転生先「ラダ村」にて6
村長のドーガの英才教育が決定してから2週間が経った。
この2週間でかなり流暢に話せるようになったアルフはドーガに色んな質問をしていた。
まずは暦だ。この星『ガイア』の1年は地球とほぼ同じで360日で12ヵ月だった。
地球は365日で尚且つうるう年なんて年があり1年の誤差を調整していた。
しかし『ガイア』にはそれが無いらしい。毎年360日だ。
創造神様が創った星ならあり得る話だ。
ちなみに今日は5月1日だそうだ。
村長とは村長の家で暖炉の前の毛皮の絨毯の上でいつも話をする。
毛皮を掌で撫でながら今日は時間の概念があるのか聞いてみた。
もちろん秒や分、時間と言った言葉があるか分からなかったのでぼかして聞いた。
「村長、1日の長さはどれくらいあるの?」
ドーガは顎に手を当てて答えた。
「1日は24テラある」
まさかの地球と同じだった。単位は違ったが。
そしてさらに細かい時間単位があるかもと思いアルフは質問を続ける。
「じゃあ1テラはどのくらいあるの?」
一つ頷いてドーガが答える。
「1テラは60メラある」
そして先回りするように続けてドーガが答える。
「そして1メラは60キラある、それだけだ」
「そうなんだ~、ありがとう!」
この世界ではお辞儀は無いようで、感謝の意を示す場合は右手を自分の心臓辺りに当てることが感謝の礼だと教わった。。
アルフは教わったように感謝の礼をとった。
ドーガは一つ頷いて口を開いた。
「うむ、お前は本当に頭がいいな、その歳で1日の長さに疑問を持つ者はいないだろう」
(まぁまだ2歳半だから当たり前だよな~、どう答えよう…)
少し考えてアルフは答える。
「お日様が昇って沈んで、また昇るまでの長さが気になったの」
子供らしく答えた。
「そうか、また気になったことがあれば聞きに来なさい」
そう言ってドーガは立ち上がる。
今日はこれで終わりらしい。話をするようになって最初の頃は呂律の回らない言葉で質問しまくってしまった。
そうしている内にこうやってドーガが立ち上がると今日の話は終わり、という決まりが出来ていた。
「村長、今日もありがとう!」
感謝の礼をとって村長の家を飛び出していく。
(さて、そろそろ【クラフト】スキルを使ってみようかな)
この2週間、アルフは村長宅に通いながら道端に落ちた石を拾ったり、草を毟ったりしては【格納空間】に放り込んでいた。
ちなみにこの村の辺りに生えている草は今の所3種類しか確認できておらず、まず草原の8割を占める草が〈シバ草〉という。
【格納空間】の説明欄によれば牧畜に適した牧草だそうで草食動物が好んで食べるそうだ。
残りの2割の内1割5分が村の傍を流れる小川の近くに生えているススキのような草で〈ホウキ草〉という。
【格納空間】説明欄にはホウキの代わりに使っていたからとあった。
(まぁまとめたらホウキに使えるだろうな)
そんな感想を抱く中アルフは残りの5分の草に目をやる。
それが〈フギ〉という草だった。
【格納空間】の説明欄に食用可とあったのでもしかしてと自生しているのを確認してみれば麦のような植物である事が分かったのだ。
アルフはせっかくの有用作物を何故村人たちは栽培していないのか疑問に思った。
広い草原の中にポツンポツンとまとまって生えており村人はそれを1か所まとめて刈った茎だけを取り乾燥させて〈フギ藁〉として寝具などに使っている。
取れた実は村で飼っている馬に与えているそうだ。
要は村人は〈フギ〉が食用である事を知らないのだ。
この情報はかなり有用だしこの〈フギ〉この村を発展させていく上でかなり重要な作物になる。
だがしかし、アルフはまだ3歳にも満たない子供だ。
そんな子供のいう事を聞く大人はあまりいないだろう。
(両親や村長ならば試してみようとしてくれるかもしれないが…)
問題はまだある。〈フギ〉を挽いて粉にしなければならないのだ。
この村に石材加工がなされているのは唯一包丁くらいだ。
その包丁も磨製石器のような物である。
そんな文明レベルで臼などの大きな道具を作ろうとすればかなりの労力を強いられるだろう。
(まだ早いよなぁ…)
アルフが5歳6歳ほどになれば【スキル】が発言したと公言しても訝しむ人は少なくなるだろう。
それまでは大人しく今ある道具や素材を使いつつ生活するしかない。
(そうと決めたらまずは漁か釣りだなぁ)
村の近くには小川が流れており、村から見た限りではそれなり流れも速く魚も豊富らしい。
だが村人が魚を捕る事はあまり無いそうだ。
なぜならいまだに木の槍を使って突くような狩りしかしていないからだ。
運試しで槍を投げて魚に当てて遊んでいるくらいらしい。
(う~ん、外敵という脅威が無いとこんな感じの文明になるのかなぁ?)
