スイミングスクール
初めて泳ぎを父に教わって泳いで以降、水泳や水に興味を持つようになった私をみた父と母がスイミングスクールを探してきてくれた。
「かなた。泳ぐの好きね。そんなかなたにぴったりのものがあるんだけど興味ない。」
母がニコニコしながら話しかけてきた。今思うとあの頃家に増えたチラシはきっと今まで一生懸命に探してくれたあとなのだろうと思う。
「なーに。」
期待に胸をふくらませて聞く私。
「スイミングスクールよ。」
「すいみんぐすくぅる....」
思わぬ母の答えにはてなでいっぱいの私。
「スイミングスクール。泳ぐ事ができる場所よ。」
「泳ぐ、いっぱい」
うつむいてブツブツ言いだした私を心配して母が私の顔をのぞきこんだけど、ニヤニヤしながらドゥフドゥフと笑っている顔を見た瞬間見てはいけないようなものを見てしまったという顔をしてすっと私のそばを離れてスイミングスクールに連れていく準備をしだした。当然だろう。私だってドゥフドゥフ言いながらニヤニヤしている5歳児なんて嫌だ。我が子ならなおのことだろう。
「かなたー。行くわよ。ほらのんびりしてないで、おいで。」
「はーい。」
いつもなら、車に乗ると移り変わる景色に夢中になるけれど今回はスイミングスクールのことで頭がいっぱいだった。季節関係なく泳げるのだろうか、クロール以外の泳ぎ方も覚えられるのだろうか、ワクワクで胸がいっぱいだった。
「ついたわよ。」
車で40分、田舎からここをさがすのは大変だっただろう。
「うんっ。」
中は白を基調とした壁紙が一面をおおっていて、入ってすぐの所に受付があって、その右には階段があり、そこを登ったところに休憩スペースがあってプール側は1面ガラス張りになっていて、プールの様子を見ることができる。他にも自販機やトイレもあるのでなかなか快適だと思う。
「1時半クラスの人~準備してくださーい」
受付のおばさんが甲高い声で叫んでもとい、呼んでいる。
「行ってらっしゃい。」
と言った母に手を振りながら更衣室へ入っていった。
わらわらと人が入って行くがだいたいみんな私と同じくらいか年下の子だから、保護者が更衣室までついていって着替えさせている。一人で全部できる私は小さな優越感を覚えた。
素早く着替えを済ませると周りに従ってプールへ向かった。みんなで青いビート板を取ってきて、座布団のようにお尻に敷いてお山座りをしている。
しばらく、待っていると若いコーチが出てきて
「準備体操を始めまーす。みんなたってくださーい。」
と声をかけた。するとみんなコーチの掛け声に合わせて動き始めて、少し不安になって母の方を見たら、ニコッと笑って、手を振ってくれた。おかげで少し勇気が出てなんとかこなすことができた。
準備体操が終わると、みんなまた来たところを通ってシャワーがたくさん並んでいるところへ行った。通って来たところにあったはずだったのに、全く気がつかなかった。
シャワーを浴び終わってから出ると
「君が水瀬彼方ちゃんかな。」
「....」
「あぁいきなりごめんね。私は、東美紀といいます。彼方ちゃんの入るクラスのコーチです。ミキコーチって呼んでね。」
「よろしくおねがいします。」
「ハイっお願いします。じゃあ彼方ちゃんついてきてね。」
コーチに言われるがままついていくと自分と同じ位の子がわらわらいた。
「はーい、皆さん今日から新しいお友達が入ります。水瀬彼方ちゃんです。みんな仲良くしてあげてね。」
「みなせかなたです。よろしくおねがいします。」
きゃきゃっとはしゃいでいる。少し恥ずかしい。
「彼方ちゃんは今回初めてなので、あっちのコースでテストをします。あっちにいる山田コーチのところに行ってください。」
ミキコーチの指さしたほうを見ると山田コーチらしきガタイのいい男の人が手を振っていた。
歩いていくのは面倒だったので、水の中に潜って泳いでいった。
向こうに行ってから振り返るとミキコーチがキョトンとした顔をしていた。なかなか面白い顔だったのでプププと笑ってしまった。
山田コーチのところに行くとテストについて説明を受けた。
「彼方ちゃんはこんにちは、私が山田です。えー、テストと言ってもそんなに難しいものじゃないから心配しないでね。」