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獣人族のシスターとの出会い

 孤児院が併設された教会の敷地の端にある野菜畑。

 アイリスの後に続いて歩いていたリチャードの視線の先に、しゃがみ込んで何やら土いじりをしている修道服に身を包んだシスターを見つけた。

 

「やっほーシスター! 来ったよお!」


 仲が良いのだろう、親しげに声を掛けながらアイリスが手を振ると、そのシスターが立ち上がって振り返った。

 振り返ったシスターは獣人だった。

 人間に近い半人半獣ではなく、獣に近い半獣半人。

 狼がそのまま立ち上がったような姿であるシスターは黒い修道服を着ているからか、小麦畑を思わせる金色の体毛が際立って見えて輝いているように見える。


「あらアイリス。失礼、ギルドマスター。お久しぶりねえ」


「良いのよクラリエちゃん、アイリスで。久しぶりね、元気してた?」


「ええ、私は元気ですよ。毎日可愛い子供達に囲まれてますからね」


 両手を祈るように握って一礼する狼型の獣人、シスタークラリエに友達にそうするようにヒラヒラ手を振って笑顔を向けるアイリス。

 そのアイリスの後ろで、リチャードはペコッと、シスターに頭を下げた。


「あら、その子は?」

 

「シスター、依頼出してたでしょ?」


「あらあら。ええ確かに、まさか受注してくれるなんて思って無かったわ。ごめんなさいね、人員不足で別の教会から応援を頼んだのですけど、来てくれる筈だったシスターが体調を崩してしまって。しばらく色々手伝ってほしいの」


 喋り方はおっとりしているが、獣人族のシスターは一気にそう言うとリチャードに近寄りアイリスにしたように手を組んで頭を下げた。

 年若く、人から頭を下げてお願いされる経験など今まで無かったリチャードは「あ、頭を上げて下さいシスター」と慌ててしまう。


「ありがとうございます。でも良いのですか? 年若い冒険者と言えば仲間達と一緒に依頼を受ける物だと聞いた事がありますが」


「うぐ。あ、いや。俺弱っちくて役に立たないからパーティ組めなくて」


 悪意なく、シスタークラリエに図星を突かれ、現実を叩き付けられ、リチャード少年は項垂れながら返事を吐露する。

 そんなリチャードの背中をアイリスが平手でバシンと打った。


「なぁに辛気臭い顔してんのよ! シャキッとしなさいシャキッと! 男でしょ?」


「イッテェ! どんな力で殴ってんですか⁉︎」


「全然力なんて入れて無いわよ、鍛え方が悪いの」


「あらあら。とりあえず2人とも中にどうぞ。お茶を出しますので」


「あ、いや。それより仕事」


「ありがとうシスター! 喉乾いてたのよねえ」


 リチャードとアイリスの喧嘩が勃発しそうな間にクラリエが割って入り、仕事の内容を聞こうとしたリチャードにアイリスが割り込む。

 結局、シスタークラリエの案内で孤児院の中に入ると、2人はそのまま応接室に通された。

 促されるままにソファに座り、出された紅茶をアイリスは遠慮なしに口に含む。


「これ、私が前に渡した茶葉で淹れた?」

 

「ええそうですよ? 良い茶葉ですから、大事に使わせてもらってます」


「うーん。良い香り、さっすが私ねえ」


「自分で言うのか」


 自画自賛のアイリスに、ついツッコミを入れてしまうリチャードの頬をアイリスがつつく。

 

「アンタも飲んでみなって、美味しいからさあ」


「いやまあ。せっかくだから貰いますけど」


 言いながら、リチャードも出された紅茶のカップを手に取り口に運んだ。


「ああ。確かに良い香りします、美味いですね」 


「ええ〜。子供のアンタに紅茶の味なんて分かるの〜?」


「っく。この人は」


 茶々を入れるアイリスに、顔を赤くしていくリチャードの様子を心配してクラリエは話題を逸らそうと「じゃ、じゃあ貴方の名前を教えてくれる?」と困った様子で口を開いた。


「あ、ああすみません。まだ名乗っていませんでした、リチャード・シュタイナーです」


「そう。リチャード君ね。さっそく今日からお願いしますね」


「大した手伝いは出来ないかも知れませんが、頑張ります」


「あらあら。まだ若いのにしっかりしてるわねえ」


 こうしてこの日からしばらく、リチャードは孤児院で幼い子供や、時には赤ん坊の面倒をみる事になった。


 そしてこの時の経験が、将来路地裏で出会い一緒に暮らす事になる娘の育児や、後に産まれる我が子の育児に大いに役立つ事になるのだった。

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