魔の手とお菓子
ここは現代、日本。
けれどもここは私たちの生活する現代とは違う並行世界の現代だ。
この世界では私たちがまた別の生き様でそれぞれの道を歩んでいる。
「もしも。」
の集合空間、それがこの世界なのだ。
今日からお付き合い頂く物語はこの今いる日本とはまた別の日本で生きる少女の物語。
正代第二中学、グラウンドにて。
「いち!にの!さん!!」
「おお〜流石体育はAなだけあるわ。」
「ちょっと?体育はって何よ!“は”って!?」
「別に〜?」
こちら、体育はAの少女の名は斉藤魔法だ。
魔法と書きまほと読む。
キラキラネームと呼ばれる部類なのでは、と友達からは打診されるが当の本人は気に入っているので問題ない。
そしてその友達というのが体育はA発言をした少女、新井菜摘だ。
菜摘は成績優秀で成績はオールA判定という脅威の持ち主だ。
ついでに言うと魔法はD判定まであるうちオールD判定だ。
体育を除いて。
「あっそういえば魔法テスト勉強してる?もうすぐ中間テストあるんだからちゃんとやりなさいよ?」
「ゔっ…。きょ、きょきょ今日あたり始めないとな〜って?思ってたところなんだよね〜、あは…」
「やりなさいよ?」
とにっこり笑いながら圧をかける優等生を目の前に魔法は硬直する。
「は、はひ…。」
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「ただいまぁー。」
「ん?おはへひ〜。」
「あっお姉ちゃんただいま〜って…何食べてるの?」
「こへ?……ん、これはねぇなんとっ!三日月風屋で数量限定の三日城宮焼きだよ!!!」
「みっ…三日城宮焼き!?あの幻とも言われるあの!?」
「ふっふっふ。そう。あの幻のね…。」
三日城宮焼きとは、どら焼きの様な甘い生地が月型にくり抜かれ中にレモンシロップがたっぷりと入っているお菓子である。
それは月の兎が王にもてなすお菓子…。
という設定の元このように不思議な名前がついているお菓子だ。
これは相当な人気を誇るスイーツであり、お土産の品にも喜ばれる一品だ。
「なんでお姉ちゃんが…?」
「はあぁー、そんなん朝から並んだからに決まってるじゃない。」
頼むからそんな深いため息をつかないで欲しい。
私が本当の馬鹿みたいではないか。
「はい、これ。魔法のぶん。」
「えっ?くれるの?ありがとう、お姉ちゃん!」
「どいたま〜。」
「じゃあちょっと部屋で食べてくるわ〜。」
「はいはーい。」
魔法は先程あれだけ菜摘に詰め寄られたこともすっかり忘れて三日城宮焼きに夢中になっていた。
部屋に入れば邪魔は無い。
「増!!」
魔法が言えば手元にある三日城宮焼きが2つに増えた。
これは物の質量や力の制限を変えることで数量もそれに沿って変化する。
魔法は一体何の変異か、術が使えた。