表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

何・・・?

掲載日:2026/02/13

短編です

 ある日の昼下がり、母が働けと毎日しつこいので、母があまり入ってこない裏庭で読書をしていた時の事。

 目の前を服を着たウサギが通り過ぎた。本の端から急に飛び出てきたと思うと、そのウサギは、周囲を見回して、腰元のベルトからチェーンで繋がっている懐中時計を見て、慌てたように走り去っていった。

 私は本を一度下げて、そのふわふわの尻尾が茂みの中に消えていくのを見送った。

「・・・・」

 私の脳が起きたことを処理するのにかなり時間を要してしまったが、あれは確かに服を着たウサギだった。

「アリス・・・的な?」

 私の記憶に残る、不思議の国のアリスの童話が頭を過った。けど、私はその可能性を鼻で笑ってかき消した。

 夢見る少女じゃあるまいし、それにアレは幻覚の一種だか何だかだと言う説もある。アリス症候群だかなんだか名前がついていたはずだ。

「疲れてんのかな~」

 仕事を辞めてニートをしているくせに、と自分を鼻で笑う。

 読書の続きを始めたけど、ちょっとあのウサギが気になった。追いかけたら、何か面白いモノでも見つけられるだろうか。

ちょっとした冒険心がうずいた気がした。

 読みかけのページを開いたまま、私はウサギが走って行ったであろう茂みに向かった。母が趣味で育てていたミニバラがあまりに大きくなりすぎて、母の手を離れてしまったのだけど、私にはちょうど良い隠れ家のような物になっている。

 バラの棘に注意しつつ、茂みの中をかき分けると、どうやら狭い道が続いているようだ。しかし私にはここは通れない。子供だったら通れたかもしれないけど。

 少し考えて、私は見なかったふりをすることにした。どうせ追いかけたところで、お隣の家に侵入してしまうだけだ。三十路を越えて、そんな理由で騒ぎの大元になりたくはない。

 ・・・でもやっぱり気になる。あれは見間違いだったのだろうか。

 こうなると、私はある程度まで確認できないと気が済まない性分なのだ。子供であれば安直にまっすぐ追うだけだが、大人は文明の利器を使う。

 スマホの地図アプリを起動して、うちの周辺を見る。どうやらこの道、お隣さんの敷地には繋がっていないみたいだ。ということは、家宅侵入などで捕まることは無いだろう。そうとわかれば、この小道の繋がる先を調べて、そちらに行けば、ウサギに出会えるかもしれない。

 地図を動かして、道の先を調べると、自転車でよく通る道に繋がっていることが解った。これは行ってみる他ないだろう。

 母に気づかれない様に自転車に跨って、スマホと家の鍵だけ持って走り出した。

 坂道を一気に下って、問題の道の出口にたどり着く。地図アプリで確認して、この場所で間違いないことはわかった。が、案の定ウサギは出てこない。

「ま、そうだよねぇ・・・」

 暫く待ったが、成果なし。わかってはいたことだけど・・・。まぁ良い運動をしたと思って帰ろう。

 自転車を押しながら、坂道を上る。どうして坂道って降りる方があんなに楽で、登るのはこんなに大変なんだろう。

 息を切らしながら、家に帰ると母が怒る声が聞こえた。本を開いたままいなくなったことに怒っているらしい。しまった・・・。と思ったがもう遅い。仕方ないので自転車を置いて、母にばれない様に家にそっと入ろうとした時、家の角から、猫が飛び出してきた。その猫も、服を着ていた。帽子までかぶってなんだか紳士の様だ。

「やぁ、お嬢さん、良い天気ですね」

 そう言って猫は、二足歩行でどこかへ行ってしまった。

「・・・・良い天気・・・ですね・・・」

 つぶやきは坂道にパラパラと落ちていった。



——私は何にも見なかった・・・——

見~なかった、見なかった!♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