第4話:蒼い花の処方箋
侯爵家の庭には、珍しい薬草や花々が整然と並んでいる。だが、その中でもひときわ目を引く青い花──“蒼花”──があった。伝説では、微量でも人体に強い作用を及ぼすとされる薬草だ。
「……これは、舞踏会で使われる毒の材料かもしれない」
庭を見回すと、花の茎が不自然に折られた跡があった。誰かが、意図的に持ち去った形跡だ。私は慎重に、その花の残りを収穫し、薬局へ持ち帰った。
机に並べ、前世の知識で調合可能な成分を分析する。青色の花弁から微量のアルカロイドを抽出すると、確かに毒性の可能性があることが分かる。
「舞踏会までに、これを安全に管理する必要がある……」
そのとき、マリエットが窓から顔を出した。
「ヴィオレット様、庭師さんが変な話をしていました。夜中に誰かが庭をうろついていた、と」
暗い影が庭を横切る。侯爵家を狙う者が着実に計画を進めている。舞踏会での事件は偶然ではなく、誰かの策略だと確信した。
私は解毒剤と安全保管用の処方箋を作成した。蒼花の成分は、希釈と加熱で無害化できることが分かる。これなら、侯爵家内の人々を守りながら、毒を分析し、真相に近づくことができる。
その夜、薬局で作業を進めていると、侯爵家副家令・レオンハルト・ヴァイスが静かに部屋に入ってきた。
「ヴィオレット嬢……その花、危険だと知っているのですか?」
「はい。微量の毒性があります。ですが安全に管理すれば、事件の手掛かりにもなります」
レオンハルトは目を細め、私の調合手順を見守る。冷静な彼の視線に、私は少し緊張するが、自分の知識を信じて作業を続ける。
「なるほど……確かに、君の判断は論理的だ」
その言葉に、微かな信頼の光が宿る。侯爵家の未来を守るため、そして自分自身の人生を取り戻すため、私は薬瓶を握りしめ、作業を続けた。
薬局のランプが揺れる中、私の手元で蒼花は静かに揺れ、次の事件への伏線を語りかける。毒と薬は表裏一体──そして私は、両方を駆使して真実を解き明かす。




