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ソロモンの系譜  作者: 柏木 遥希
出会いと邂逅
6/9

出会いと邂逅(5)

 香奈子は辻河駅と桜野駅の真ん中あたりにあるショッピングセンターに友達と2人で訪れていた。そこは家とは方向が反対だったが友達と買い物を楽しんでから帰るのには都合の良い場所に位置していたので、この2人が集まるとだいたいはここに寄っていた。

「かなちゃんは今日も前に立ったの?」

 服を物色しながら訪ねてきたのは沢城さわき有希子だった。身長や髪型から小学生くらいにしか見えない子で唯一外見から身分を証明するものは制服だけであった。かなちゃんというのは香奈子のことで、今日というのは本日最後の授業であった悪魔事件についての授業のことだった。

「ううん、吉木よしぎ先生がサボってくれたから」

「あの先生はサボりそうだね……いいなー。私も一緒のクラスが良かったよ」

 有希子とは中学に知り合った子だった。今は拓也と同じクラスに所属している。今日拓也のクラスに行ったのも有希子と落ち合うためだった。

「有希子は誰だったの?」

「佐伯」

 名前だけで授業の様子が想像できた。この先生は社会科の先生で教科書どおりに授業を進める人だった。その上厳しく、寝ている生徒に対しては起こして説教を長々とする人なので、生徒受けは悪く裏で呼ばれるあだ名はうすらハゲなどひどいものが多かった。ただ妥協点はあるみたいなこと聞いたこともあったのでいい先生なのかと思っていた。……授業を受けるまでは。一回、香奈子のクラスを担当する先生が休んでこの先生の授業を受けたが眠気を抑え込むのに必死で授業の内容を頭に入れる暇がなかったのを覚えている。

「…どんまい」

 その時のことを思い出しながら、ここにいない男子2名にも同情した。香奈子はここで疑問が浮かんだので聞いてみた。

「ってかアイツは大丈夫だったの?」

「アイツって?」

「悠のことよ」

「ああ。そりゃ怒られたよ。もう顔真っ赤にしながら……って展開になると思ってたんだけどね。あれは怒るを通り越して唖然だったよ。あいつの珍しい表情見えておもしろかったけどさ」

「怒られなかったの!?」

 あの先生でこの反応は完全に予想していなかった。

「うん。なんでかわかんないけど苦笑いして話に戻ってたよ」

「珍しいこともあるんだね……」

 と、呟いた時だ。

(おい、香奈子)

 と呼ぶ声が聞こえた。

(クロケル?いきなりどうしたの?)

 心の中で念じた。これで相手に伝わる。相手は悪魔と呼ばれている存在だった。

(学校の方角で悪魔の暴れる気配がある。結界発動させてくれんか?場所の特定をするからのう)

「なに?どうしたの、香奈子。いきなりキョロキョロしてさ」

 思わず学校のほうをいきなり見てしまった香奈子に有希子が尋ねてきた。

(わかった)とクロケルに答えてから

「あ、ごめん。ぼうっとしてた」

 と、有希子に答える。その間にひそかに結界を張った。それは探知用の結界で何かを探すときに使うもので、悪魔が使われている場所から落としてしまったヘアピンなど結界内であれば何でも探すことができる。今回は悪魔が使われている場所と拓也の居場所のはずだ。

(まずいな……これはたぶん駅前の商店街のゲームセンター……小僧も巻き込まれたみたいじゃな)

 この返答でやることは大体決まった。一度結界を解いてから

「ごめん、有希子。用事思い出しちゃった」

 我ながらわかりやすい嘘だと思いながら走りだす。

「あ、ちょっと」

 有希子が呼び止めてくるが気にしない。

「埋め合わせはちゃんとするから」と言い残して去った。向かうのは勿論、拓也がいるゲームセンターだった。

 ある程度有紀子から離れたところで路地裏に入る。薄暗くあまり人が立ち寄りそうにない、じめじめした雰囲気が漂う路地だった。人が周囲にいなさそうなのを確認して、

「クロケルお願い」

(うむ)

 クロケルに体をゆだねた。クロケルが香奈子の体を操りビルの壁に手をついた。その瞬間、その壁に光る円や幾何学模様が描かれた。その複雑な模様は俗に魔法陣と呼ばれる類のものであった。

転移座標指定コネクト31…ゲートアクティブ3。」

 香奈子の声でクロケルが少し離れたゲームセンターの近くに転移するためのコードを言った。このコードはクロケルしかわからない上に魔法陣が複雑なのでその作業が早いクロケルが行っていた。

 この魔法陣はワープするためのものだった。通称、転移結界。名前は単純だが大変便利な代物だ。しかしながら制約も多く、あらかじめ転移する先に陣を刻んでおく必要がある。その上先ほども述べたように複雑な陣で、それを描くのに時間がかかってしまうためマナを持っている中で普通に分類されている人は緊急時ですらあまり使わないという。しかしクロケルはマナを使用することで時間の短縮を行った。それができるのであればそうすればよいという意見もあるかもしれないがマナを使用して陣を描くと大量にそれを消費する。その上、このマナというものは不可逆―――つまり使用すれば減少していく。マナは悪魔の能力を使用する際に使われるものである。補給することはできるのだが何があるかわからない緊急時に途中で代償を支払う覚悟をもって使用するか、と聞かれたらほとんどの人がNoと答えるだろう。誰だって、緊急時に厄介ごとを増やされたくはない。しかし何事にも例外はつきものである。さっきの質問でYesと答える人は三通り。一つ目はマナの補充方法である代償がすぐに払えるものである者。二つ目は保持できるマナの量が大量であるものだ。三つ目は両方を備えたものであるが特殊な場合か運がかなり良かったかのどちらかで滅多にいない。香奈子とクロケルはとある事情でこの三つ目にあたる。

 クロケルは香奈子に体を返した。体の自由が戻った香奈子は迷わずに魔法陣へと飛び込んだ。それは焦りからくるものと信頼からくるものが混ざり合っているのだろう。魔法陣が発動してからちょうど三秒後、残された光は元の路地裏の闇の中へと消えていった。

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