転生先「ラダ村」にて15
翌朝、日が昇る少し前にアルフは空き地に向かった。
〈作業台〉に手を触れて〈フギの実〉を挽く為に〈石臼〉を【クラフト】に追加し設置する。
〈石臼〉=岩x2+木材x1
出来た〈石臼〉は直径50cm程の物で子供が挽くにはかなり厳しい。
〈石臼〉に手を触れて早速〈フギ粉〉を精製してみる。
〈フギ粉〉=フギの実+ハッサの繊維
どうやら投入量に対して作成量が変化するようで、とりあえず手持ちの〈フギの実〉の半分を〈フギ粉〉に精製してみると〈ハッサ袋〉に入った〈フギ粉〉が精製された。
1つ取り出してみると重さ大体1kg程の〈フギ粉〉が出現する。
中を覗いてみると薄っすら茶色がかった白色の粉、所謂全粒粉が入っていた。
(お~、いい感じだ)
中身の確認を終えたアルフは〈パン〉を焼く為の〈パン窯〉をクラフトして設置する。
〈パン窯〉=レンガx50+粘土x20+鉄のインゴットx5
出来た〈パン窯〉は下部に薪を入れ火を起こす空間があり裏側にある煙突に繋がっている。
上部は半円の口がポッカリ空いていて鉄板が敷かれドーム状になっている。
早速〈パン窯〉に触れて〈パン〉を作成した所でダニーとミミリーが声をかけて来た。
「アルフおはよう、こんな朝からなにしてんだ?」
「おはよ〜アルフ~、なにやってるの~?」
2人ともまだ眠気の抜けきらない様子で目を細めながらノソノソ近づいて来る。
「2人ともおはよう、パンを作ってたのさ」
アルフが2人に返事をすると2人は声を揃えて聞き返す。
「「ぱん~?」」
「主食になる食べ物だよ、これさ」
2人の疑問に答えながらアルフは〈パン〉を2つ取り出す。
見た目はシンプルに丸く、狐色と白色のコントラストがとても綺麗な焼き上がりだ。
出来たてホカホカで少し湯気が立っており焼きたてのパン特有の香りが広がる。
1つずつ2人に手渡すと自分の分も取り出していざ実食。
表面はパリッと中はふんわり、そして仄か感じる果実の風味。
(あぁ、うめぇ)
この世界に来て初めて食べるパンにアルフはうっとりしていた。
その様子を見ていた2人はお互いの顔を見合わせながら一口齧ってみる。
「「?!」」
齧った瞬間目をカッと見開いて2人は一気に目を覚まし、あっという間に食べ切ってしまった。
「うまい!」
「おいし〜!」
「でしょ?今日は村長にこのパンを作るのに畑を広げる相談をする予定なんだ」
「これ食ったら絶対賛成してくれるぜ!」
「うん絶対!」
「2人が言うなら間違い無いね、じゃあこれおじさん達にも食べさせてあげてね」
そう言ってアルフは〈フギ藁のカゴ〉を取り出すとパンを12個詰めてダニーに渡す。
「「ありがとう!」」
2人はお礼を言うとダッシュで家に帰って行った。
2人のそんな姿をニコニコ見送りながらアルフも自宅に向かう。
帰宅すると母アイシャがかまどに火を入れてスープを作っていた。
「アルフ、おはよう」
「おはよう母さん」
「今日は早いのね」
「うん、ちょっと〈パン〉を作ってたんだ」
「ぱん?」
アイシャの疑問にアルフはパンを1つ取り出してアイシャに手渡した。
「食べてみて、後で村長に相談しに行く予定なんだ」
「あら、温かいわね…それに良い香りね」
渡されたパンの香りを楽しんだアイシャは一口齧って驚く。
「まぁ!凄く美味しいわ!どうやって作ったの?」
「ちょっと時間がかかるから朝食の後に教えるよ、朝食の分は僕が作った分を出せばいいからさ」
「そうなのね、分かったわ」
「僕は父さんを起こして来るよ」
「ええ、お願いね」
パンをペロッと平らげた後、満面の笑顔でスープ作りを再開した母を横目にアルフは父ルフトを起こしに向かう。
寝室に入るとちょうどルフトが上半身を起こして伸びをしていた。
「おはよう父さん」
「ん~!おはようアルフ、早いなぁ」
「ちょっと用事があったんだ、母さんが今スープ作ってるよ」
「そっかぁ、顔洗って来るかなぁ」
「うん、ついでに頭も洗った方がいいよ、すごい寝癖だもん」
「ん~?ありゃホントだな、そうするか」
そうしてルフトはようやく目を半分ほど開いてノソノソとベッドから出て来る。
「おはようアイシャ」
「おはようルフト、ふふふ、すごい寝癖ね」
「アルフにも言われたよ、頭も洗って来る」
「ええ、アルフお皿をお願いしていい?」
「うん、任せて」
アルフは食事の準備を手伝い始め、ルフトは表に出て頭から水を被り寝癖を取りつつしっかり目を覚ます。
