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2話 パンを焼いてみよう




 「ラビリンス」のレベル上げは主に3つ。


 1つはモンスター討伐とうばつ


 2つ目は何か物を作って「生産」で上げるレベリング方法。


 3つ目は「ファーム」と呼ばれる、採取さいしゅ採掘さいくつ作業など。


 もちろん、討伐の方が経験値が多く入るんだけど、最初は簡単な生産でもレベルが上がりやすい。

 ファームは本当にオマケ程度。どちらかと言うとスキル練度向上の意味合いが強い。

 


 錬金や鍛治などはお金を払って設備を借りるか、買うかしなければならない。

 けれど、料理に関しては共同のかまがあるので、小麦粉と塩さえあれば作れるパンは初心者プレイヤーにはオススメだと言われた。僕のようなね。



 いくつもある石窯から空いているひとつを選び、ニャゴちゃんにパン作りのレクチャーを受ける。


 持ち物を見れる透明なウィンドウ画面から小麦粉と塩を選択して、石窯にセット。はい、終了。



「え、これだけなの?」


「うん。ほっとくと焦げるからタイミング見て取り出して。ウチはパンの状態見えてないから」


「焼けたわ!」



 ポンッと手のひらに出て来たパン。


 見た目は小さなフランスパン。食べてみてとニャゴちゃんに言われたので、いただきます。


 モグモグ……モグモグ……。


 普通のパンだと思うけど、今は食事をショートカット設定にして、味覚もシャットアウトしているから何とも言えないわね。3口で飲むように食べた。


 HPゲージ、MPゲージの下にある、漫画みたいな骨付き肉の食料ゲージがグ〜ンと色付いた。


 買い物とパン焼きの手順を習う間に、僕はお腹が減っていたみたい。



「パンは手で食べられる。皿料理もあるから注意。肉は串焼きがオススメ」


「皿? 串焼き????」



 どうやら、歩きながら食べられる物と、座らないと食べられない料理があると。


 パンや串焼きなど、片手でそのまま食べられる物がフィールドで行動する時の食事に向いているみたい。


 後は器とか皿が必要な料理は座らないと食べられない。椅子でも、地面でもいいらしいけれど。何か変なところリアリティがあるわ。


 お肉を料理する場合は串焼き肉。皿なら焼き肉になるので、そちらは最低でもフォークが必要っぽい。


 僕は料理レシピを見つつ、まだ取得していないレシピをザッと眺める。


 料理名の横には必要な食器。

 食材とは別に調理器具の記載があった。

 覚えてないモノは、食材の表示が「?(ハテナマーク)」だ。

 さらに確認すると、調理器具や料理名ですら「?」もある。

 明らかに今のレベルに見合っていない料理らしい。



 料理名 パン

 食材  小麦粉、塩

 調理  窯のみ


 料理名 焼き肉(皿)

 食材  ?

 調理  包丁、フライパン、ヘラ



 火を通すなら、最低でも窯は必要。

 パンは料理の中でも特殊とくしゅで、初心者救済のために、材料と設備のみを必要とする部類に入る。

 野菜や果物とか、そのまま食べられる物もあるけど、調理された物の方が食料ゲージの増えは良いんだって。



「ここまで大丈夫?」


「えぇ、料理に関しては説明文より、実際にやって見た方が覚えるわね」


「窯に食材の移し方がわっかんなくて。初日に何回死に戻りした事か」



 遠い目をしたニャゴちゃんはきっとβテストプレイヤーとして色々苦労したとみえるわね。


 パン以外の調理方法を教わるために、ニャゴちゃんのマイホームにおまねきされた。


 ただ向かうだけでも、はじめたばかりの僕ではニャゴちゃんと歩く速度が違って、何度も足を止めさせてしまう。ごめん。


 やっと到着したニャゴちゃんのマイホームは、仮の拠点きょてんだと言う事で、かなりコンパクトな2階建てだった。


 木製のドアを開けて1階がキッチンと収納。2階にベッドが2つ並んでいる。


 ベッドの片方は僕が使っていいとの事で、使用者登録をする。この場所でログアウト出来るようになった。

 さらに、死に戻りした時は先ほどの教会か、このベッドでき直しが出来る。リスポーン地点になった訳だ。


 では、料理の続き。

 あらかじめ用意してくれていた、食材と調理器具を使って、キッチンで串に刺した肉を焼いてみる。


 こんがり焼けたタイミングで調理をやめると、手元に「串焼き肉」をつかんでいた。



 ピコンッ


『レシピが開放されました』

『レベルが上がりました』



「おぉ!」


「はじめてで焦がさないなんて。流石ナナちゃん」



 脳内音声のアナウンスと、さらに、視界の片隅かたすみにもレシピ開放やレベルが上がった事を知らせる文字が、数秒空中に表示された。


 半透明なメニュー画面を指で操作し、料理レシピを確認する。


 新たに覚えたのは『串焼き肉』。

 材料と調理器具をそろえて、料理が成功したらレシピが開放される。


 先ほどグレーに表記されていたモノが、今はカラーの絵と「?」だった食材がちゃんと見えて文字表記が濃くなった。



「今のが邪道なやり方」


「普通は順番が逆じゃないかしら?」



 見えないレシピの材料は、料理ポイントを消費して開ける事が出来るっぽい。


 スキルレベルに見合った料理を順番に作っていけば、失敗しにくいと言われ──焼き肉のレシピすっ飛ばして、先に串焼き覚えたのね僕は。そりゃあ、はじめてで焦がさないなんて言われる訳だ。



 じくとなる料理名が並び、その先は枝分かれしたグレーの未取得レシピ。


 まんべんなく取得するもよし!

