崩壊した日常が崩壊するのはどうかと思う。
ライブなう。
開場し、人が流れ込んでいく。 なんとも壮観だけど俺もそのうちの一人だ。
人ごみに飲まれる中でバッグの中からバイブと着信音(感じてないけど)。イアホンをつける。
〈雄哉、人多い。〉
「お前はいったいどこから見てるんだ。」
〈音。〉
「そうですか。 で、用件は?」
〈え? なんだって? 聞こえない?〉
「用件は!?」
〈ああ、用件? ないよ。〉
「おい」
人ごみの中、騒がしい中、成立しなさそうな会話をしている。
「此代くん? 何聞いてるの?」
「あ、いや・・・」
イアホンしてスマホをいじっていたのが目に入ったのだろう。 ライブ直前ともあり何を聞いてるのかという発想は自然だ。 そうでなくても誰かと会話してるなんて思わないだろうけど。
「見せて見せて」
ひょっとスマホを覗き込む。 正直優華が見られるのはあまり望ましくはないがどうしようもないから仕方ない。
「・・・? これは・・・」
「あー、説明しづらいけど、俺のスマホに寄生した謎の電人。」
〈寄生とは失礼な。〉
「うるさい。 あ、どうぞ。」
このままだとよくわからない映像流して一人で会話する痛い人に思われかねないのでイアホンを渡す。
〈どもっ、五十嵐さん?〉
「え・・・ この子・・・」
「一応元人間だそうで。」
「優華ちゃん?」
「?」
〈?〉
唐突に出た言葉はこいつの名前。 こいつの名前は当然伝えてない。 それどころか晴馬以外にこいつの存在を話したことはない。 疑問と仮説が飛び交う脳内。
「なんで知って・・・?」
「なんで優華ちゃんが・・・?」
〈???〉
しばらくの沈黙。
〈えーと・・・ 何の話?〉
「お前の話だよ。 ・・・で、五十嵐さん? こいつのこと知ってるの?」
「うん・・・ 優華・・・ 白花優華ちゃんでしょ?」
「おう・・・。」
若干混乱しているが状況を理解しかけている俺。
唐突な再会となり驚きを隠せない様子の五十嵐。
話が全く見えず理解が追い付いてない様な優華。
そんな重く複雑な話してるなんて知らない晴馬。
「とりあえず、話はまた今度にしよう。」
「うん。わかった・・・」
混乱の極みに陥っている俺は、ライブの音なんて全く耳に入らず2日を終えた。
「雄哉、どうだった?」
「ああ、よかったよ・・・」
「そうか。じゃ、また今度な。」
「おう。」
「五十嵐さんもまた学校で。」
「うん。」
そういってそれぞれの家路についた。
俺は、五十嵐に 明日午後1時、市立図書館で と言い残して。
翌、PM1:00
「此代くん?」
「五十嵐さん。 とりあえず中に入ろう。」
合流して中に入る。
「まず、こいつについて知ってることを教えてほしい。 こっちの事情はそのあとに話させてくれ。」
そういって優華がふよふよしているスマホを見せる。
〈あ、五十嵐さん!昨日ぶり!〉
「どうも。」
「まず・・・ 優華ちゃんと私は、中学、高校と一緒でした。 大学は別々になりましたが。」
〈ん? 私の話?〉
「黙って聞いてろ。 ごめん、続きを。」
「うん。 結構仲良くて、よく遊んだりもした。高校卒業してからは、あまり連絡とってなくて、この間メールしても返信なくて・・・」
「んー・・・ 出身は中高変わらずここ?」
「うん。」
「そうか・・・ じゃあ、とりあえず俺が知ってるこいつのこと話すよ。」
「お願い。」
「こいつは、テスト前位に、正直何が原因かわからないけど俺のパソコンに現れた。
こいつにいろいろ聞いても、人間だったころの記憶はほとんどないらしくて。だから五十嵐さんのことも覚えてないんだと思う。」
「そうなんだ・・・」
「一つ、こいつの家わかる? 家の人に話聞きたい。」
「うん。 変わってなければだけど。」
「案内してくれないか?」
「わかった。」
「ありがとう。」
図書館をでて、五十嵐が案内する通りに進んでいった。
最終的に到着した先は、俺の家から大学に対して真反対の方向にある大きな豪邸だ。
「ここか?」
「うん。」
一通り確認した後、優華に
「これを見て覚えてることは?」
〈ん? でっかい家だねー、住みたいねーくらいの感想しか出てこないけど。〉
「そうか。」
その家のインターホンを鳴らすと、おそらく母親らしき人の声が聞こえた。
「はい?」
「あー、白花さんのお宅で間違いないでしょうか? 優華さんの友人なんですが」
「ええ。 どうされました?」
「優華さんと連絡が取れなくて、今どうしているのかなって思いまして。」
「そうですか・・・ わかりました。 お入りください。」
「え、あ、どうも。」
そこそこの急展開ではあるが何かしらつかめそうだ。
「お邪魔します。」
「どうも。 あら、五十嵐さん?」
「お久しぶりです。」
さすがに面識はあるようだ。
「まず、優華さんは?」
「あの子は、高校卒業した後に行方不明になったままで・・・ 行方不明になる日には、遠出してくるって言ったきりで・・・」
「詳しい行先は?」
「いえ、わかりません・・・」
「そうですか・・・」
「どこに行ったかも見当つかなく、警察も捜査を諦めかけていて・・・」
「ありがとうございます。」
「いえ。 お役に立てれなくてすいません。 またいつでも話を聞きに来てください。」
「俺たちもいろいろ調べてみます。」
そういって別れた。正直大きな収穫はなかったものの、手掛かりは得た。
「とりあえず、俺は家に帰っていろいろ調べてみるわ。」
「私も。 一応連絡先。」
五十嵐はそう言って紙を渡してきた。 その半分をちぎり、俺は自分の連絡先を書いて渡した。
家に帰ってからは、警察も動いてるということでどこかに情報がないかと高校卒業後、3,4か月ほど前のことを調べ始めた。
しかし、行方不明ということだけで、どこにいたか、最後の目撃情報などはどこにも書かれていなかった。
当人(?)はここに居るのだが、その前のことが何か知れればいいなと思ったが、収穫はゼロだ。その旨を五十嵐にメールで送り、寝た。
その後は、ライブにつき合わされたりいろいろと調べたりした。
結局収穫は無く、前進することもなく夏休みを終えた。