表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

プロローグ

高校二年の十二月。夜の自室。俺は、スマートフォンを握りしめていた。

画面には、同じ二年A組のクラスメイト、葉山燈子との何の変哲もないメッセージ履歴が並んでいる。


「じゃあ、また明日、授業でね!」

それが、たった今届いた最後のメッセージだ。お互い高二のクラスメイトとしての、完璧な「友達」の関係を示す、揺るぎない証拠。


だが、俺にとって、このメッセージが発する明るい響きは、たった今終わった今日の放課後の出来事により、胸を締め付ける鋭い痛みに変わっていた。


俺が葉山燈子を「友達」として見られなくなったのは、数時間前の、あの放課後からだ。


あの日。急な雨に降られた俺は、傘を差しに昇降口へ向かったが、誰もいない渡り廊下の隅に、たった一人で座り込んでいる燈子を見つけた。


いつも完璧に整った彼女の姿は、ひどく乱れていた。雨に濡れた制服の裾を強く握りしめ、顔は手のひらに埋められていたが、肩が小さく、規則的に震えているのがわかった。


俺が声をかけると、燈子はハッとして顔を上げた。俺の目に飛び込んできたのは、周囲の光を全て吸い込んだかのように、孤独と不安に満ちた、彼女の素の顔だった。


彼女はすぐに、いつもの、周りの全員に向けている「陽だまりの笑顔」を作って見せた。


「あ、潮見くん。ごめんね、ちょっと忘れ物しちゃって」


その時の震える声と、目だけは笑っていなかったその顔が、頭から離れない。


俺は悟った。葉山燈子は、周囲が求める「完璧で優しい葉山燈子」という分厚い殻の中に、本当の自分の弱さや孤独を閉じ込めているのだと。


俺の心の中に、「この弱さを、この素顔を、自分だけが知っていて、自分だけが守りたい」という、独占的な気持ちが流れ込んできた。


俺は今、その真実を抱えながら、明日もまた彼女の隣で「完璧な友達」を演じることになる。


切ないのは、告白ができない理由が、彼女への愛ゆえだということだ。もし振られたら、せっかく築いたこの居心地のいい関係は壊れる。


そして何より、彼女の必死に維持している「殻」を破り、彼女を傷つけてしまうかもしれない。


俺はスマホの画面をそっと消した。明日もまた、彼女の隣で「友達」を演じる覚悟を固める。

殻を破ること。それは、彼女を孤独から救い出す、唯一の道かもしれないのに。


俺には、その一歩を踏み出す勇気が、まだ見つからない。


俺は布団に潜り込んだ。今日の放課後に知ってしまった葉山の秘密が、頭の中で何度も再生される。


この秘密を抱えたまま、俺はほとんど眠れない夜を過ごすことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