 ひとつの料理系統をきわめるのもよし! 


 どうやって料理道を進むかはプレイヤー次第。邪道もアリなんていいじゃないの〜。胸がおどるわ。



「とりあえず、色々頑張ってみるわね」


「うん。分かんなかったら画面共有。あと、コレあげる」


「?」



 目の前にアイテム譲渡じょうと申請しんせいの一覧が出て来た。


 ・マジックウェストポーチ

 ・肉

 ・串

 ・初級HPポーション

 ・初級MPポーション

 ・採取用ナイフ

 ・マイホームのカギ



「こんなに……いいの?」


「むしろゴメン。ウチはクランに入ったらそっちに拠点移動。マイホーム好きに使って」


「ありがと〜。助かるわ」



 正直、マイホームがないと宿屋の利用を余儀よぎなくされていたので、資金節約にこの申し出は助かる。お言葉に甘えてありがたく使わせてもらうわね。


 串焼き肉を量産しつつ、今後のステータスポイントの振り方をレクチャーされる。


 面白いのが、HPは物理装備重量。MPはマジック系の亜空間収納数の増減に比例するとのこと。


 武器や防具を重たく良い物にして物理攻撃や防御、HP重視で育てるか。


 MPを育てて魔法、生産やファームで時間経過なしの亜空間収納のスロットル数をかし、持てるアイテム量や種類を増やして行くか。

 僕は後者になる。ヒーラーと料理をまずは何とかして、ラビリンス内でストレスなく生きて行ける術を確立せねば。


 HPポーションと言う回復薬もあるけれど、やっぱりお金がかかる。

 僕が買うならMPポーションの方がコスパが良いと言われた。

 魔法職のヒーラーとして育つにはその方が効率が良いみたい。


 先に回復と食料を何とかして、直ぐには死なない身体を作り上げない事には冒険すらも始められないからね。


 餞別せんべつもらったマジックポーチを装備出来るよう、まずはMP。

 それから、基本の動作速度や、フィールドモンスターから逃げ切るための移動速度にステータスポイントを振る方針で料理にいそしむ。


 コレではじまりの街の外を出て、ファーム活動をスムーズに行えるっぽい。



 おしゃべりしながら串焼き肉を量産し、手持ちのお肉が無くなったところでニャゴちゃんとはお別れ。


 お見送りしてから、僕は再びNPCが開くバザールの方に足を向けた。


 ニャゴちゃんの話だと、ふところに余裕が出来たプレイヤー達が時間短縮のためにパンを買い求めているんだって。


 今なら需要があるから、パンを焼いて売り、金策きんさくするには持って来いだとアドバイスを受けた。






「いや〜。みんな発見されたダンジョンの方に行っちゃって、パン売りがいなくなってたんだ」


「はじめたばっかりだったから、逆に僕は助かったわ。はい、パン10個で100エィね」


「ありがとう!」



 共同の窯焼きスペース前には、僕の他に食べ物やポーションを売っているプレイヤーがちらほら。


 サーバー開設と共にスタートダッシュを決め込むプレイヤーが多かったために、すでに大半が街の外に出ているみたい。


 パンを自分で焼く人はいても、ニャゴちゃんが言っていたように、売る人までは今はそんなにいないらしい。



 お金がある程度貯まったところで、折角だたら僕もフィールドに出てみる事にした。



 ────したんだけど。



 はじまりの街の門を出て、だだっ広い平原のド真ん中。


 見通しのいい場所で「トマト発見!」とかしていたら、危うく餓死がしするところだった。


 食料ゲージがゼロになり、HPがけずれる音で我にかえった僕は串焼き肉を手に取る。




 『アイテムを消費しました。パートナー捕獲状態に入ります』 



「へ??????」



 目の前には傷だらけの大きな黒い狼が鎮座ちんざし、作ったばかりの串焼きをモグモグと咀嚼そしゃくしていた。



 串だけになった自身の手元と、眼光(するど)い狼を何度も交互に眺め、僕は新たな串焼きをウェストポーチから取り出す。



 パクッ。



「あ……僕の肉……」



 仕方なしにパンを取り出して、自分の口に放り込み。初級HPポーションをガブ飲みしたところで、コレで死なない! とか、命を優先するあたり、僕もラビリンスのプレイヤーらしくなった気がした。


 ところで君はどちら様ですか? デカいわんこよ。



 自身とわんこを取り巻く、黒のかこいを確認してから、僕はしばらく途方に暮れた。


 あ、もっとパン食べようかしら?



お読みいただき、誠にありがとうございました。


試し読み版は以上になります。

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