逃がさない
「……天使だよ、こいつ」
焦りながら言うカルテットに対して、最初は訳が分からなくなっていたユイの理解がようやく追いつく。
「ッ!?じゃ、じゃあ!!」
「うん…この状況……めちゃめちゃまずいよ…」
そう、戦い慣れていないどころか自らの権能すら理解していないユイは、今すぐに天使と戦える状況じゃなかった。
「……ん?まてよ。でも天使だろこいつ」
「うん!だからそう言ってるじゃ…」
「いやだから、天使は地上界じゃ権能使えないんじゃないの?」
ユイの言葉を聞いてカルテットが一瞬動揺する。
確かにユイの言う通り、天使は地上界では例外を除いて権能を使えない。
……カルテットと同じことをしなければ。
無慈悲にも繰り返されるインターホンの音。
「それに俺だけ出れば大して問題はないだろ」
「でも……」
「大丈夫大丈夫」と繰り返して玄関に向かうユイ。そんな彼を送り出してリビングで待つカルテットの耳に、嫌な会話が流れ込んだ。
「あ!シノじゃん。何しに来たんだ?」
「ん、先輩の家、誰かいる?」
「え?」
と。
それを聞いたカルテットは急いで玄関へと向かう。
カルテットの予想が正しければ、先程ユイが「シノ」と呼んだ女性は恐らく――――――――。
「ユイ!!」
天使と契約している人間だ。
「あ、出てきた。君が遅いから先輩がこうなったんだよ」
彼女の横……というよりは足元には、腹部から血を流して倒れているユイの姿があった。
気を失っているだろう。このままでは失血死する。
常人であれば。
「その権能は……!!」
シノ、と呼ばれていた白髪のショートヘアの少女に向かって睨みつけながらカルテットが言う。
そんなカルテットをなんとも思わず、自身の周りに浮かんである燃え盛る槍をクルクルと回りながら話すシノ。
「これは【デタラメの槍】。炎の槍を自由自在に操る権能」
「……とりあえず…ユイの分!」
そう言ったカルテットは予備動作無しに素早い蹴りをシノの横腹に入れる。
「ッ!早っ!」
シノが少し体制を崩したタイミングで、カルテットは素早く倒れているユイを抱えて、天高く空を飛ぶ。
「……逃がさない」
そう言ったシノは背中から翼を生やすと同時に頭上にも光輪を出現させる。
そして力を強く貯めると……カルテットを追って空を飛んだ。
上空まで飛んだ少女はその場で停止して、こう言った。
「権能行使、【デタラメの槍】」




