自慢話
「西部を象徴するアイテム」と言えばお前、何だか分かるか?
酒? テキーラやバーボンあおって、愉快なダンスか? ああ、それもありだな、確かに。だがもっと刺激的なものがある。
馬? 荒野を駆け抜ける一陣の風ってか? うんうん、分かる。そりゃいいな。でももっと、スピードの出るヤツがあるだろ?
汽車? 大陸を貫く超特急、ってか。ははは、ああ、いいな、うん。それも西部的だ。だだっ広い荒野を抜けて、地平線の向こうまであっと言う間だ。確かに早い。
だがなー……、俺が言いたいのはそうじゃねえんだ。分かんだろーが、アデルよぉ? 俺が一番初めにお前に教えたのは、なんだ?
……ああ、まあ、確かに一番初めに俺が仕掛けたのはソレだったな。噴水みてーにぴゅーっとバーボン吐きやがったのはクソ面白かったが、違う。そうじゃねえ。
こ、れ、だ、よ。こいつ、この鉄と火薬の塊。そう、銃だ。
今でも思い出すぜ、この愛銃に付いた傷を見ると、よ。……ちぇ、「やれやれ、何回目だ」って顔すんなっつーの。
いいだろ、ちょっとくらい。俺の唯一の武勇伝なんだ。そりゃ、エミルの姉御やリロイの御大、それに我らが偉大なるリーダー、ジェフ・F・パディントン局長なんてお歴々の大活躍と比べちゃ、ケチなもんだけどもな。
そう、あれは俺がまだ駆け出しの頃、探偵局に入って半年かそこいらかって時だった。局長直々の命令で、俺はとある町に出向いたんだ。内容は人探し、……のはずだったんだが、それがいつの間にかドンパチになっちまった。
いや、それがもう、マジで何回死ぬかと思ったか! 特にこれだ、この、銃に付いたこの傷。俺と敵とで真正面からの撃ち合いになった時のなんだよ。同時だぜ、同時。俺と相手とが、同時に6発全弾撃ち尽くして、……そして、同時に倒れた。
だが俺は気付いた、手はしびれてるがどこも痛くねえ、撃たれてねえってな。で、起き上がってみるとだ。相手は血の海に沈んでる。二度と起き上がることは無かった。
ほっとしたところで、俺の愛銃がどっかに行っちまってたことに気付いて、慌てて探したら、結構離れたところに落ちてたんだ。どうやら相手の弾は俺じゃなく、俺の銃に当たってたってわけだ。
な、すげーだろ? 考えても見ろよ、10ヤードは離れたところから、ピースメーカー程度の大きさのやつに、こんな小せえ鉛弾が当たる確率って言ったら、そりゃもう……。
「……ん、がっ?」
聞き飽きた話に眠気を誘われ、バーのカウンターに突っ伏していたアデルバート・ネイサンは、慌てて飛び起きた。
「あ……、くそっ」
アデルは頭を抱える。それは二日酔いによる頭痛のせいだけではない。
1ドル40セントの伝票が、空になったグラスを重石にして、自分のすぐ横に置かれていたからだ。
「またやりやがった、あのクソ野郎め!
なんで毎回毎回、後輩に酒おごらせんだっつーの。んなことやってっから出世しねーんだよ、……ったく」
アデルはぶつぶつ文句を垂れながら、渋々と財布を取り出した。
アデルにとってはくだらなく思えたこの一夜が、彼にとって全く尊敬に値しない、ろくでなしの先輩探偵――レスリー・ゴドフリーと交わした、最後の会話となった。
何故ならこの4日後、レスリーは穴だらけの遺体となって、寂れた鉄道の線路沿いで発見されたからである。