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転生先「ラダ村」にて10

アルフは【クラフト】で〈木の的〉を作っていた。


〈木の的〉=木材x2+木の板x2+炭x1


〈作業台〉に触れながら、〈木の的〉を思い浮かべてリストに追加したアイテムだ。

見た目は長い木の棒に四角い木の板が付いていて木の板には炭で大きく円が描かれていてその中心に小さい円が描かれている簡単な物だ。

ゲームでは大体雰囲気作りの置物くらいの扱いを受けるが、現実世界では十分有用だ。

【クラフト】で作成した〈木の的〉を弓の練習場予定地に設置する。


ここで目視できる範囲で森を北と仮定する村の周囲の地形の簡単な位置関係を記すとこうなる。


    山

   山森山

  山川  山

 山 川村  山 

   川

川川川川川川川川川


山は木が生い茂っている部分と岩肌がむき出しになっている部分があるので森にしか木が生えていないわけでは無い。

村の周囲は草原が広がり西にある小川までは100mほどだろう。

村から森までは500mほどあり森から危険な動物が姿を現せばある程度迎撃の準備が出来るくらいには離れている。

実際に測った訳では無いので森までの距離を目安にした目算だ。

村から東西に2kmほど行くと大河に向かってなだらかに下っていく山にぶつかる。

村の南にある大河は村からおそらく2kmほどは離れている。

森がある場所から大河までは緩やかな下り坂になっていて標高差は大体200mほどだろう。

村から大河を見下ろすような形だ。

ちなみに東西南北の方角が仮定なのは、どちらが北か分からないからだ。

地磁気がどちらに向かって流れているかで北の向きが変わってくる。

よって日の出がいくら村の東側からであってもそちらが正確に東とは限らない。

磁石が見つかればすぐに判明するのでとりあえずの仮定だ。


(さて始めるかなっと)


アルフが今いるのは村の東側だ。

北側の森には狩りや野草摘みに、西側の小川と南側の大河には釣りに行く人がいる。

矢を飛ばすと誤って人に当たってしまう危険性がある。

それに引き換え東側はほとんど人が向かわない方向なのだ。

そんなわけで村の東側を弓の練習場にすることに決まった。

まだ何もない草原が広がっているだけなので予定地と呼ばれているが練習場はまもなく完成するだろう。

〈木の的〉を設置していたアルフはふいに、的の板がどうやって固定されているのか気になった。

そこで的を一つ取り出して地面に寝かせ観察した。


(なるほど、釘なんてないからどうやって固定してるのかと思えば細長い棒を何本も打ち付けるようにして固定されているのか)


鉄の釘で固定するならば枠の上下と中心に1本ないし2本ずつ打ち付けて固定すればいいだろう。

だがまだ鉄も無い状態でどう固定されているかは見てみれば納得の構造だった。

釘と同じ本数では強度が足りないので板には支柱に沿って直径5mmほどの棒が刺さっているのが分かった。


(でもこれ矢で的が割れたらいちいち作り直さなきゃだな…)


そう考えてアルフは設置し終わった的を眺める。

そしてハッと思い出す、巻き藁の存在を。


(巻き藁なら簡単には壊れないし、壊れても藁を巻きなおすだけだから村人だけでも簡単に修理できるな)


さっそく【クラフト】のUIを出し、巻き藁を思い浮かべる。

そしてリストに〈巻き藁〉が追加された。


〈巻き藁〉=木材x2+藁x60


素材の要求量が多いが、藁は〈フギ〉の藁が【格納空間(インベントリ)】内に大量にあった。

草原に点在する〈フギ〉をしらみつぶしに刈って〈フギの実〉をある程度確保していたのだ。

アルフは〈フギ〉を栽培する事の有用性を村人達にプレゼンするためパンを焼こうと思っていた。

ちなみにパン用の酵母は見た目がりんごで中身が桃の〈ヒルクの実〉を使って作ってある。

空いた壺があったのでそれを母アイシャに貰い酵母が出来てきたタイミングで【格納空間(インベントリ)】に保管してある。

アルフは以前、蝋燭に火をつけた状態で【格納空間(インベントリ)】に収納し、火が消えるか実験した。

格納空間(インベントリ)】に収納した直後に火が消えていなかったのを確認すると今度は蝋燭の消費速度の実験を行った。

一晩たち次の日に取り出した際に蝋燭が全く溶けていなかった事で【格納空間(インベントリ)】では時間が経過していない事が判明していた。


閑話休題


アルフは【クラフト】で一気に20個の〈巻き藁〉を生産し、設置していた〈木の的〉回収し練習場に等間隔に並べていく。

残念ながら〈木の的〉のように矢を当てる目印は無いがそんなもの無くても十分に的としての役割を果たせるだろうと思いなおす。

アルフが巻き藁の設置を終わらせて村の方に歩いてくると待っていた母アイシャが声をかける。


「アルフ、もういいかしら?」


「うん!お待たせ!」


アイシャの後ろにはアルフが練習場の準備をしている間に村人が集まってきていた。

もちろん皆弓の練習のためである。

一番そわそわしていたアイシャが真っ先に矢を射ると村人たちも続く。

前述した村の地形的にこの辺りは四六時中風が吹いている。強弱はあるものの基本的に風はやまない。

そんな風の吹く中でもアイシャの矢は次々に巻き藁に命中する。


(やっぱりスキルのある無しはデカいなぁ)


