表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/18

第16話 「抗えない立場」



 水曜日の女子サッカー部はオフだ。

 放課後になれば部員達はすぐに帰宅できる。

 男子サッカー部に混ざって練習する部員もいるが期待するだけ無駄だ。

 ユリが俺を差し置いて練習に行くはずがない。


 今日も一緒に下校だ。

 周りに脇目もふらずに密着してくるユリには笑顔が一番である。

 絶対に嫌な顔をしない、肝に銘じていることだ。

 おかげかユリは上機嫌になっていてくれる。


「この時間、ソラのご両親っていないよね?」


 家の前に到着すると、彼女は俺の自宅へと直行した。

 父は出張、母親は親戚の所だ。

 こちらの家庭スケジュールまで把握しているとは。

 情報の出所はたぶんウチの母親だ。


「まあ……いないけど?」

「よかった! ならソラの家へレッツゴー!」


 戦慄した。

 ユリが俺の家にお邪魔するのは初めてではない。

 両親が居ない間だって遠慮なく勝手にくるのだ。

 だけど昔よりも積極的になってきたユリが両親の居ぬ間になにを仕出かすのか分かったもんじゃない。


「いやでも、掃除してないからすっごく汚いぞ?」

「気にしなーい」

「あ! そうだ! 昨日、リビングにゴキが出現したんだ! 残念だけどユリって虫とか苦手なんだろ、だから無理しないで……」

「気にしなーい」

「勉強しなきゃいけないし、遊んでいる場合じゃ……」

「あのさ」


 襟を掴まれ睨みつけられる。

 情けない話、アナコンダに獲物として認識されたネズミのように震えた。

 絶対的主導権を握るのは、いつだってこの腹黒幼馴染だ。


「私には話せない見せられない、やましい事情でもあるわけ? こないだ約束したよね、そういうのはナシってさ……裏切るんだ?」


 ユリに血走った眼を向けられ首を横に振る。

 断じて裏切らない降伏を示す動作だ。

 それを見たユリは態度を変え、また活発な女の子へと戻る。


「だよね、ソラが大好きな幼馴染を裏切るはずがないもんねっ」


 唇を指先で触れられる。

 健全に生きてきた男子なら脳死レベルだが、俺の場合は地獄でしかなかった。

 慌てたように声を漏らすのも、汗をかくのも決して照れたとかではない。

 ユリのあまりにも早い切り替えを前にして動揺したのだ。


 ユリを自室に入れるのは喧嘩をして以来だ。

 彼女を部屋に入れていい事なんて一つもない。

 今回も彼女が暴走してくれないことを願うが、そんな俺のちっぽけな願いも悉くに砕かれる。

 入ってすぐユリが飛びつかれ、ベッドに押し倒されたのだ。


「……っ」

「私……ソラと、したい」


 馬乗りにされ、動きを封じられてしまう。

 外見では華奢な体にも見えるが、直接触れるとしっかりと鍛えているのが分かる。

 帰宅部の俺を押さえつける力が彼女にはあるのだ。

 耳元で甘やかな言葉が囁かれるが、誘惑しているつもりだろう。


「ソラの匂い……もう我慢なんかできないよ。ね、いいよね?」


 拒絶したかったが、立場上それができない。

 反射的に突飛ばそうとしたが、ある少女の姿が脳裏をよぎり寸でのところで踏みとどまる。

 受け入れるしかないのかという絶望に囚われながらも俺は、それを悟られないよう笑顔を作った。


「ん……」


 唇を強引に重ねられる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