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転生先「ラダ村」にて5

アルフが初めてのポカをやらかしてから2年が経った。

ハイハイが出来るようになった後はアルフにとってはちょっと暇な日々が続いた。

動き回る際には必ず両親のどちらかの監視がついていたため、家の中を探索する事は出来ても【スキル】を使う隙がなかったからだ。


産まれて1年過ぎ、捕まり立ちが出来るようになった時期に初めて言葉をしゃべれるようになった。


「あーしゃ」


最初に発した言葉はもちろん母アイシャの名。

それを聞いたアイシャは大粒の涙を流しながらアルフを抱きしめて喜んだ。


「ああ…そうよ…アイシャ母さんよ…」


この時ルフトは家におらず、帰宅して初めてその事実を知るとアイシャと共に喜んだ。

そしてアルフを高い高いしながら話しかけ始めた。


「よーし、アルフ、ルフト父さんだぞー」


「うー、るーと」


すぐにアルフがルフトの名を呼ぶとピタリと動きが止まり、次の瞬間には泣きながらアルフを抱きしめていた。


「ああ…ああ…ルフト父さんだぞ…」


ルフトもアイシャと同じセリフで喜んだ。

そんなアルフは口が利けるようになると色んな物の名を両親に尋ね始めた。


今日は母の背に紐でおぶられながら料理を眺めつつ質問していた。


「あーしゃかーか、れはー?」


「あら、これはねぇ、ヒルクの実よ」


「ひーくのい?」


「そうよ、これはとっても甘いのよ」


話つつ母アイシャはヒルクの実をすり下ろし始めた。

見た目はリンゴだが色は空のような青さだ。


「ほ~ら、あ~ん」


「あ~、おし~」


「そう、よかったわ」


口に運ばれたすり下ろされたヒルクの実を食べてアルフは満面の笑みを浮かべる。


(甘っ!味や食感はリンゴみたいにシャキシャキだけど糖度はまるで桃だ!)


口の中の幸せを堪能している我が子を背中に感じながらアイシャは次の調理を始めていた。

アイシャが石を研いだようなナイフで切ろうとしていたのは何かの肉塊だった。だがアルフはそれを見た瞬間に違和感を覚えた。


(ん?肉ってこんな色だっけ?)


アイシャが切ろうとしている肉塊は少々どす黒い赤い肉塊だった。

アルフは前世で家事の手伝いや買い出しをした際に手にした事のある肉塊で一番色の濃い肉塊を思い浮かべた。

その中で一番色が近かったのが鯨肉だ。

だが目の前にあるのはおそらく鯨肉では無いし、鯨肉よりもどす黒い。


(これ、しっかり血抜き出来てないんじゃないか?)


そして漂ってくる若干の腐敗臭にアルフは確信する。


(やっぱり血抜きが不十分で若干腐敗しているんだ)


