安定的日常論
「あー、明日から長期の休みに入りますが、羽目を外さないようにー」
長い長い終業式とかいう謎のものをもうすぐ終わる。
「えー、皆さんご存知の通り、休み明けには修学旅行がありますので、準備をしっかりしておいてください」
うちの大学の特徴っぽいところ。
大学としては珍しく(ほかの大学調べてないからそうなのかは知らんが)修学旅行がある。 おまけに4年間毎年。
1年の俺たちは、1週間かけて道内をウロウロする。
絶対1週間もいらない。
2,3年は道外にでて、4年はアジアの方に行くそうだ。
教室に戻ると、優華が話しかけてきた。
〈雄哉の大学修学旅行なってあるんだね。 うちの大学なかった気がするなー〉
「お前本当は人間時代の記憶あるだろ・・・」
〈よくわかんない〉
「・・・」
変なところで蘇るこいつの記憶は何なんだろうか。
終業式が終わり、一通り担任から話が合った後帰宅する。
「雄哉!」
「晴馬。」
晴馬は駆け寄ってきて4つ折りにされた紙を渡した。
「毎年恒例の奴な。」
「毎年恒例の奴か。」
〈何それ?〉
「夏休みの予定表だよ! 雄哉のために作ってあげてる。」
「嘘つくなよ」
「予定っていうとこだけはあってるけどね。」
その紙を開いて優華に見せる。
そこには手書きのカレンダーと、ライブの予定が書かれていた。
「今年はいつも以上にハードだな・・・」
「そうか? よろしkな。」
カレンダー1列に予定が2つや3つとある。
夏休みは1.5か月ほど。 ざっと計算して15はある。
〈うへぇ・・・ 大変だね。 頑張って~〉
「お前も行くって言ったろ?」
〈パソコンにこもっててやる〉
「対策してるから関係ない。」
〈・・・〉
予定を見ながら話をする。
「そういえばさ、昨日なんかテレビジャックあったじゃん。 あれ何だったんだろうね。」
「ん? あ、ああ・・・」
とても晴馬は俺ら(主に優華)があれを解決したなど知る由もなく、行っても信じなさそうなので言わないが、話を始める。
「昨日さ、スマホでテレビ見てたら急になってさ、ウイルスがどうとか言ってたけど、それ流されてたら優華さん危なかったんじゃない?」
「あー、なんでさん付けなんだよ。 」
「いや、関わりそんなに深くないから。」
〈タメでいいよ~〉
「呑気なやつ。 そうか、あれ止めなかったら優華退治できたな・・・」
〈うわ、ひど〉
「ん?なんか言った?」
「いや、何でもない。」
止めなければこいつはいなくなってたかもしれないが、そうすると俺のパソコンとかスマホが死ぬ。それはそれで辛い。
「じゃ、その予定通り頼むね。」
「おう。 じゃあ次は・・・明後日だな。 また。」
そういって別れた。
帰宅。
「さて・・・と、課題は特に出てないし、ちまちま勉強しながら過ごすか。」
〈頑張って~〉
「お前は人間時代大学生だけど学力はどのくらいなわけ?」
〈並。〉
「並って言ったってどこの学校かによるし、センターの偏差値なんぼ?」
〈あまり覚えてないけど、65くらい?〉
「俺と変わらないくらいか・・・ 勉強しろよ。」
〈それどんな回答でも言ったよね?〉
「そうだけど。」
〈せっかくこんな世界に来たのに勉強に追われたくないっ!〉
「堂々と学生としてあるまじきことを・・・」
〈私は呑気に雄哉が勉強してるのを見て勉強した気になるから。〉
「おい」
さてさて、無事な夏休みを迎えられる気がしない。
翌々日
「おは」
「よう。 ってざけんなよお前。 11時って書いてて午後だなんてわかるわけない。」
「昼間からやる方が珍しいよ。」
「それは十分わかってるけどいつにもまして遅い。 」
〈これぐらいで遅いって言ってたら夏休み乗り切れないよ!〉
「遅くないっていう方が夏休み乗り切れないわバカ野郎。」
「元気なんだね。」
〈うん。 24時間雄哉に働かされてるから。〉
