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兄弟弟子

 目を覚ました少年は自らをバルト・ネールと名乗った。

 そしてリチャードの「なぜ川に」という質問に、バルトは顔を曇らせたかと思うと、歯を食いしばり憤怒で顔を歪め、振り絞るように住んでいた山奥の村が巨大なワイバーンに襲われたと語った。


「俺たちはただ静かに、暮らしてただけなのに。父ちゃんや母ちゃんだけじゃない。おっちゃんや村長の爺ちゃん。友達も、妹みたいに可愛がってたアイツも、皆、死んじまった。俺だけが、俺だけが生き残っちまった」


 怒り心頭の表情に、その青い目に、涙を浮かべるバルト少年。

 そんな少年が、自分が寝ているベッドの傍らに立っているリチャードの顔をバッと見上げたかと思うとリチャードの腕を掴んだ。


「助けてくれてありがとう。恩はいつか返す。その前にアンタのその恰好、冒険者なんだろ? 頼む、俺はみんなの仇を討ちたい。強くなる方法を教えてくれ」


 十代半ば、自分より年上か同い年くらいの少年であるリチャードにバルトは懇願する。

 断られたらその時はその時だ、冒険者になる方法だけ聞いてあとは自分でどうにかする。そんなつもりでバルトはリチャードに聞いた。

 その願いを、リチャードに断る理由はなかった。


「バルトと言ったな。キツイぞ? 着いてこれるか?」


「ああ、ついて行く。どんなに苦しくても死んだ皆より苦しいってことは無いだろうからな」


「今から師匠に会いに行くからついてこい。一緒に死ぬほど鍛えられよう」


「アンタ、名前は?」


「リチャード。リチャード・シュタイナーだ。家族や師匠達からはリックと呼ばれている。好きに呼んでくれ。一緒に鍛錬するとなると服がいるな。師匠に会う前に俺の家に寄ろう、余ってるシャツとズボンを渡すよ」


「すまない、ありがとう」


「冒険者は助け合いが常。気にしなくていい」


 こうしてリチャードは目覚めたバルトを連れてわが家へ一旦帰宅。

 シャツとズボンを見繕って玄関で待つバルトの元へ向かうと、バルトは母と父に話し相手にされていた。


「あのろくでなしの弟子になったって聞いてたから、友達なんて出来ないと思ってたのに。バルト君だったっけ。うちのリックをよろしくね」


「何か困った事があればうちを頼ってくれて構わないからね?」


「あ、ああはい。ありがとうございます」


「父さん母さん、バルトが困ってる。その辺にしといてやってくれ。バルト、これに着替えてくれ、着替えたら出発だ」


 リチャードに黒いシャツと黒いズボンを渡され、風呂場に案内されたバルトはそれに着替えると、待っていたリチャードに連れられて家を出た。


「良いご両親だな」


「ああ」


 街を巡る巡回馬車に乗り、普段鍛錬している場所に向かう為、街の東門へと向かう。

 その馬車の上で、暇を持て余したバルトはリチャードが何故冒険者をしているのか理由を聞いた。

 別に語るような理由でもない。そう前置きしたうえで同じく暇を持て余したリチャードはバルトに自分が冒険者をやっている理由を話した。


「母ちゃんの為か」


「新薬が処方されてからかなり調子は良くなったが、診療院のヒーラーさんの話だとそれでも完治はしないんだそうだ。今はただ病状を抑え込んでいるだけ。どれだけ頑張っても、もって数年だと言っていた」


「なんか、すまねえ。こんな話させちまって」


「どう考えたってバルト程じゃないだろ。それに従来の薬だけだったならその数年すら怪しかったそうだしな。強くなって金を稼ぐ猶予が延びた事はむしろ喜ばないといけない」


 そんな話をしている内に馬車は東門に到着。 

 リチャードとバルトは馬車を降り、リチャードは顔なじみの門番に頭を下げて街を出た。

 街道を歩いて進んでいると前からやってきた冒険者のパーティとすれ違う。

 その際に挨拶を交わし、二人は森に向かう細道にそれ森の奥へと進んでいく。 


 そして、二人はその森が円形に数十メートルほど吹き飛んだように無くなった開けた場所に辿り着いた。

 その円形の空き地の真ん中を分断するように川が流れている。バルトが流れてきた川だ。


「お、珍しいな。お前が最後なんて」


「俺からすれば時間通りにアンタがここにいる事のほうが珍しいけどな」


「僕が連れて来たんだよ。エドガー、さっきまで寝てたからね。それよりもその少年目を覚ましたんだね。よかったよ無事で」


 岩の上に座ってパンを頬張っているエドガーと、その岩を背もたれ代わりに座って本を読んでいたアルギスが、やってきたリチャードの言葉に返事をしてエドガーはパンを飲み込み、アルギスは本を閉じると立ち上がった。


 そんな二人にリチャードは言う「彼も鍛えてやって欲しい」と。

 リチャードの言葉に続きバルトも頭を下げる。

 そして、事情を話して自分も鍛えて欲しいと懇願するのだった。


「お願いします。俺は皆の仇を討ちたい、今は金もないし何も渡せるものはないけど、お願いします。俺を、冒険者にしてください」


「顔上げな小僧」


 遠巻きにエドガーとアルギスにバルトは頭を下げる。

 そのバルトの耳に数メートル離れた位置に座っていた筈のエドガーの声がすぐ傍で聞こえ、顔を上げるバルト。

 いつの間に移動したのか、エドガーはバルトの眼前に立ち殺気の籠った目でバルトを見下ろしていた。


「師匠、それはダメだろ」


「っは。これでビビるんならそれまでよ。だがまあなるほど。復讐したいってのはホントらしいな。だが俺は贔屓はせん。まずこの馬鹿弟子が耐えた鍛錬に耐えろ。話はそれからだ」


「は、はい!」


 こうしてバルト少年もエドガーに弟子入りし、ここから数年死にそうなほど厳しい鍛錬を行う事になる。

 幸いだったのは彼にエドガーと同じく、そしてリチャードとは違って身体能力的にアドバンテージがあったことだ。

 それでも精神的にはリチャードに勝てず、それどころか、どれだけ鍛えても模擬戦で兄弟子あにでしであるリチャードに勝つことができなかった。

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