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side story 1 楽園

 太陽は燦々と頭上に輝き、風が心地よい若草の匂いを運んでくる。

 四百年前には狂った一人の人間の手により、そして十年前には魔物と呼ばれる異形の生物により崩壊の危機に瀕したこの世界も、今ではその痛手を乗り越え、人々はようやく手にした平和な時を生きていた。

 それが、束の間のものだとも知らずに。

「ついに……ついに、この時が来たのですね……『大いなる意思』……」

 茶色の長い髪を、緩やかに流れる風に遊ばせていた美しい女性が、中央に立つ白髪の男に声をかける。

「いよいよ始まるんだね、僕たちの戦いが。……ねえ、今どんな気持ち?」

 左の背に純白の翼を持つ、桃色の髪の少年が言う。大きな紫色の目を細めて、どこか楽しそうに、嬉しそうに。

「……時は、すでに動き出した。俺にはもう……残る時間も、あまりないからな……」

 小麦色の肌に尖った耳という珍しい外見の男が、鋭い琥珀の瞳を遥か彼方へと向けた。

「……我々の戦いは、この世界を守るための戦いだ」

 三人を従える男が、静かに告げた。白髪に、冷たい金色の瞳。降り注ぐ太陽の光の中、佇むその姿は神のごとく。

「……後戻りは、できん。それでも、私に従うか? この世界のすべてを敵に回したとしても……それでも、私とともに歩む覚悟はあるか?」

 男が振り返り、そう問えば。三人は、唇に微か、笑みを浮かべてみせた。なにを今更、とでも言いたげに。

「すでに覚悟はできております。この命の一欠片まで、貴方のため……」

「愚問、だよ。僕の道は、もう決まってるんだから」

「……借りは、返すと約束したはずだ。そしてその時は、まだ来ていない」

 それぞれの答えを聞き、白髪の男はふっと笑う。そしてまた三人に背を向け、男は眼下に広がる、緑豊かな大地を眺めた。

「……この世界を……愛する者を守るためならば……たとえ悪魔と誹られ、蔑まれようとも構うまい……」

 詠うように。静かな決意の言葉を男は紡ぐ。

「……征くぞ」

 その言葉とともに、男は歩き出した。

 この楽園ヘヴンに、恒久の平和を与えんがために。

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