表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

エミルとイクトミ

 アデルたち4人は駅の近くに潜み、貨物列車が来るのを待つことにした。

「地下に廃鉱を利用した秘密施設が本当にあるとしても、そこからモノを運び出さなきゃカネにはできない。

 となれば必然的に、駅まで酒樽を運んでくるはずだ」

「次はいつ来る予定なんスか?」

 尋ねたロバートに、アデルは短く首を振る。

「公式な運行表通りに来るとは限らん。

 地下でこっそり造ってる時点で、ほぼ間違い無く密造酒だろうからな。それを正規の方法で運ぶってのは、考えにくい」

「イクトミ、鉄道関係は調べてないの?」

 尋ねたエミルに、イクトミは肩をすくめて返す。

「申し訳ございません、マドモアゼル。路線までは調べておりましたが、その上に乗る車輌がいつ、何輌来るかまでは、まったく存じておりません」

「いいわよ、別に。どうせ来るんでしょうし、いつかは」

 と、そうこうするうちに地平線の向こうから、黒い塊が近付いてきた。

「運行表に書かれてない車輌だ。どうやら当たりだな」

 アデルがにらんだ通り、その貨物列車に次々、酒樽が積み込まれていく。

 10分か、15分ほどしたところで、酒樽をたっぷり載せた貨物列車が出発し、作業にあたっていた男たちが駅を離れ始めた。

(行くぞ)

(オーケー)

 アデルたちは密かに、男たちの後をつける。

 男たちは貨物列車から下ろした木箱や空の酒樽を荷車で運び、裏通りを過ぎ、倉庫の中に入っていく。

 それを見て、エミルが小声でイクトミに命じた。

「気絶させて」

「ウィ、マドモアゼル」

 次の瞬間、ぱっとイクトミの姿が消え、続いて倉庫から、短いうめき声が立て続けに響く。

 間を置いてイクトミが倉庫から現れ、恭しい仕草でエミルたちに声をかける。

「片付きました。どうぞ皆様、お入り下さい」

「ありがと」

「勿体無きお言葉ですが、わたくしとしては別の言葉でのお返事をお聞かせ願いたいところです」

「さあね」

 そっけないエミルの言葉に、イクトミはいつものように肩をすくめて返した。


 倉庫に入ってすぐ、4人は床に大きな穴が開いていることに気付く。

「昇降機ですな」

「ああ。やっぱり工場は地下にあったのか」

 程なく壁にレバーを見付け、操作する。

 ゴトゴトと音を立てて、底から床がせり上がって来た。

「一旦下に降りて工場の存在を確かめたら、すぐ上に戻って捜査局を呼ぶぞ。

 俺たち4人で制圧なんて、そんな奇跡は起こせないからな」

「それは困りますな。捜査局に立ち入られては、わたくしの目的が達成できません」

 そうこぼしたイクトミに、アデルが冷たい目を向ける。

「文句があるなら1人で行って蜂の巣になって来いよ。

 最初から言ってるが、俺たちは泥棒の手伝いをするためにこんなところまで来たわけじゃないからな」

「……致し方ありませんな。今回の品は諦めるとしましょう」

 イクトミが折れたところで、4人は昇降機を操作し、下へと降りていった。

「ねえ」

 その途中、エミルが小声でイクトミに尋ねる。

「如何なさいました?」

「あんた、何者?」

 そう問われ、イクトミはきょとんとした顔を返す。

「何者? はて、質問の意図が分かりかねますが」

「あたしに言ったあのこととか、アルジャンを知ってるってことは、……その」

 言葉を濁しつつ、エミルは額の前で両手を合わせ、逆三角形を作った。

「これ?」

「以前はね」

「馬鹿言わないでよ」

 うなずくイクトミに、エミルの顔に険が差す。

「もう無いはずでしょ?」

「ええ、ですから『以前』と。わたくしの認識でも、今は既に無きもののはずです」

「生き残りってわけ? でもあたし、以前にあんたと会った覚え、無いんだけど」

「おや?」

 意外そうな顔をして、イクトミが尋ね返す。

「覚えていらっしゃいませんか?」

「と言うより、まったく知らないわ」

「嘘、……を付いているようなお顔ではございませんな。しかしわたくしの方では、確かに覚えがございます。話したことも二度、三度は。

 互いの記憶にどうも、食い違いがあるようですな」

「そうみたいね。……っと」

 話している間に、昇降機は下階に到着した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