1話 はじめましてのラビリンス
『アイテムを消費しました。パートナー捕獲状態に入ります』
「へ??????」
草原のド真ん中。抑揚のない機械音声が脳内でこだまする。
目の前には傷だらけの大きな黒い狼が鎮座し、作ったばかりの串焼きをモグモグと咀嚼していた。
串だけになった自身の手元と、眼光鋭い狼を何度も交互に眺め、僕は新たな串焼きをマジックウェストポーチから取り出す。
空腹で死にそうな僕の口に──結局、その日。串焼きの肉が運ばれる事はなかった。
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(仮)VRMMOの世界で
大トロにぎりはじめました
〜主人公オネェさんは
最強もふもふ黒狼さんと
ファーム無限で配信中〜
【試し読み版】
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リアルを超えた新体験をアナタに! が売りであるVRMMO-RPG『無限旅人ーMUGёN▽TäBIBITOー』シリーズ。
有名ゲーム会社が運営するそのシリーズに、新たなサーバーが開設するという話は発売前から注目を集めていた。
かく言う僕も注目していた一人である。
元々はガンシューティングなどのFPSで人と対戦するゲームを主にしていた自分が、なぜストーリー性のあるRPG ──しかも多人数同時参加型である、畑違いなモノに興味を持ったかと言うと。リアル友達から誘われたのが大きい。
注目度の割に初回販売数を絞っての抽選や、一般だとβテスト組からの招待がないとプレイ出来ない、剣と魔法の世界を舞台とした「ラビリンス」の日本サーバー。
サーバーの負担を減らすために、今流行りのゲームAIはお客様センター対応やバグ修正等、運営サイドでしか存在せず。
その代わりだだっっっ広いフィールドに、リアルよりもさらに芸術性を極めた、写実的絵画を思わせる高度なグラフィック。
ファンタジーな仮想世界を旅する感覚でゲーム出来ると友達に誘われ、ふたつ返事でOKした。
そんな、VRMMO-RPG初心者の自分が、友達からの招待パスコードを入力して「ラビリンス」の利用規約にサインからのゲームをダウンロード。
代金は全身フルダイブ対応のカプセル型家庭用VRゲーム機に繋がれた、ネット環境からの引き落としになる。
サーバーに入って最初に躓いたのが、キャラメイクだった。
まず、キャラメイクだけで1日が終わった。
言い訳をすると「ラビリンス」の日本サーバーの営業時間が昼間15時〜夜中3時までなのだ。
今回は睡眠中にVRゲームを楽しむのではなく、意識のある状態で普通にinして3時間ほど夜にゲームをしてから就寝した。
「こ、細かすぎるっ!? どうしようか迷うわ〜」
ってな具合でね。
それまで、武器のスキンやキャラスキンを変えてゲームした事はあっても、あくまでも量産型の中から選ぶだけ。
操作キャラの見た目を頭のてっぺんから足のつま先まで、全身イジるなんてした事もなかった僕は、オススメオートを無視して、マニュアルの手作業でキャラメイクを楽しんだ。
今回の全身フルダイブは声と同じく、身長もリアルを反映されるが、他は好き放題。
出来上がりは高身長な細マッチョで、中性的な顔立ち。我ながらイケてるオネェが出来たと自負している。
透き通る滑らかな肌に、顔つきは儚い系。
1番チカラを入れた腰まである長髪は青銀のグラデーションになっており、ところどころ濃く黄色い束になったメッシュの髪が混じっていた。まつ毛や瞳の色も青系統。
アイメイクは差し色が黄色で、耳はやや尖り気味と、かなりファンタジーな見た目である。
次に躓いたのが、ゲーム仕様の設定。
明るさや音量調節とか、アイテムを取り出すモーションの設定とか。
あとは普通に動作確認。ゲームによっては何でも答えてくれるサポートAIが一人一人付くほど、仕様が複雑な場合がある。
今回は手厚いチュートリアルもなければ、そう言うサポートキャラ的な立ち位置もいないらしい。
ゲーム中は何か分からなければ周りに聞くか、後はメニュー画面の説明書きの中から検索をかけて自分で調べるしかない。
そう、明るさ調整や地図の配置場所を決めるにも、まずどうやって設定するかを調べなければ進まない罠。
ひときわ苦労したのが、用語やゲームの進め方の問題。HPとMPとか攻撃や防御力とかは分かるけど、他は何だこれ? が多かった。
小さい頃に普通のRPGはやった事ある。けれど、主人公にジョブ選択とかなかった気がする。おそらく。
スキル取得にいたっては数が多いだけに、自分で選ぶのは諦めましたとも。
友達に相談したところジョブ「ヒーラー」と「料理」スキルを取っておけばとりあえず死なないから、最初はソレで様子見てもいいかも知れないと言われた。
ちなみに、何も知らずに下手にゲームをはじめると簡単に死ぬと言われたので、コレだけは頭に入れておいた方がいいと注意された箇所は、真面目に説明書きは読んだ。
そこで2日が終わって、3日目にしてやっと僕はゲーム開始場所である「はじまりの街」に降り立った。
「うわぁ……綺麗ね〜。この教会のステンドグラス一枚作るだけでも、かなりの労力使いそうだわ」
「ごめん。細部を見るのは余裕が出来てからナナちゃん」
プレイヤーネームは「nanashi」にした。僕の本名が七瀬だから、寄せた名前の方が反応しやすいと思って。
白くフワモコなショートボブに、気だるげな眼は猫を思わせる金色。
もちっとしたほっぺがチャーミングな友達は「ニャンゴロもちもち」ってちょっと気の抜ける名前だけど、攻略組のクランに勧誘されたらしい。
元々のプレイスタイルが違い過ぎるので、ある程度したら別行動。たまには一緒にパーティ組もうね〜っなんてお互いのほほんとしていたら、攻略最前線組に初っ端で声をかけられて、アワアワしている友達です。
話聞いた時は凄過ぎて笑っちゃったわよね。
ニャンゴロもちもち──長いんでニャゴちゃん。から、このゲームに誘った手前、クランに入るのを躊躇していたけれど折角だから逝って……ゴホン。行ってこいって背中を押すどころか、蹴り上げたわ。
初期リスポーン地点である「はじまりの街」の教会で待ち合わせ。忙しい中で最初だけ案内をお願いした。
これが終わったら、正式にクランに入ってダンジョン攻略にいそしむってよ。ガンバレ。
教会から出た僕らがまず向かった先はNPCが食料品を扱うバザール。
この「ラビリンス」と言うゲームはHPとは別に、ちゃんと食事を取らないと空腹で死ぬらしい。
FPS出身者からすると、かなり鬼畜なゲーム仕様だけど、その面倒臭さが僕には新鮮で面白いと思う。
ワクワクしながら買い物の手順を学び、小麦粉と塩を初期装備のウェストポーチに仕舞う。
お次に向かった先は共同の窯焼きスペース。
結構な数のプレイヤーがいる中で、僕はこれからパンを焼いてレベル上げに徹するわね。




