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死闘(2)

 クファムの体と同じ白銀のような輝きを見せる長い槍。クファムはそれの感触を確かめるようにくるりと回すと両手で槍を構えた。宙に浮いたまま槍先を邪竜に向けるクファム。


「行きますよ!」


 エネルギーによって作り出された槍を装備したクファム。今度は自ら攻撃を仕掛けようとする。翼を伸ばして一直線に邪竜へと突っ込んでいく。


「えい!」


 カッ、と残像を残して一瞬で邪竜の元まで到達したクファム。手にした長槍が邪竜の体を貫いたかに見えたが。


「ウグアアアッ!」


 邪竜がすんでのところで両手の爪によって槍を受け止めていたのだった。槍と爪の間でバチリバチリと火花が散り、ギャリギャリと金属がこすれ合う耳障りな音が鳴り響く。


「ええーい!」


 つばぜり合いのような状態からさらに前へ飛ぶ力を増幅させるクファム。


「グウゥゥゥ」


 押される邪竜。踏ん張りきれずに足が砂の上に跡を残して滑っていく。だが。


「ガアアアアア!」


 こちらもいっそうの力を全身に込めて足を踏みしめる邪竜。がっちりとクファムの槍を受け止めて、逆にクファムの体を空高くへとはじき飛ばした。


「くっ!」


 空中でなんとか体勢を整えるクファム。ピタリと宙に止まるとすぐに眼下の邪竜めがけて槍を肩に構える。ギリギリと槍を持った右腕に力を込めるクファム。そして、一気に邪竜へと長槍を投げはなったのだった。


「くらえです!」


 ミサイルのように邪竜の頭上へと降ってくる槍。槍が邪竜に触れるか触れないかのとき。再度すさまじいまでの爆発が起こった。爆撃を受けたかのように黒い噴煙が立ち上る。


「……やりましたでしょうか」


 クファムが空から邪竜の様子をうかがっていると、


「えっ?」


 急に噴煙の中から何かが飛び出してきた。


「邪竜っ!」


 翼を広げて猛スピードで地面から空へ飛び上がってきた邪竜。反応がわずかに遅れたクファムと一瞬で間合いを詰める。


「きゃあああっ!」


 邪竜が下から振り上げた長い爪がクファムの体をえぐった。


「グワアッ!」


 さらに追い打ちをかけようとする邪竜。今度は牙が鋭く光る口を開いてクファムの肩口に噛みついてくる。


「きゃあああああ!」


 クファムの悲鳴が島の上空に響き渡る。邪竜の牙がクファムの左肩に深々とめり込んでいく。


「まずいっ。このままではクファムがやられてしまう!」


 俺は心の内で叫ぶ。


「やめろ! やめろ、この邪竜めっ!」


 しかし、俺にはどうすることもできない。邪竜を止めることはもちろんクファムを助けることも。俺はただ邪竜に利用されるだけ。むしろ邪竜がクファムを倒す手助けをしている。そんな自分が情けなくてしょうがない。


「頼む! 頼むから耐えてくれ、クファム!」


 俺には祈ることしかできないのだった。


「うぐっ」


 ただ、その祈りが届いたのか左肩を噛みつかれたままのクファムの右腕が動き出す。クファムの右手の中に先ほど槍を出したときと同じように白光が集まってくる。


「よ、よしですっ」


 そして、すぐにクファムの右手には一振りの長剣が現れたのだった。


「はあああっ!」


 力を振りしぼってその剣で邪竜を斬りつけるクファム。


「ギヤアッ!」


 さすがに邪竜もこれには反応できずに黒がねで覆われたのような体に傷を受ける。それから、クファムを口から離していったん距離を取って下がっていったのだった。


「ハァッハァッハァッハァッ……」


 右手だけで剣を握りしめたまま邪竜を見るクファム。その息はさらに荒いものなっている。それに左腕もダメージのため下がったまま動かせないようだし、胴体に受けた傷も痛々しい。


「グウゥゥゥ」


 対して邪竜の傷は浅いようだった。まだまだ力が残っていそうな邪竜。獲物をしとめようとする眼でクファムをとらえて離さない様子だった。


「くそっ。どうすれば……」


 俺は考える。戦いの形勢はあきらかにクファムの方が不利だ。それもそのはずで邪竜は力を使い切るだけの戦闘マシーンだ。いくら同じエネルギーで出来ているクファムの霊体でも戦闘を目的に作られているわけではないはずだ。純粋な戦闘用のドラゴンを相手にしてはクファムとはいえ敵うはずがない。俺は声が届かないとわかってはいても叫ばずにはいられなかった。


「もういい! もういい、クファム! 俺なんかほうっておいて逃げるんだっ!」


 このまま戦いを続けていては大変なことになる。


「いくらおまえでも魂が消滅してしまうぞ!」


 エネルギーがなくなれば魂は消滅してしまう。それは幽霊だろうとなんだろうと同じはずだ。魂が消えるということは当然、存在自体がなくなるということだ。クファムがこの世から消え去ってしまう。そんな事態も充分に起こりうることだった。それに邪竜のエネルギーだって好きにさせておいたらどんどんと減り続けるんだ。どこかに大きな被害は出るかもしれないが今すぐここで戦いを続けるよりずっと勝機はある。


