暴発
伊達の行動は素早かった、柳刃を老人の顔に投げ付けると素早くその場から移動する。
顔に柳刃を投げ付けられた老人は、銃を持った左手で庇うと銃口が上を向いた。
パン!っと乾いた音を立てて天井に穴が開いた。
伊達は移動しながら背中側の腰に挿したP17を引き抜くと安全装置を解除して老人の胸の方を向けると、引き金を2度絞った。
パパン! 乾いた音が2回なると老人の胸に22LR弾が吸い込まれた。
弾頭をダムダム弾として改良してある弾は体内に入ると、ヒトデの様に広がった瞬間に四散する。
そしてそのエネルギーは射出される背中側に集約され、拳程の穴を開けた。
素早く近付いてリボルバーを蹴り飛ばす、チーフスペシャルのクローン版のステンレスモデルらしい銃が部屋の隅に転がる。
銃声から3分が勝負だ、ディバッグからトートバックを取り出すと金庫の中の現金のみを詰める。
証券、株券、借金の証書など伊達に取ってはゴミ屑以外の何物でも無い、現金以外に貴金属もあるのでそれもバックに突っ込む。
1分だけ金庫を漁るとそのまま台所を抜けて裏の勝手口にダッシュするとロックを解いて外に出ると軽トラに乗り込んだ。
決して焦らない、速度制限から5キロから10キロオーバーで家路に着くと、そのままベッドの上に寝転んで深いため息を付いた。
相手が先に撃ったとは言え、人を殺した。
その考えが落ち着いてから頭の中にチラチラすると、伊達はベッドに座ったまま身体を震わせていた。
伊達が家に帰り着いていた頃、現場にはパトカーが数台止まっていた。
近所から銃声の様な音が聞こえると通報が入り、警察が現場を見て直ぐに検問が敷かれたが空振りに終わった。
今は臨場と呼ばれる鑑識の調査中で、大阪府警からも捜査一課、強盗、殺人などの専門部署から捜査官が派遣されて来ていた。
鑑識が物差しを当てて遺体の状況を記録して行く。
「死因は胸部への銃創…恐らく即死だな」
遺体の胸の射入口の大きさと位置を記録すると、今度は背中側を調べて出した。
「射出口は拳大…しかし射入口の大きさから見ると22口径と予想されるが」
背中側の穴に定規を当てながら。
「普通…22口径ならもっと綺麗なんだがな」
それを聞いて捜査一課の1人が。
「綺麗?」
そう問うと鑑識が。
「体内を見ないと何とも…解剖医に聞いてくれ」
大阪の南側の南河内と呼ばれるこの地方は、畑とベッドタウンの片田舎だ、そこの警察署も村や町が合併して出来た市に一つだけ。
そこに今回の強盗殺人事件の捜査本部が立った。
捜査会議では大阪府警から捜査一課、そして地元の所轄署員の中で普段は制服で勤務している警ら隊からも案内の応援が出される。
警察署署長の挨拶から始まった捜査会議では。
被害者は一人暮らしの老人、高額の箪笥預金をため込んでいて、個人で金貸しもしていたらしい。
金庫の中にあった証文からも確認が取れている事、また証券、株券もあったにも関わらず放置されている事から、現金のみ強奪されたと予想される。
続いて遺体の解剖結果の報告があり。
死因は22口径の銃創が2発胸部にあり、そのうち1発は心臓を破壊していた。
なお、体内の弾頭は四散しておりライフルマークは検出不可との報告を受け、1人の捜査員が手を上げた。
「ひょっとすると…ダムダム弾ですか?」
その質問をした捜査員は中年と言うよりは初老に近い年齢で、頭は坊主頭、身長170センチ体重90キロの巨漢で元は捜査四課の出身で最近移動してきた男だった。
「ゴリさん、ダムダム弾とは?」
署長が問いかけると。
「現在はハーグ条約で禁止されていますが、人体に入ると四散する特殊弾頭です」
そこまで言うと周りがザワザワ騒ぎ出した。
それを署長が止めると。
「捜査各員は防弾チョッキを標準装備して事に当たってくれ、なお犯人確保の際はSATにも出動する様に、大阪府警本部に具申する」
犯人確保の為のローラー作戦の割り振りを聴きながら、ゴリは犯人像を考えていた。
『銃器に知識があって、ある程度の道具と作業スペースを持つ、残りは被害者との接点だな』
夜勤明けにも関わらず、捜査員達は聞き込みに回った、人の記憶は時間が経てば風化して行く、鮮度との勝負が始まった。
作中に出てくるゴリさんはTwitterのフォロワー様です
本人には了解済みです
ありがとうゴリパパさん