異世界帰りの元勇者、口裂け女と出会う
「あーん、片付けしてたら遅くなっちゃったー」
時は夜の10時頃、1人の女性が街頭がまばらに照らす夜の住宅街を駆けていた。
そして彼女の眼前に街頭の下で1人たたずむ女性が映る。
(えぇ……? ちょっと怖いんですけどー……)
走っていた女性は不審に思い刺激しないようゆっくりと脇を通ろうとする。
「ねぇ、おねえさん」
たたずむ女性に突然声をかけられた彼女は肩をビクリと震わせゆっくりと声の主に目を向ける。
たたずむ女性は真っ直ぐ彼女を見据えていた、その顔は口元こそ大きなマスクに覆われているもののとても整った美しい顔立ちをしているのがわかる。
「なっなんでしょう?」
「私、綺麗?」
その一言に彼女は少しイラッとしてしまう。
早く家に帰りたい衝動を抑え立ち止まって見れば聞かれたことが(おそらく)美人からの綺麗かと言う質問だ。
「あーハイハイ、綺麗なんじゃないですか?」
彼女はあしらうようにそう口にする。
するとたたずむ女性はマスクをゆっくりと外しながら口を開く。
「これでも?」
「ふぎゃー!!!」
夜の住宅街に女性の悲鳴が木霊する。
俺の名前は山田太郎21歳、一年ほど前に異世界で魔王との戦いを終え地球へと帰還した元勇者だ。
そして昨晩、人生二度目の不思議なことに遭遇した。
突然のメリーさんからの着信、襲撃、そして朝起きてみれば当の本人がキッチンたもやし炒めを作って朝食として差し出す始末。
あれ曰く。
「私メリー、とある理由から成仏出来なくなってしまったので今貴方の部屋にいるの、トリアエズイソウロウサセテ」
冗談じゃない、いきなり訳のわからない呪いのアイテムを家に住まわせるとか不安でしかない。
そう思いながら俺はもやし炒めとご飯を頬張っている。
なんだこれうめーな、うちの調味料でどうやってこんなうまいもやし炒めが作れるんだ?!
「私メリー、貴方の部屋の時計を見ているの、時間は大丈夫?」
俺はそう言われると部屋の掛け時計を見る、時間は午前6時30分。
「うお!? 話は俺が帰ってからだ! 部屋のもん勝手に弄るなよ!」
「私メリー、今貴方をお見送りしているの、イッテラッシャイ」
そう言って俺は足早に鞄を持ち部屋を後にする。
いかんいかんもっとゆっくり歩かないと。
しかし心なしか鞄がいつもより少し重たい気がする。
それが今朝の出来事、俺は今業務を終えて帰路に着いているところだ。
お陰で考え事をしながら仕事をする羽目になり林檎を3つ程握り潰してしまい店長に死ぬほど怒られてしまった。
※林檎は後で太郎が美味しくいただきました。
挙げ句の果てには鞄に勝手に弁当までいれている始末だ。
「うまかったけども」
「でもそれよりも気がかりなのは……」
今日は遅番の佐藤さんが引き継ぎの時間になっても出勤してこなかった。
そのお陰で通しで閉店まで仕事をする羽目に、まぁその分時給に上乗せしてくれるって店長言ってたから儲けもんか。
そんな事を考えながら俺は1人薄暗い住宅街をゆっくりとした足取りで帰路に着いている。
そして少し歩いたところで街頭の下でたたずむ女性がいるのに気が付いた。
こんな夜中に女の人が1人で危なくないのだろうか?
しかしこのご時世、痴漢に間違われたらたまったものではない、さっさと通りすぎるに限る。
「ねぇ、おにいさん」
まさか呼び止められた?
俺が? いやいやそんな馬鹿な、これが逆ナンと言うやつなのだろうか、まさか、自分の顔面偏差値を思い出せ! 自分が? そんなはずはない! きっと聞き間違いに違いない、うんそうだ、きっとそうだ。
「ちょっ?! ちょっと? おにいさん? 待って待って!」
やっぱり俺に話しかけているのか? 何で? ホワイ?
「なっななななんでしょう?」
どもってしまった……。
そりゃそうだ、おなごと話すなんてパートのおばちゃんぐらいだぞ、とりあえず冷静に、そう冷静に。
「私、綺麗?」
はぁー? そんなこと言われて綺麗だよなんて恥ずかしくて言えるわけない! そう言うのはもっと陽キャの人に聞いてください!
しかしわかる、顔の半分はマスクで隠れてはいるものの圧倒的美人だわ。
「ッスー」
声にならない声が出たわ。
「本当に、これでも?」
あっよかった、肯定と受け止めてくれたみたいだ。
そして彼女はマスクに手をかけそれを外し、俺は絶句した。
かつて魔王軍のリザードマン部隊に支配された村があった。
村人達はリザードマンによって強制労働を強いられ支配の証しとして村人の口をリザードマンのように裂かれていた。
俺リザードマンを退けその村を解放し村人の口を癒しの魔法で治していった。
しかし村人の心を癒すことまでは出来なかった。
そのときの記憶が脳裏によみがえる。
俺はなにも言わず彼女の頬に手を当て癒しの魔法を唱える。
彼女の頬の傷はみるみるふさがりやがて完治する。
「すみません、俺にはこれぐらいしか出来なくて」
彼女はゆっくりと自分の頬に手を当て次第に大粒の涙を流し始めた。
「あっ……あっ……わ……わたしのあいでんててぃーがー!!!」
彼女はそう叫びながら走り去っていった。
「なんでさ?」
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