第14話 「楽曲制作」
曲が聴こえた。
静かさを破く、穏やかなメロディー。
それはまるであの日、アヤメの歌声で衝撃を受けた時のような感覚。
曲に詰め込められた、ありとあらゆる音色が眼の前を広がっていた。
それら全てを白紙のキャンバスに描き込みたいほど、俺はとてつもない衝動に駆られていた。
「え……PCから」
曲の発信元が教室の最前の座席、机に置かれたノートパソコンから流れていた。
探していた柳くんが、それを操作していた。
扉を開けて中に入っても全くこっちに気づいていない。
それほど柳くんは曲の流れているパソコンに釘付けになっていた。
「お迎えに上がりましたよ文化祭実行員殿」
声をかけようか迷ったけど、ここまで来た意味がなくなってしまう。仕方なく肩を叩き、柳くんに声をかける。
「むっ! 君は雨宮くん!?」
「意外だ、俺の名前を覚えている人が他にいるだなんて」
相当没頭していたのか、声をかけた途端にキュウリを見た猫のように柳くんは飛び跳ねた。
すぐさま彼は流していた曲を停止した。
「な、なにを言う。皆の名前を覚えるのがクラスメイトとして当然のことだ。僕はそこまで薄情な男ではない。それよりも君、こんな所で何をしている?」
柳くん、君がそれを言うか。
「それはこっちの台詞。ここで何してるの?」
「……」
答えない。
なにか隠し事をしているかのようにPCを大事そうに背中に隠している。
ニヤリと笑いながら、悪い考えが頭をよぎった。
「あっ! 校庭で全力◯年を熱唱しながら裸踊りしてる奴がいる!!」
窓の外を指差すと、
「なにぃ!? 不埒なことをぉぉお!!」
厳しい柳くんがそれを見過ごすはずがなく、鬼の形相で窓へと近づいていった。
その隙にPCの中身を確認する。
なにかの編集ソフトが画面に表示されていた。
「貴様騙したな!」
「曲を作っているの?」
騙されたことに気がついて柳くんに怒鳴られるが、それよりも俺の興味は画面の中になった。
機械などは専門外だ、複雑な編集が施されたものを見ると頭が痛くなる。
「……楽曲制作ソフトだ」
言い逃れできないことを理解した柳くんがその正体を明かしてくれた。
でも曲って楽器を使って作るものじゃないのか。
まさか音声合成的なあれかと、足りない頭の中で予想をするが完全な未知の領域だ。
「……なぁ、もう一度聴かせてもらってもいいか?」
「呼びにきたんじゃないのか?」
「いいから、お願い」
好奇心が俺の視界を純粋な幼子へと蘇らせていた。それをすぐ隣で見ていた柳くんは何かを思ったのか、無言でEnterをクリックした。




