ta gueule!(黙れ!)」

 エミルが叫び返す。

「そこでじっとしてなさい! あんたには、聞きたいことがある!」

「……できぬ!」

 と、トリスタンは真顔に戻り、後ずさる。

「私には成さねばならぬ大義がある! ここで死ぬわけには行かんのだ!」

 そう言い残し、トリスタンはその場から逃げ去った。

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