他の村人の矢はほどんど的に当たっていない。

練習すればある程度の腕前にはなるだろう。

しかし、咄嗟の時や体調などの影響は受けるだろう。

アルフが自分の体調が優れないと感じている日でも【スキル】は問題なく使えた。

使っていてさらに体調を崩す事も無かった。

よって【スキル】は使う意思さえあれば体の体調などに左右されずに発動可能であった。

昨日アイシャが初めて弓を使った夜、アルフはアイシャが【弓術】スキルを持っていたことを明かされた。


「そうじゃないかと思ったんだ、明らかに上手かったから」


「弓を見た瞬間に使い方がある程度分かったの、でも弓がどんな物か今まで分からなかったのよ」


いくら【スキル】を持っていようが使用するには〈道具〉が必要だ。

しかし、どのような〈道具〉が必要なのかは目にするまで分からない。

アイシャが【弓術】を持っているのに〈弓〉を知らなかったのはこれが理由だ。

他の種族や大きな街にはあるかもしれないが、この村は辺境にあるようで行商人もごくまれにしか訪れない。

そんな村にいたのでは知りようも無かった。

【スキル】は極めて有用だ。

しかし、それを扱う〈道具〉が無ければ発動しない。

これで【スキル】のメリットとデメリットがかなり正確に把握出来た。


(これは大きくなったら一度世界を見て回る必要があるな)


大冒険の予感をひしひしと感じ、アルフは誰がどう見てもワクワクしていた。

そんなアルフを眺めながらアイシャは苦笑いを浮かべていた。


(あの顔は近い内に村を出て行ってしまいそうね…)


この世界での旅は命懸けだ。

盗賊や野党、猛獣もいる。

この村近辺にはいないが、実は魔獣も存在する。

魔獣とは【スキル】を操る獣の事だ。

例を挙げると普通の〈ギグ〉は見た目はただの猪の獣だが、【突進】のスキルを得た個体は魔獣に該当する。

猪は自然と驚異に対して突進を行うが、【スキル】としての【突進】とは威力やスピードが桁違いになる。

魔法の【スキル】を発現させた個体が特に脅威度が高かったため魔獣という呼称が生まれた。

この村の周囲が辺境にあっても不自然に安全平和に暮らせているのに特に理由は無い。

単に現在(・・)は安全なだけで、過去には森に魔獣がいた。

しかしそれは500年ほども前の話でその頃ここに村が無かっただけだ。

村があったなら伝承などで伝えられていただろうがその事実を知る者はいない。


閑話休題


アイシャが弓の練習を終え、アルフと手を繋ぎながら家に戻る途中、横を歩くアルフに告げる。


「アルフ、村を出るのなら10歳になってからよ」


「へ?」


思わずそんな声を漏らし、アルフはアイシャを見上げる。


「どうせ村を出ようと考えていたんでしょ?昨日そんな顔をしていたわ」


「えっと…うん」


「村を出るのは構わないわ、男の子だもの、外の世界に興味を抱いても怒ったりしないわ」


「うん」


「だけど10歳の成人の儀が終わるまではダメですからね」


なんとこの世界の成人は10歳だった。

これにはアルフもびっくり。


「え!?」


思わず声を出して驚くアルフにアイシャが訝しむ。


「どうしたの?もっと早くに出ていくつもりだったの?」


「ううん、成人の日はもっと先だと思ってたから」


素直に答える息子にアイシャは納得し、微笑みながら語る。


「私も村のみんなも同じように思っていたわ、昔は15歳だったらしいの、でも昔の村長がそれだと遅すぎると感じて10歳に変えたらしいの」


「そうなの?」


「ええ、成人してから仕事を探して、一人前になるのを待てるほど村には余裕が無かったそうなの」


「そっか」


「だから早めに大人として認めて、村の仕事を手伝ってもらうようになったんですって」


聞いてアルフは何となく理解した。

大人として認められるまで基本的に仕事は親の手伝いくらいしかさせてもらえない。

いつまで経っても大人と認めてもらえない子供が、危険な事をこっそりやる事の方がより一層問題だろう。

早い段階で大人と混じって仕事をする事でどんな行為がどんな結果に繋がるか身に染みて感じられるはずだ。

15歳なんて前世では中学生だ。

ある程度体が出来上がりちょっとした万能感を得た思春期真っただ中の子供達が危険な遊びに手を出す年頃である。

それよりも前に成人と認め仕事を与える事で早い段階で大人としての自覚を持たせ、自立心や責任感を芽生えさせようとしたのだろう。


「わかった、10歳まではこの村で出来る事を精一杯やるよ」


アイシャはまだ5歳の子供の返事にしては大人びすぎていると思いつつ、聞き分けのいい我が子の頭を優しく撫でた。


「えらいわね」


そうしてアルフの当面の目標が決まった。


(とにかく10歳までに色々出来るようになっておかなきゃな…、ダニーとミミリーにも聞いてみよう)


そして旅の共に歳の近いダニーとミミリーを連れ出して行こうかと計画するのだった。

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