今日の朝食はスープと目玉焼きとベーコンのようだ。
準備が終わったらアルフはパンをカゴに9つ詰めてテーブルに置く。
「今日はこの〈パン〉をこの村の新たな主食にしようと思って村長に相談に行く予定なんだ」
「ぱん?この丸いやつかい?」
アイシャは先ほど食べたのですぐに手に取る。
ルフトはそんなアイシャを見て自分も手に取ってみる。
「おお、温かいな、しかも柔らかい」
「おかずやスープと一緒に食べるとより美味しいよ」
「ふむ、いい匂いだけど味は…?!…うまい!」
「でしょ?」
「ホントね、スープがよく染みてとっても美味しいわ」
「味の濃いベーコンともよく合うな!」
「僕はこうやってパンに卵とベーコンを挟んでっと…あ〜おいしい」
「おお!それは美味そうだ!父さんもやってみよう!」
「あら、これなら手を汚さずに食べれるわね」
「ミダスの葉っぱを一緒に挟んでも美味しいと思うよ」
「まぁ!そうね、ちょっと待ってて」
アイシャが席を立つといそいそと表に出て畑から〈ミダス〉ー前世のレタスのような野菜でこちらでは紫色ーを取って来て水洗いしてそれぞれの皿に盛ってくれる。
早速皆んなでパンに挟んで一口齧る。
「おぉ!歯応えシャキシャキのミダスがあると確かにグンと美味くなったな!」
「でしょ?あとはバジトでソースを作って一緒に挟むともっと美味しくなると思う」
「バジトのソースね?今度作ってみるわ」
〈バジト〉とは前世のトマトのような野菜で、品種改良していないにも関わらず甘く、仄かな酸味は高級トマト顔負けだ。
朝食を堪能するとルフトが真剣な顔でアルフに質問してきた。
「このパンを村で作れるようにするって事だよな?」
「うん、これは〈フギの実〉から作れるんだけどこの村では〈フギ〉を育てて無いでしょ?」
「フギだったのか?!そうか…ああ、確かに村ではフギは家畜の餌としか見てないから育てて無いな」
「だからその為に村全体でフギ畑を作る必要があるんだ、あんまり少ないと多くは作れないんだ」
「確かに村全体で育てるなら村長に相談すべきだな」
「そうね、こんなに美味しいんですもの、村の皆んなにも知って欲しいわ」
「うん、それに〈フギ〉は寒い時期に育つから世話はそこまで大変じゃ無いはずなんだ」
このラダ村は1年を通して比較的温暖な気候で冬は雪がパラつく程度である。
野生の物を観察していた結果、恐らく半年ほどで収穫出来る。
しかし、同じ畑を使い続けるには連作障害が発生してしまう恐れがあるので、少なくとも4面の畑を準備して栽培するようにアルフは提案する。
「う~ん、確かに毎年どこかの畑が生育不足になったりするが、そう言った理由があったのか…」
「野生の〈フギ〉も場所によって枯れてる年があったりしたから間違い無いと思うんだ、その辺りも含めて村長に相談しようと思ってるよ」
「ちゃんと考えてるなら問題なさそうだな、しっかり説明して来るんだぞ」
「うん!」
「しかし、とりあえず皆んなにも実際にパンを食べてもらわないと伝わらないんじゃないか?」
「そうね、どんな味になるのか知っている方が受け入れられやすいわね」
「一応村の皆んなに1つずつ渡せる量は確保してあるから大丈夫だよ」
「おお!そうか、なら安心だな」
「ちゃんと準備できてアルフは偉いわね」
そう言ってアイシャに頭を撫でられていると入り口のドアが勢いよく開かれた。
3人が驚いて入口を見るとそこにはアグト一家が興奮した様子で立っていた。
「アルフ!このパンってやつはもう無いのか?!」
「アルフ!これはどうやって作るんだい?!」
「アルフ!俺もっと食いたい!」
「あたしももっと食べたい!」
怒涛の勢いで迫って来るアグト一家に苦笑いを浮かべてアルフは答える。
「ごめんね、後は村の皆んなに1つずつしか残ってないんだ」
「そうか…」
「「そっかぁ…」」
「無いなら作ればいいんじゃないかい?作り方を教えておくれよ」
「ちょうど母さんに教えるところだったので一緒にやりましょう、でもあんまり材料が無いので少しだけしか作れませんよ?」
「そりゃよかった、ちなみに材料はなんなんだい?」
「〈フギの実〉です」
「「「「フギ?!」」」」
アグト一家は本当に似た物親子というかなんというかリアクションがそっくりである。
その後、全員でパン生地を作り発酵させるところまでを一緒に行い、空き地の〈パン窯〉に火を入れて焼く準備を整えた所で焼くのはアイシャとアグトの妻レニーに任せ、アルフは村長宅に向かった。