成人しているのであれば若干腐った肉を食べた所でお腹を壊す程度で済むだろう。

しかし今は幼児、さすがに食べる気にはならなかった。


「うぅー、いあー、いあなーい」


「あらあら、せっかくアグトさんが狩って来た〈ギグ〉のお肉なんだけど、アルフは食べたくないの?」


「あい、いあない」


アルフは断固拒否した。火を通すとは言え今の身体で体調を崩したくはなかった。


肉塊の正体は〈ギグ〉という動物の肉のようだ。狩人らしいアグトが狩って来たそうだが処理が不十分なようだ。

普段嫌がる事の無い息子の初めての拒否反応に母アイシャは折れた。


「しょうがないわね、じゃあ〈ポッタ〉を湯でてあげるわね」


そう言いつつ肉塊を手早く切り始めた。まずは肉塊についた大きな脂をそぎ落としそれを一口大に切っていく。

そうして残りの肉は小指くらいのサイズで短冊切りにされていった。

アイシャが肉を木のボールに移すと今度は真っ赤な人参のような野菜に手に取った。


「あーしゃかかー、れはー?」


「これはね、〈ニブ〉って言うのよ、焼くととっても甘くなるお野菜よ」


話してる間に〈ニブ〉は肉と同じように短冊切りにされていった。

次にアイシャが手に取ったのはどう見ても玉ねぎだった。


「れはー?」


「これは〈タズ〉って言うの、これは生だと苦いんだけど焼くと甘くなるのよ」


やはり切られた〈タズ〉は見た目まんま玉ねぎだった。

今度はくし形切りにされていった。

切っている音の感じから食感を楽しむ為に少し大きく切られているのだろう。


そうして食材を切り終わったら火のついたかまどに中華鍋のような大き目の鍋が置かれた。

そして先ほど肉から切り離した脂を3つほど落とされる。

脂の焼けるいい匂いに家の中が満たされる。

そうして脂が解けきる前に〈ニブ〉と〈タズ〉が投入された。

かまどなので火加減はほぼ不可能なのだろう。そのため野菜は軽く火を通したくらいの時間で一度木のボールに移された。

そして残った脂を空いた鍋に落とし今度はすぐに肉が投入された。

ジャッ、ジャッっと小気味いい肉の焼ける音と共に焼肉の匂いが充満してきた。

ある程度肉に焼き目が付いた所でアイシャが小さな壺を二つ棚から取り出した。

一つ目の壺の蓋を開けると中には少し黄ばんだ白い粉が入っていた。


「れはー?」


「これは〈シガ〉よ、海の方で取れるみたいなの、とってもしょっぱいのよ」


塩と同じ物だろう。

色が若干黄ばんでいるのは処理のせいだろう。

自分でも作ろうと心に決めてアルフはもう一つの壺の蓋が開けられるのを待った。

そして開けられた壺に入っていたのは黄色い粉であった。


「れはー?」


「これは〈トトシ〉の実を細かくしたものよ、とっても辛いからちょっとだけ入れるのよ」


要は唐辛子の粉のような物だ。

話しつつアイシャは炒めた野菜を鍋に戻し肉と一緒に炒めていく。

炒めながら〈シガ〉を指で摘みながら目分量で追加し味を調えていく。

手慣れた手つきで仕上げていく姿を見ればよく作る料理なのだろうと想像できる。

最後に〈トトシ〉の粉を一つまみ入れ一気に混ぜ合わせると木製の大皿に料理を盛りつけた。


これでこの料理は完成かと思ったら、長ネギのような野菜を手にとっていた。


「れはー?」


「これは〈ギザ〉っていう野菜よ、シャキシャキしてて生でも食べられるのよ」


そう言って〈ギザ〉を小口切りにし、肉野菜炒め(仮称)の上に盛りつけた。

これで本当に完成だろう。

次にアイシャは大振りのジャガイモのような物を手に取った。

恐らくこれがさっき言っていた〈ポッタ〉だろう。


「ぽった~?」


「?!そうよ、よく分かったわねぇ」


先ほどまで同じ流れが続いていたので答えようと思っていたアイシャはびっくりして首を回し我が子を見た。


(さっき言った事を覚えてたって事よね?)


普通の幼児とでは考えられないやり取りにアイシャは感嘆した。


(あっという間に色んな事を覚えそうね)


そんな事を思いつつかまどの脇の瓶から水を掬って先ほどまで使っていた鍋に入れる。

しばらくすると水がふつふつと沸騰してきてそこに一握りの〈シガ〉を入れ〈ポッタ〉を3玉投入した。

そうして一息ついたところで家の玄関が開く音と共に父ルフトが入って来た。


「アイシャ、アルフ、ただいま~、外までいい匂いが漂って来て腹が盛大に鳴ったよ」


「おあえいなさー」


「ふふふ、おかえりなさい、あとはポッタが茹であがるのを待つだけだから先に〈ギグ炒め〉食べ始めていいわよ」


どうやらさっきの肉野菜炒めは〈ギグ炒め〉と言うらしい。そのままである。


「おー、美味そうだな、んじゃお言葉に甘えてお先に頂くかな」


そう言ってルフトが席につき食べ始めるとアイシャはルフト対面の席に向かい背中のアルフをテーブルの上に座らせるようにして、おんぶ紐を外した。


「今日はお料理しながらアルフの質問攻めだったのよ」


「へぇ、アルフ、何を聞いたんだ?」


父ルフトの質問にアルフは自信満々の顔で答える。


「ぎぐ~、にぶ~、たす~、しあ~、と~し、ぎじゃ~、ぽった~」


「え?!」


ルフトは驚愕した。まさかまともに返事をされると思っておらず、フォークで口に運ぼうとしたギグ炒めがボトリと取り皿に落ちる。


「今日一日でそれだけ覚えたのか?!」


「あい~」


満面の笑みで肯定する我が子にさらに驚愕する。完全に会話が成立しているのである。


「本当にびっくりよねぇ、最初にギグのお肉を出したときに食べたくないってぐずった時は初めてのわがままに安心したのだけど」


そう言いながらアイシャはアルフを抱きかかえた。


「その時にポッタを茹でてあげるって言った後に色々質問攻めにされてギグ炒めが完成した後にポッタを出したらそれを見てポッタだと言い出したのよ」


「それってつまり最初に言ったポッタが料理の最中に出てこなかったから最後に出てきたのがポッタだと判断したって事か?」


「そうなんでしょうね、でしょ?アルフ」


「あい!」


アルフ満面のドヤ顔である。


「うわー、めちゃくちゃ賢いじゃないか、こりゃ大変な事だぞ」


「ええ、ドーガ村長に色々相談しなくちゃよね」


「ああ、そうしよう」


その後茹でたポッタを食べて満足したアルフはアッという間に眠りに落ちていた。


次の日、二人はアルフを連れ村長のドーガを訪ね、昨日の話をした。

こうして村一番の知識保有者である村長のドーガによるアルフの英才教育が行われる事になったのだった。



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