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川に流されてきた少年

 師匠エドガーは弟子思いであったかというと、一概にYesとは言えなかった。

 それというのも依頼の為に街を離れる以外で、彼は時折弟子のリチャードをほったらかして街ですれ違った好みの女性を口説いたり、収入を得た当日は酒をたらふく飲み翌日二日酔いでグロッキーになり、大人しくしてるなと思えばギャンブルをしに行って鍛錬をすっぽかす事もあった。


 鍛錬開始当初こそ連れ戻そうとしたり、酒を飲まないように注意したりしていた弟子のリチャード君。

 しかし、そんな彼もいい加減ある程度師匠との付き合いを経て、彼のパーティメンバー達同様にエドガーの素行に関しては諦めるよになってしまっていた。 

 それというのもエドガーが鍛錬に付き合わなくてもリチャードは自分で体を鍛える事が出来るようになっていたし、素行の悪い師匠に変わって、たまにではあるが師匠のパーティメンバーが鍛錬に付き合ってくれるようになっていたのだ。


「うーん。君は本当にその、なんていうか」


「いいですよ気を使わなくて。才能無いのは自分でよくわかってますから」


「そうじゃないよ。まあその、才能がないのによくもまあここまで鍛えたもんだと感心してたんだよ」


 身の丈を優に上回る岩を身体強化魔法を使っているとはいえ担ぎ上げ、そのままスクワットをしているリチャードを、様子を見に来ていたエドガーのパーティのメンバーである魔法使い、アルギス・メテオールは苦笑しながらエドガーが鍛えている少年の魔力の流れを眺めていた。

 決して多くないリチャードの魔力。しかし、彼は才能がない代わりに器用だった。適材適所と言うべきか、普通なら魔力を放出しっぱなしで使う事が多い身体強化。

 その出力を極力抑え、岩を持ち上げる際だけは脚部、腰、肩、腕と順に流して必要な分を必要な量だけで使っていた。

 

 それらを含め、リチャードに養成所で教わらない魔法や魔力の応用を教えたのが彼、アルギスだった。

 黒いボサボサの髪、闇のように黒い瞳、左目の下に泣きぼくろ、整った顔立ちの二十台半ばの好青年。

 そんな彼は見た目には完全に人間で、東の大国ヒノモトに暮らす人々に見られる特徴を備えているが、リチャードが暮らすエドラの街だけでなく、この国グランベルでただ一人、月の女神から最大級の加護を賜った人物でもある。

 様々な魔法を蒐集し、自らの体を実験台に、ドラゴンの体内で生成された超高濃度に圧縮された竜の心臓と呼ばれる魔石を取り込み、結果人間としての寿命から解放され、種族として魔法使いとなったマッドサイエンティストでもある。


 そんな彼は、才能がないリチャードに対して非常に好意的だった。

 当初は好奇心から来ている感情であった。

 凡人であるはずの少年が、自分が知る中では最強の冒険者であるエドガーのシゴキに耐え、今もこうして自らを鍛えている。

 もしかしたら、凡人の到達点というのを見られるのではないか? という、知的好奇心がアルギスをリチャードに惹きつけていた。


「アルギスさん、暇なら一緒に鍛錬します?」


「はっはあ。僕は筋肉に興味はなくてねえ。魔法関係ならいくらでも付き合うよ?」


「あ、じゃあ重力魔法掛けてもらっていいですか? 腕立てするんで」


「僕の重力魔法はウェイトじゃないんだけどなあ。まあいいよ、それじゃあ始めようか」


 と、こんな具合でリチャードはアルギスと、いや、アルギスで鍛錬をしたりもしていた。


 そんなある日のことだ。

 エドガーとアルギス、両方を相手に模擬戦でボコボコにされて川原で休憩がてら顔を洗っていたリチャードが川上から流れてくる物体を見つけた。

 それはどう見ても人間で、リチャードより少し若いくらいの金髪の少年だった。


「なんだ? 死体? いや、だとしても」


 アルギスに傷を治すための回復魔法を掛けてもらっていたとは言え、まだ疲労が残っていたリチャードは、それでも川に飛び込んで水深が深い部分で流されてきた金髪の少年の服を掴んで岸まで引っ張った。


「おいおいリックゥ。死体なんて放っとけよ」


「馬鹿言ってんな師匠。まだ生きてる」


「おや、それは大変だ。どれどれ、お兄さんが回復してあげよう」

 

 金髪の少年を背負って川から上がってきた弟子を焼いた魚を頬張りながら茶化すエドガー。

 そんな師匠に悪態を吐きながらリチャードは少年を下ろすと、空中に座るように漂っていたアルギスが地面に降り立って少年に近付き回復魔法を掛けた。


「なんで川に。溺れたのか?」


「っは! おめえじゃあるめえし、んなわけあるかよ」


「俺は川で溺れたりしねえが?」


 地面に下ろした少年尻目に喧嘩を始める師匠と弟子。

 剣を抜いて模擬戦第二ラウンドを始めた二人を見て苦笑するアルギスは回復魔法を掛けている少年の服が所々焼け焦げているのを見つけ、訝しむように顔をしかめた。


「ふむ。ほとんど散っているが、わずかに魔力の残滓ざんし。これはドラゴン……いや、ワイバーンか?」


 回復魔法を使用しても気絶している人間が直ぐに目覚める事はない。

 結局金髪の少年が目を覚ましたのは翌日。

 リチャードが鍛錬に行く前。少年を預けた診療院に立ち寄った時だった。

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