「逃げろ、クファム!」


 しかしクファムは、


「早く、早く彦馬さんを助けないと。彦馬さんが死んじゃう!」


 右手で剣を構え直す。


「邪竜、許しませんっ!」


 クファムは島の上空で待ち構える邪竜に剣による突撃を決行する。


「やあああああ!」


 邪竜の首に剣を振り下ろすクファム。


「グウッ!」


 クファムの武器にも優るとも劣らない長い爪で剣を受ける邪竜。


「やあっ!」


 クファムの剣は両刃の重そうなものだが、クファムは使える右手だけで強引に操る。剣を受け止められた反動を利用してくるりと体を回転させると邪竜を反対側から横なぎにしようとする。

 ガギィッ! 夜の空に閃く火花と鳴り渡る金属音。クファムの攻撃はまたしても防がれる。ただ、その後もクファムは連続して剣げきを振るい続ける。


「彦馬さんっ、彦馬さんを助けないと!」


 いくつもの光と音。


「早くっ、早くっ!」


 息をつかせぬクファムの攻撃だった。しかし。


「ガアアアッ!」


 邪竜は完璧なまでにクファムの攻撃を防ぎきる。そして。


「――え?」


 カッ。ドゴン! 邪竜の反撃が、爪で剣をからめた状態で口から放った光線がクファムの体を大きく吹き飛ばしたのだった。


「うあああー!」


 悲鳴の混じる爆発音とともに大きく飛ばされるクファムの体。なんとか空中で体勢は整えたものの、


「はあっ、はあっ、うぐっ……うっ……」


 クファムはまたも大きなダメージを負ったようだった。もう飛んでいるのがやっとの状態に俺には見える。そこへ。


「グアアアアア!」


 ここぞとばかりに追撃に出る邪竜。今度は逆に向かってきた邪竜の爪や牙がクファムに迫る。


「ああっ!」


 俺はもう見ていられない。防御もままならないクファムの体をすれ違いざまに邪竜が斬りつけていく。


「きゃあああああ!」


 宙に浮いたままのクファムを邪竜が前後左右から襲いかかる。クファムはやはりたいした抵抗もできない。悲鳴の回数だけ次々と体に傷が増えていく。


「やめろー! やめてくれーっ!」


 願いもむなしく邪竜の攻撃は続く。それどころかさらに邪竜の動きは加速してクファムはほぼサンドバッグ状態になる。


「うぐっ……」


 翼は切り刻まれ、角は折られ、眼も片方が潰されたクファム。もはや瀕死の状態だ。邪竜はこのタイミングでついにクファムにとどめを刺しにいった。


「グワアァァァ」


 邪竜は一定の距離をクファムと取ると大きく大きく口を開いた。パアアア、っと光の粒が邪竜の口の中に集まってくる。


「い、いけないっ」


 邪竜は口から放つ強力な光線によってクファムを形残らず消し去るつもりだ。その威力は最初にも見た。あれをまともにくらっては今の防御の体勢が取れないクファムではどうやっても助からないだろう。


「ク、クファムーっ!」


 邪竜の口にたまった恐ろしいまでのエネルギーの塊。今度の場合は最初に撃ったものよりはるかに強力なもののようだ。


「グガアアアアア!」


 邪竜は一気にそれを吐き出した。まばゆいばかりの光の奔流がクファムの体を飲み込んだかに見えた。


「ま、まだですっ!」


 その瞬間。クファムは今まで右手に持っていた剣を消して、新たに巨大な盾を右手に装備したのだった。自分の体を覆うほどの巨大な盾。クファムはその防御力でわずかな角度だけでも邪竜の光線をはじいて体への直撃を防ごうとする。


「はあああー!」


 周囲が百万度を超える超高温の炎に包み込まれる。


「ぐ、ぐうううーっ!」


 それでもクファムはなんとか耐える。盾によって光線を少しでもずらして、その隙に体を光線と反対側に逃がす。これは恐ろしく困難で後のない試みではあった。少しでも力のコントロールを誤ったり気が緩んだりすればその瞬間に死が待っていた。だが、クファムはぎりぎりの精神力でそれを乗り切った。


「くはあっ」


 溶けてなくなるクファムの盾。だが、その直後に邪竜の放った光線がクファムの体を逸れて遠くの海へと落ちていったのだった。ズドーン! その光線が落ちた海ではすさまじいまでの爆発が起こり何百メートルもの水柱が立つのがわかった。


「うぐうっ……」


 なんとか邪竜の攻撃をかわしたクファムだったが、その体はさらに深いダメージを受けた。全身の鱗は焼け落ちて翼もすべて消し飛んでしまった。元の荘厳な姿形の面影は微塵も残っていない。ついには飛んでいることもかなわずに、ふらふらと空から落ちていくクファムの体。そのままクファムはまた元の邪竜島の砂地に落ちてしまったのだった。

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