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第18話 「理解者」



 雨宮あまみや梨花りんかは今年中学一年になったばかりの女の子だ。

 学校では超人気なスクールカースト上位の女子を自称しており、モテモテだとかなんとか、実際のところはわからないが。

 偶然部屋にやってきた彼女をユリと俺は数秒間固まって見ていた。


 梨花も、兄と隣人のお姉さんが今から大人の世界一歩手前に差し掛かっている光景を目の当たりにして絶句していた。


「梨花違うんだ!」


 性教育をまだ受けているのかも怪しい少女には刺激的すぎる光景だ。

「ママ、赤ちゃんってどうやって作るの?」と母さんに訊いたのは三年前。

 梨花にはまだ純粋な子供であって欲しいがインターネットが普及している現代、子供でも簡単に調べてしまう。

 それにかなりマセている妹なので案外知識があるかもしれない。


「そ、そうだよ梨花ちゃん! 私たちはただプロレスをやっていただけだから!」


 言い訳が思い浮かばない俺の代わりにユリがフォローしてくれた。

 それもあまりにも苦しい嘘である。

 小学生でもギリ騙せるか疑わしい言い訳をしたユリは俺の片足を掴み、背中に乗りながら関節技を唐突に仕掛けてきた。


「うごっ!」

「ほぉら、私が有利だぞー!」


 冗談とは思えない強烈な関節技に悶絶する。

 邪魔されたことへの八つ当たりだろう。


 段々と梨花が呆れているのが分かった。

 初めは驚いていたが慌てふためく俺ら二人を見て馬鹿馬鹿しくなったのか、彼女は深い溜息を吐いた。

 空気が弛緩したところで梨花がユリに話しかけた。


「随分と仲がいいですね。妹の私でも嫉妬するぐらい、とても」


 なんか不機嫌になってないか?

 かなり強めの眼差しを向けられたユリは慌ててベッドから下りてから笑顔で返す。


「ま、まあね。仲がいいどころか、梨花ちゃんには言っていないけれど私たち付き合っているんだよ? ねっ」


 話を合わせろと言わんばかりにユリに肩を小突かれる。


「そ、そう! 俺らこないだ付き合い始めたんだよ……ははは。まだ母さんと父さんには言っていないから内緒にしてくれよ?」

「ふーん」


 だから何なんだよ、その疑いの眼差しは。


「ま、とりあえずはそういう事にしておいてあげる。それよりも近くのコンビニでプリン買ってきてよ。今、ナウ、ほらダッシュ」


 威圧で急かされたのであえて逆らうことをせず部屋から逃げるように出てやった。

 梨花の横を通り過ぎるときに偶然横目で見てしまった彼女の恐ろしい表情が頭に焼き付いたのだった。





 数十分後。

 買い物袋を手に家に帰った俺は、静かに玄関に入る。


由利ゆりさんなら帰ってもらったよ」


 突然、声をかけられて肩を震わせる。

 しかし声をかけてきたのは妹だ。

 私服に着替えた梨花がすぐ目の前にある玄関前に立っていた。

 ユリが帰ったことを知らされ安堵する。


 単身であの状況を打開できるはずがなく、何かしら実行をしようが最悪な展開にしかならなかったのは目に見えていた。

 妹の梨花は救世主だ。


「プリン買った?」

「ああ、もちろんだ」


 最初に彼女が要求してきたのは甘味だった。

 今日は奮発して買ってきたのは三百円もする高値のやつだ。

 たぶん、三個セットのやつでは満足してくれないので考慮してのこと。

 梨花は満面の笑みを浮かべながらブツを受け取るのだった。



「それで、説明してくれるかしら」


 リビングでTVゲームを遊んでいる梨花が訊いてきた。

 隣で本を読んでいた俺ははぐらかすように返す。


「何を?」

「さっきのアレだよ。どうせ由利さんに強引に責められたんでしょ」

「は!?」


 画面に集中しながら梨花が何気なく言った言葉に驚く。

 兄のことなんか眼中にないスタンスの梨花が的を得たのだ。


「昔から好きじゃなかったの、あの人。気分のいいときは八方美人になるくせに、お兄ちゃんと接するときだけ周りへの対応が時たま冷めている。お兄ちゃんはいつも不機嫌そうだったから、あの人のこと嫌いなんでしょ?」


 的確すぎる。

 周囲への当然の評価に飲み込まれず、梨花はユリの本性を見抜いていた。

 まだ推測段階だろうが拍手を贈ってやりたいぐらいだ。


「驚いたよ、全部当たっているぞ」

「私は天才だからねっ」

「ああ、流石は俺の妹だ」


 梨花が理解者になってくれたことを大いに喜ぶ。

 頭を撫でようと、手を伸ばす。


「……調子乗んないでよっ」


 梨花に手をはたかれ撫で撫でを阻止される。

 あまりに勢いがよかったので顎にも命中してしまう。

 意識が遠のくのを感じながらソファーに倒れる。


「あ! お兄ちゃんごめんっ!」


 梨花はゲームを中断して心配そうに駆け寄ってくれた。

 まだ純粋なお兄ちゃんっ子だった頃のような眼差しで覗き込んでくる妹に俺は感動した。

 いつも生意気に振舞っているフリをしているが本当に優しい子だってことを俺は知っているんだぜ?


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