村人たちはもちろん狩りもする。
だがその狩りも罠を仕掛けて運よく罠に掛かった獲物が身動きが出来ない状態で槍で刺して仕留めるような方法を取っているらしい。
(根本的に交戦するって事を知らないのかもなぁ、隣の村まで相当あるらしいし、行商人もホントにたまにしか来ないみたいだしなぁ)
そんな事をつらつら考えながら歩いていたら自宅に着いてしまったみたいだ。
庭で母アイシャが野菜に水を撒いているのが見えた。
「あら、アルフおかえり」
「ただいま、アイシャ母さん」
「どうしたの?難しい顔してたわよ」
(見られてたかぁ…釣りの知識くらいなら何とかごまかしつつ伝えられないかな?)
そうしてアルフは釣りの知識を伝えるため、子供が話す様に気を付けながら作り話を話し始めた。
「さっきね、ホウキ草の葉っぱが1枚飛んできたんだ」
「あら、珍しいわね」
「うん、それでねその長い葉っぱで遊んでたらリーシャさんの家の近くに芋虫を見つけたんだ」
ちなみにリーシャとはこの村でお針子のような事をしている女性だ。
そして母アイシャの妹でもあり、要はアルフの叔母である。
ルフトがアルフに持ってきたボールの製作者である。
「うん、それでどうしたの?」
母アイシャはそんな息子のちょっと回りくどい説明にも嫌な顔せずに聞いてくれている。
「それでその芋虫に長いホウキ草の葉っぱの先を近づけたら食べ始めてね」
「え?芋虫もしかしてそのままなの?」
もしかしたら叔母のリーシャは芋虫が苦手なのかもしれない。
母アイシャが口に手を当てて見るからに慌てだした。
「えっとね、芋虫が草を食べ始めて昇ってこようとしてたからゆっくり葉っぱを持ち上げたんだ、そしたらね、葉っぱの先っぽに芋虫がぷらーんってぶら下がったんだー」
「そ、そう…それで芋虫はどうしたの?」
間違いなくリーシャは芋虫がダメなんだろう。
「村の外の柵に葉っぱと一緒に置いてきたよ」
「そう…それならよかった」
っとアイシャが胸を撫でおろす。
しかしアルフが伝えたい事が伝わっていない。
(そこじゃないんだ!伝えたいのは芋虫を釣り上げた事なんだよ!母さん!)
内心の不満が顔に出ていたのだろう。アルフの顔を見て不満に思っているのを察したアイシャが話を戻してくれる。
「芋虫がぶら下がったのね、楽しかった?」
「うん!お魚も長ーい糸に虫さん付けたらぶら下がらないかな?」
そしてここでアルフはストレートど真ん中の剛速球をぶん投げた。
あえて変化球で攻めて最後の最後にストレートで話の確信を投げ込む。
「?!それってお魚を糸と虫で捕ろうって事?…いえ…でもそれは…」
「あーお魚だと虫さん食べたらすぐに口から取れちゃうかな?何かが引っかからないとぶら~んってならないかな?」
「?!」
その言葉にアイシャは真剣な顔でアルフに留守番しているように告げた。
「母さんはちょっとこれから村長に話をしに行くから家で待っててね」
「うん!待ってる!」
(ふぅ…やっと伝わったか…)
そうしてアイシャは村長宅へ駆けていった。
(この村にある糸ってなんの糸なんだろうか…今度素材を少しもらって俺も作ってみよっと)
道具の事に思考を巡らせ始めたアルフは考え込みながら自宅へと入っていったのだった。