金無いからパスで
『お疲れ様でしたー!!』
部員の1人が元気な声で部活動の終わりを告げる。
この挨拶はこの高校、蒼天高校軽音楽部の恒例行事。
そんな返事を終わらせてそそくさと帰ろうとする長髪の人物が1人居た。
この小説の主人公、湊月ユイである。
「ユイもカラオケ行かない?」
そんな彼に声をかけた赤髪の人物がいた。
ユイの古くからの友人、つまるところ幼なじみと言うやつだ。
「あーアカネ。……金ないからパスで」
「ちぇー。あ、ニコはー?」
金欠を理由に帰るユイと反対方向へ、別の人を誘いに行くアカネと呼ばれた人物。
彼女が月夜アカネ、蒼天高校二年生ベースパートの人物である。
そんなアカネを横目に帰宅するため靴箱へと向かうユイ。
湊月、と書かれた靴箱を開け、茶色のローファーを取り出し履き替える。
外に出ると冷たいの風が頬を撫でる。
歩きながら冬空を見上げたユイの目に、奇妙な、それでいて神々しい光が雲の隙間から零れる。
その光の中から、翼が生えた人影が映る。
一つの人影を二人が追いかけていた。
まるで犯人を追い詰める警察のように、まるで増え鬼で最後の一人を捕まえようとしている鬼のように。
「なっ……なんだ!?あれ!!天使!?」
その人影が進む方向に向かうユイ。
高校二年生と言えどまだまだ少年心が残っている彼はどうしてもその影がなにか調べたくなったのだ。
気づけば早足に、気づけば走りに。
だんだんと暗くなっていく道を駆けるユイ。
白い息を吐きながら、上空の影を追いかける。
これだけ寒い気温なのに体はむしろ熱くなってくる。
それほどまでにユイからすればあの上空の影は魅力的で、それでいて興味をそそるものだった。
走り続け、追い続けているうちに上空の天使と思われる影は一人になっており、ユイはそれを立ち止まって見つめていた。
すると……
「はっ!?やっば……!」
ユイがそう言ったのは他でもない、その上空の天使と目が合ったからである。
瞬きをし、目を擦って空を見上げると先程までの位置には何もいなかった。
やはり幻覚だったのだろうか?そんな気がして、なんだかバカみたいなことをしていた自覚が湧いてくる。
「……帰るか」
そう思って振り返った瞬間、目の前には自分と同じ背丈、白いロングヘア、赤い瞳、首元の伸びきった白いシャツ……そしてボサボサの翼、バツ印が着いている光輪を備えた人物が立っていた。
「君……さっきから見てたよね?」




