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それからの扱いについては、あんまり思い出したくはない。
熱でぼーっとしてて詳細に覚えてないってのもあるのだが、ぶっちゃけしっかり記憶に残したくない感じの歓迎だった。
端的に言うと、ちょっと珍しい調査動物くらいの扱い。生態とか調べたいから生かしとくけど、別に死んだら死んだでそれでいいや、みたいな。
あちこち連れ回されてあれこれ調べられて、いやでも流石に、制服はぎ取られて素っ裸に剥かれるとは思わなかった。
その後下着から靴から没収されて、代わりに貫頭衣だか筒型衣だかな衣服と革靴っぽいブツを提供された。ありがたいはありがたいけども、そもそも俺の制服とスニーカーを返せ。
そんなこんなで、今俺が着ているのがその提供された代物である。
どうやらこっち側のスタンダードらしく、見かけた大抵の人が似た感じの服装をしている。でも偉そうな連中はもっとご立派な衣装を装っているので、実は一着980円くらいの安物なのかもしれない。
あと靴の一件で気がついたのだが、この世界は屋内土足の文化なようだ。渡された靴を屋内だからと履かなかったら、物凄く奇妙な目で見られた。
まあそんなこんな一先ず置いて、ここで最重要となるキーワードは「こっち側」「この世界」って辺りである。
取り調べ受けてる間、俺の方もここの連中の観察をしていたわけだけれども、それで確信せざるをえなかった。うん、ぶっちゃけここ日本じゃない。というか多分地球じゃない。だってあいつら魔法使うもん。
確認の意味で、舌で自分の口内をまさぐる。やっぱり夢でも幻でもなく、殴られて切れた、口の中の傷は全て消えている。鏡がないから自分の顔は見えないが、きっと青あざ一つ残ってはいないだろう。
あの眼光男がちょちょいと治してくれたのだ。所謂回復魔法である。
でも勘違いしてはいけない。アノヤロウは親切でしてくれたのじゃない。
治るなり、俺はもっかい殴りつけられた。あちらさん、あまり喧嘩慣れはしていないようだった。強がりじゃなく兄貴の拳骨の方がよっぽど痛い。まともに殴り合ったらきっと俺が勝ったろう。
だがそんな事を言っても負け犬の遠吠えである。
体調最悪の上に同席の数名に押さえつけられた俺は、ろくすっぽ抵抗もできずに痛めつけられ、そしてまた治された。それを数回ループしてから、
「オレに協力する気になったか?」
ときたもんだ。
つまり「言う事聞かなきゃエンドレスでボコる」宣言である。拷問だ尋問だ捕虜虐待だ。こんな事情聴取、カツ丼奢ってもらったって割に合わない。
以前兄貴がゲームしながら、「実際あったら一番怖いのは回復魔法だな」とか呟いていた。その時は一体何言ってるんだと思ったが、その意味がよく分かった。大層身に染みた。
だがこうまで魔法の効果を実体験させられてしまったら、本気も本気のファンタジーワールドと受け入れざるをえない。
ちなみに風邪の諸症状は緩和されなかった。効能が及ぶのは外傷オンリーなのかもしれない。意外と不便だ。
ひどい目を見たが、付随して知れた事もある。
まず一つ目。恨み重なるコイツの名前は、どうやらデュマというらしい。正直わりとどうでもいい。
次いで二つ目。俺はこのデュマ一派の実験の結果として、この世界に喚ばれたのだという事。若くて健康そうなら誰でもよかったので、とりあえずトラップにかけた、的な話を自慢げにされた。心底迷惑極まりない。
そして三つ目。左手首にがっちり嵌っているお洒落な腕輪、人呼んでならぬ俺呼んで「翻訳さん」の性能について。これが一番重要だ。
まず俺がこちらの言葉を、あちらさんが俺の日本語を理解できるのは、この翻訳さんのお陰である。双方の思考を感知して、それぞれの概念に近い言葉に置き換えて、テレパシーっぽくぴぴぴと伝えてくれるものであるらしい。
なので俺がスラングめいた言い回しや英語和製英語を取り混ぜて話しても問題なく意思疎通されたし、あちらさんの言いにそういう単語が混ざる事もあった。主観的雰囲気を加味して、フィーリングで当てはめているんだろうと思う。
たまに「んん?」と首を傾げるような訳もあったが、それはまあお茶目という事にしておこう。基本的に物凄く優秀なマジックアイテムなのではないかと思う。
しかしこれ、人の意思を読み取っているというだけあって、書き文字には一切無効のようである。あちらさんのメモとか盗み見たけど、さっぱり意味が分からなかった。
ちなみに「その腕輪は貴様の所在を常に発信しているから、逃げても無駄だ」と言われたので、「GPSっすか。カッコイイっすね」と返してやったらまた殴られた。どうやら皮肉なんかも意図を汲み取って伝えてくれているらしい。凄い機能だが今回に限っては完全に余計なお世話である。
しかしコイツ、俺の事はとりあえず殴っとけばいいとでも勘違いしてるのじゃなかろうか。




