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移民街の謎

 イクトミも交えたアデルたち一行はヒエロテレノに戻り、イクトミの隠れ家に移っていた。

 伊達男のイクトミも、流石に己の家では白上下のスーツではなく、どこにでもいそうなシャツ姿となっている。(ただし東部の先進した街でなら、と言う注釈は付くが)

「この町はわたくしにとっても、実に居心地がいいところです。取り分け、美酒の種類は近隣では類を見ませんからね」

「美酒? 燃料の間違いじゃないの?」

 エミルが嘲る一方で、アデルは憮然としている。

「癪に障るが、お前に助けてもらってるのは事実だからな。

 俺の後ろにあるガラクタは、今は見なかったことにしてやる」

 アデルの言葉に、イクトミは憮然とした顔をする。

「ガラクタとはご無体な。全て価値ある美術品です。……ま、それはともかく。

 こちらがこの2週間、わたくしが集めたヒエロテレノおよびその周辺の情報です」

 イクトミから渡されたメモや書類を確かめながら、アデルたちは敵の本拠地を検討し合う。

「通ってる路線は2本。W&B開拓鉄道と、インターパシフィック。とは言え、どこか離れたところに奴専用の線路が引いてあるかも分からんが」

「周囲30マイルを探ってみましたが、それらしいものは特には」

 アデルのつぶやきに、イクトミが古ぼけたパンプスを磨きながら答える。続いて、エミルも質問する。

「ねえ、この辺りってどこから水引いてるの?」

「地下水です。そう深くないところに水脈があるようです」

「この周り、畑とか果樹園は?」

「ありませんな。荒野が広々続いているのみです」

「ふーん……?」

 腑に落ちなさそうな声を上げたエミルに、アデルが尋ねる。

「何か気になったのか?」

「ええ。不釣り合いな点があるわね」

「って言うと?」

「お酒よ。あんたが浴びるくらいがぶがぶ飲めて、コイツも喜ぶくらい色んな種類があるのに、その原料になる蘭(テキーラの原料)とかトウモロコシ(バーボンの原料)とか、どこにも無いっておかしくない?」

「ふむ。しかし件のリゴーニ氏は表向き、穀物商なのでしょう? であれば原料は彼が運んで、……いや、それでも妙ですな」

「ええ。原料の件はあんたの言った通り、そう言う説明は付けられる。

 でもそれを加工するところも、見当たらないわ。少なくともあんたが集めたこの資料には、どこにもそんなのが載ってない。

 後もう一つ、気になってることがあるわ。町の名前よ。ヒエロテレノ、つまり『鉄の大地』って意味になるけど、おかしくない?」

「って言うと、……いや」

 アデルは一瞬きょとんとしかけたが、途中で神妙な顔になる。

「確かに変っちゃ変か。鉄の、って言ってるのに、鉱山なんかどこにも見当たらない。鉄工所なんかも無かったしな。

 ロバート、この辺りに鉄が出る鉱山は?」

「聞いたこと無いっス。って言うか、何かの鉱山があるなんて話も、全然」

 ロバートはぷるぷると首を横に振る。

「わたくしの方でも、そんな情報は得ておりませんな」

 イクトミも同様に、肩をすくめて否定する。

「恐らく相当過去には、鉄を産出していたのでしょう。町ができて長いようですし、黎明期にはその名の通りの鉱山町だったのでしょうな」

「でも、そんなの全然見たこと無いっスよ?」

 反論するロバートに対し、今度はイクトミの方が首を振る。

「現実に即して考えるのであれば、鉱脈と言うものは原則、地面の下にあるものです。

 となれば導き出せる結論は、一つですな」

 イクトミの言葉に、エミルがうなずく。

「ええ。町の周りに鉱脈が無いって言うなら、真下と考えるしか無いわね。

 ただ、稼働はしてないんじゃないかしら。稼働してるなら、その上にいるあたしたちに何かしらの振動が感じられるでしょうし、鉄鉱石だって運ばれてるはず。

 でも実際にこの町に一杯あって、運び出されてるのは……」

「……そう言うことか」

 アデルとロバートも、合点の行った顔になった。

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