第1話
入学式から三日が経った。
最初は今までとは違う電車通学に四苦八苦したが、今ではもう迷うこともない。
新しい制服はまだサイズが大きいけど、それが心地良く感じる今日この頃。
「優、帰ろう」
後ろの席から声がする。
新しい学校で初めて出来た友人、井上 透。
席が前後同士ということやお互い家が遠いことから仲がよくなった最初の友人だ。
クラスにおなじ中学校出身の友人がいない僕には嬉しいことだった。
「ごめん、ちょっとだけ待って。仕度まだ終わってないや」
「わかった」
透は短く答えると机に腰掛けた。
「いやー、でも透がいてほんとに助かったよ。クラスで一人浮くのはいやだからね」
「それはお互い様だな、まぁでもそうならなくてよかった」
「ほんとだよ。僕、入学式の時は三年間孤独なのかと思ったもの」
「流石にそれはないだろ、でもあの孤独感はなかなか味わえないよな」
入学式の時、周りの人たちは仲間内で盛り上がるが僕や透は何か来る場所を間違えたかのようだった。
早く終わらないかなと思って五分くらいたった頃。
隣に座っていた透がボソッと、
『このアウェイ感、ホームに帰りたい・・・』
と。
今でも覚えている。
なんとも言えないセンスなその一言が僕と透の初めて交わした言葉だった。
僕の心の心境を表した一言は、同時に同じ心境の人がいることを僕に伝えた。
それが僕らの出会い。
まぁそれは置いといて。
「よし、準備完了っと。行こ、透」
「ああ」
そう言って僕らはまだ見慣れない教室を後にした。
学校から駅への帰り道。
コンクリートや建物なんかの人工物と木々のような自然がうまく調和している。
やはり都会なんだな。
「透は中学のとき部活は入ってたの?」
「書道部に入ってた。二年の後半から幽霊だったけどな」
知的な透らしいな。
「透っぽいかも。でもなんで幽霊部員に?」
「・・・まぁちょっとな。イザコザみたいなのがあった」
「ごめん、突っ込まない方がよかったかな」
人の過去にどうこう知りたがるのはよくないよな、反省。
「気にするな。優は?」
「何部に見える?」
質問に質問で返すのはあまりよくないが、透から見たらどう見えるんだろっていう好奇心が僕の心を制圧した。
「卓球部」
即答かよ。
そう見える気持ちはわかる。
なんせ元書道部の透よりも頭ひとつ分くらい違うのだ。
もちろん僕のが小さい。
でもこれ、透が高いのもあるだろ。
「残念、ハズレ。正解は陸上部です」
「・・・は?」
とても動揺していらっしゃるご様子。
「嘘はよくない。高校デビューしたい気持ちはわかるがそれは無理がある嘘だ」
高校デビュー言われたよ。
「嘘をついてるように聞こえるかもしれないけど、事実なんだからしょうがないじゃないか」
「わかった、あれだろ。優、人がいいから廃部寸前だった陸上部に人数水増しのために名前貸したとかだろ?」
人よさそうに見えてたのか。
新発見。
「違うって。ちゃんと自分から入ったよ。走るの好きなんだ」
「信じられないわ。証明してみろ」
疑り深いな透。
ちょっとくらい信じてもいいじゃないか。
「機会があったらね」
「ああ。期待してる」
きっと透は信じてなんかいないだろう。
それくらい僕と陸上部という存在はかけ離れていた。
部活の話で盛り上がっていると駅前の大通りに着いた。
スーパーやレンタルショップ、ファミレスなんかが並んでる。
人通りの多いここは夕方、つまり今の時間帯は買い物中の主婦が多い。
「今日の晩御飯なにかな」
「ガキかよ」
いい匂いがするんだからしょうがないじゃないか。
そうツッコもうとしたとき、
「ひったくりーーーー!!」
前方数メートル先で女の子がこっちを向いて叫んでいた。
よく見るとうちの学校の制服を着ている。
そう思っていたら猛突進してくる自転車が。
「うわぁっ」
素っ頓狂な声を出しながらなんとか避けた。
その後、すぐに避けないべきだったと後悔。
少し罪悪感感じるな。
「ねぇ透、さっき証明してって言ったよね?」
「え?」
透の返事を聞くよりも早く僕は鞄を投げ捨て、自転車を目指して走り出した。
自転車との距離は10メートルあるかないか。
幸いにして自転車は良い物ではなく普通のママチャリで、しかもギアもないタイプ。
スピードはそこまで出ていなかった。
といっても僕は全力疾走だけど。
距離は徐々に迫りつつある。
7メートル
革靴走りにくいっ。
6メートル
犯人が僕に気付く。
5メートル
犯人がスピードを上げる。
4メートル
僕も必死に食い付く。
3メートル
コンクリートの出っ張りにつまずくがなんとか留まる。
2メートル
最後の踏ん張りだ。
1メートル
右手を伸ばす。
一度は掴みそこなったものの二度目で自転車の荷台を掴んだ。
後はこっちのものだ。
「とまれーーー!」
僕は全体重をかけて踏みとどまる。
何メートルか引きずられながらもなんとか自転車を倒すことで止めることに成功。
しかし自転車を止めて手を伸ばしたが、その手は宙をかく。
犯人は止まる直前から自転車を放棄するつもりだったのだろう、僕の数メートル先を走っていた。
が、ことの一抹を見ていたらしき犬を連れたおじさんが犯人を取り押さえた。
おじさん、グッジョブ。
そうして、数分後。
警察を連れて来た透が到着。
僕の鞄も持っていてくれた。
その後ろには女の子の姿もあった。
鞄の持ち主か。
ん?
何か見覚えあるぞこの子。
「ありがとね、ほんとに助かったよ、和泉君。井上君」
声を聞いて思い出す。
うちのクラスの霜月 光さんだ。
最初見たときはわからなかった。
「いえいえ。困ったときはお互い様。次は気をつけてね」
「うんっ」
その後、僕と透と霜月さんは警察署で事情聴取をされた。
やましいことはしていないけどあまり来たい場所ではない。
霜月さんより速く解放された僕らは駅まで歩いた。
「透、僕に謝ることない?」
「優は陸上部っだったていう話疑って悪かった。ごめん」
「わかればよろしい」
そう言って帰り道を歩いた。
空はすっかり暗くなり半分の月がでていた。
内容が少なめですが長い目で読んでいただけたら幸いです。




