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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その43 転魂術の正しい?使い方

作者: 天城冴

鈍い痛みを感じたイシバラ・ノビテル。彼は電車中で暴漢に刺されたことに気が付いた。「そんな馬鹿な、落選したとはいえ与党ジコウ党の重鎮として政府の要職についたはず、なのに、普通の通勤電車に乗っているんだ!いったいなぜ…」

ドスッ

「い、痛い…」

イシバラ・ノビテルは思わずうめいた。

腹のあたりが熱く感じる。手をやるとぬらぬらとした感触

「血、血が出てるのか」

ひいっと叫びたくなる。だが、目の前の男とその手に握られた刃物を見て思わず声が引っ込む。返り血をあびて血まみれの服と滴り落ちる血。

「た、助け…」

あたりを見回すと、車両のなかにほとんど人が残っていない。イシバラと同じように刺されてうめいている男性が床に転がっている。椅子から崩れ落ちそうになっている会社員と思しき女性もうっすらと見える。

「こ、ここは、電車のなか?そんな馬鹿な。せ、選挙に落ちたとはいえ、わ、私は内閣の重要職に就いたはず。こ、こんな通勤電車に乗っているはずは…、ま、まして暴漢に襲われるなど」

“あ、今、あんた通勤客Aだから”

「え?」

“だから、魂を入れ替えたの、刺されてる真面目に生きてきたサラリーマンさんの魂と、親のコネやらで、いい地位につけてもらった、威張るだけの能無し政治屋のアンタの魂を”

「な、なぜ?」

“いわゆるあれか、不慮の事故とかで、神様からもらえるチート能力とかいうやつ?あれを使ったの俺が”

「お、お前は?」

“俺?この間、同じように刺された男だよ。アンタのように金のあるうちじゃなかったから、奨学金で大学いって、コネないけどなんとか就職して頑張ってたのに、新型肺炎ウイルス騒ぎで稼ぎも減ってさ、その上、刃物男に殺されるっていう悲惨な人生さ”

「そ、それで」

“いや、踏んだり蹴ったりの人生だったけどさ、神様ってやつもいるもんだよね。一応善良な魂がこれで終わるのは気の毒だから、次の人生やり直しとか転生するかって言われたんだけどさ。異世界でウハウハっていうラノベ展開は趣味じゃないんで、ちと世直し能力的なものをもらったんだわ、人の魂を入れ替えつまりは転生ならぬ転魂チート”

「?」

“最初はさ、刺した奴をどうにかしてやろうって思ったんだけど、そいつの心見たら、俺よりひどい人生だったんだよね。記憶とか探ったら毒親すぎてドン引きするレベル。それでも頑張って就職先がワダミ、あのブラック企業代表。体壊していった先がダソナの派遣会社、あのダケナカの最低の底なしの搾取会社。そりゃ心身ともに壊れちまうわな。で、考えたわけだ。刺した奴の魂を入れ替えるのは簡単だけど、そもそも、そういうことになった元凶の奴らを入れ替えるべきじゃないかってね”

「それと、わ、私と、ど、どういう…」

“あー、アンタやっぱ頭悪いんだねえ。ようは金目とかいっただけあって、オヤジの金でいい思いしてただけの無能オヤジだね、そういうやつらが政治だの経済だの牛耳ってるのが一番悪いって気が付いたわけ。ま、小学生だってわかりそうな理屈だけどな。政治家とかが悪さして税金を自分らで浪費してお仲間の金持ちにばらまいたら、ちっとも世の中良くなるわけないわな。だから、そういう穢れきったどうしようもない魂の奴らを、それにふさわしい終わり方になるように魂を入れ替えることにしたわけ。死神みたいな力もあるから、こういう悲惨な事件がいつどこで起きるか察知できるし、死にそうになっている中で誰が善良な魂の持ち主かもわかるからな。穢れた魂の持ち主は、只の人間だったころからわかってたし”

「そ、そんな」

“だいたい、アンタさ、選挙でぼろ負けしたくせに内閣の要職に就けてもらうなんてズルもいいとこだろ。だいたい議員のときもロクなことしないでさんざ批判されてたくせにさ、ま、アンタだけじゃないけど。そういうわけでどんどん転魂させてもらったわ”

「ま、まさか」

“アンタらのジコウ党のオッサンだのアンタらヨイショの御用学者だのとね。ま、入れ替わった人たちも最初は驚くかもしれないけど、殺されちまうよりましだろ。第二の人生を謳歌するだろうし、アンタらより遥かにこの国をよくしてくれるだろうさ。なにしろ真っ当に人生を歩み、努力して幸福を勝ち取ろうとしてきた人たちだからさ”

「む、無茶苦茶だ」

“そうでもないんだよ、アンタらみたいな政治家のくせに、国民を踏みつけにするようなことしか考えてない奴らが増えたせいで、神様もあの世の裁きだのが大変。しかも罪なき魂が悲惨な死を迎えることが多くなったうえに、加害者のほうもやりきれない事情を抱えてるっていう複雑な事例が増えたからさ。そういう扱いをどうするか困る亡者を減らす対策にもなるって、神様もよろこんじゃってさ。この能力、たくさんの人間に長い間つかっていいってさ”

「な、な」

“あ、アンタも、そろそろダメか。これ以上罪を重ねる前にいけてよかったな。ま、それでもかなり余罪あるそうだけど。心配すんなよ、アンタの親兄弟もすぐ逝くよ。名前とか違うかもしれないけど、魂だからわかるだろ、たぶん”

「グ,グフッ」

“出血多量か、俺もそうだったからわかるけど苦しいよな、ジワジワ死んでいくの。あ、大丈夫、この加害者、ちゃんとトドメを刺しに来たみたいだ、あっさり死ねるよ。じゃあな、俺は次のとこ行かなきゃ、何しろアンタらのおかげで無垢な魂が非情な死に方を遂げる例が増えて大忙しだから”

「あ、ああ」

刃物を手にした男が再び近づいてきた。

ブスッ

イシバラ・ノビテルの魂が入った男性の体はゆっくりと床に倒れ、動かなくなった。


どこぞの国では、落ちた人がなぜか要職についたり、不正を告発した人を罷免したりするような政党が政府与党だそうですが、そんな国が民主主義を自称してよいのでしょうか。それとも民主主義とはデモクラシーを表す言葉ではなく、”一等先進国と扱われるためデモクラシーっぽく振舞ってますが、封建的癒着恩顧世襲主義大好きなんです”という意味なんでしょうかねえ。

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