「嘘を言うな」
「ははは。 じゃ行くか。」
「おう・・・」
現在PM11:14
開場は30分だそうだ。
「だりぃ・・・」
〈そんなに嫌なら断ればいいのに〉
「一回いった手前断れねぇよ。 そう思っているうちにどんどん断りづらくなるし。」
〈律儀っていうのかな? でもお金とかもかかるし早めに決断した方がいいんじゃないの?〉
「チケット代とかは全部アイツ負担だから。 意外と金持ちなんだよ。 意外と。」
〈ふーん。 完璧人間だね。〉
「まだそのネタ続いてたのかよ」
話しながら歩いて会場へ向かう。
「ついたぞ。 ここだ。」
「なかなか大きめだな。」
数年いろんなところに連れまわされているおかげで、若干知識はある。 曲とかバンドは全く分からないが。
ドアを開けると、始まる前だがそこそこ盛り上がってる。
「優華、スマホの中にこもっているのをお勧めするよ。」
〈えー、なんでー? いいじゃんー〉
「後悔するなよ。」
ライブが始まる。 こういうのはよく来る人ならいいが、初めてだったり慣れていないと、吐き気がするレベルでうるさいことも多い。
俺も最初そんな感じだったし。
〈うるさっ! ちょっ無理! じゃあねっ!〉
そういってスマホの電源を消した。 しかしそんな声全く聞こえないが。
「盛り上がってるかぁ!!」
『おー!!』
客の後ろ側で真顔で音楽を堪能している。 この態度はライブに来るものとしてはバンドにもほかの客にも相当失礼なのだが、これが普通になっている。
盛り上がるのもいいかもしれないが、冷静に聞くといい曲があったりするものだ。
曲に区切りがついたらしく、バンドの人が話をしている。
「雄哉、相変わらず冷めてるな。」
「おう。 汗だくだなお前。」
まだ2、3曲ほどしかやってないのに首にタオルをかけて汗だくな晴馬が話しかけてきた。
「今更だけど今日は眼鏡のままなんだな。」
「おう。正直忘れてたけど今日はこんな感じだから大丈夫そうだ。」
基本メガネの俺は、晴馬に付き合わされるときは、コンタクトで行く。
場所によってはこのようにゆったり聞くこともできずもみくちゃにされることもあり、眼鏡は危険なのだ。
こんな感じでライブは終了した。
「雄哉ぁ・・・ どう・・・だった・・・? 」
めちゃめちゃ息を切らしながら感想を聞いてくる。
盛り上がってはいないが真面目に曲は聞いている。
「まあ、雰囲気に任せてる感があったな。」
「そうか。 じゃ、またよろしくな。」
家路につく。 こいつが俺を連れてくる最大の要因は「ほかに行く人がいない」なのだが、そのほかにも、若干の護衛役的な位置づけでもある。
これでも空手の有段者 だった。
誘われた当時は絶頂期だったが、高校に入ってからはやっていないので、4年弱、ブランクがある。だからたいして重要な理由じゃない。それどころか今はあいつの方が強いんじゃないかってレベル。
あいつは大学のサークルに入っている。 なぜか剣道。 大学に入って急に始めた。 そして才能というやつか、入って数か月だが、サークル20人ほどのなかでもトップ10には入る。ほとんど経験者なのに。
やっぱり完璧人間なのかもしれない・・・ なんて思ってしまう自分がいる。
翌日--- と言っても寝る暇すらロクになく現在AM5:00
寝ようと試みたが寝れずに今。
「さて・・・今日はフリーだけど何するかな・・・」
〈どっか行こ!〉
「ガキか貴様は」
〈ガキでいいから行こ!〉
「こいつ・・・ お前今の体になったときに退化したんじゃねぇの?」
〈失礼な〉
日が昇りかけている。
どうせ暇だしいいかななんて一瞬でも思ってしまった俺がいる。
〈どこ行こっかなー〉
そういってインターネットの世界にとんだ。
「閉じ込めようかなー・・・」
〈させないよっ〉
ひょっこり顔を出してそういった。