解雇
オマケの正体
「すまんな伊達さん」
そう言って中継センターの所長は俺に頭を下げた。
今日までで俺はここを解雇される、別に珍しい事じゃ無い。
若くて安い労働力、外国人留学生。
彼らは俺の日当で2人雇える、それが明日から来る…ただそれだけの話だ。
「ロッカーとかも今日中に開けといてください…鍵は差しっぱなしで良いです」
つまりは事務所に寄らずに済む、流石に顔を合わせ辛いんだろう。
俺は夜間帯に作業している、作業員は俺と所長だけで夜間に来たトラックからの荷物の降ろしが仕事だ。
ここ中継センターからは全国に荷物が出て行く、昼間にパートタイムの人達が捌く荷物をドンドン倉庫の中に入れて行く。
やがて一息着くと倉庫の入り口の近くにあるスーツケースに気が付いた。
大振りのスーツケースが2つ、隅にポツンと置いてあった。
張り紙にDD号とだけ書かれている。
そう言えば昨日、所長と本社の営業と一悶着あったなと思い出す、所長は受け取りを拒否したが本社の営業が無理矢理置いて行った。
今、近くの港に隔離されている豪華客船DD号、その乗客の荷物で噂だと感染して死亡したとか。
「豪華客船ね…俺とは縁遠いね」
そのまま1時間の休憩に入った。
飯を食って30分寝る、それだけで1時間が終わると俺はまた現場に戻るとスーツケースに目が行った。
周りには誰も居ない、所長も事務所から出て来ない。
そして俺が通勤で使っている軽トラがスーツケースの側に駐車いる。
俺は周りをもう一度確認すると、スーツケースに近付いた。
あと30分もすると俺と交代で所長が休憩に入る、たぶん声も掛けないで黙って行くだろう。
スーツケースを見ているうちにモヤモヤとした感情が湧いて来た、貧乏人で食うや食わずの俺と豪華客船の客のスーツケース。
理不尽だ…余りにも理不尽、明日から無職の俺との差に怒りが込み上げる。
所長が休憩に行くのが目に入った、10分待つと軽トラの荷台にスーツケースを放り込んでシートを被せる。
心臓がバクバクする、俺は現場に置いてあるロッカーに近づくと自分の名前の入ったロッカーを開けて中身を近くにあったコンビニ袋にぶち込んだ。
ボックスティッシュや筆記用具を入れるとそれを軽トラの助手席に放り投げた。
所長に電話で今日は上がると一方的に言うと、スマホの電源を落としてポケットに仕舞うと俺は軽トラに乗り込んで現場を後にした。
夜明け前の時間帯、空が紫色に染まっている。
北港の倉庫から実家のある南河内に車を走らせる、ローンを組んだ一戸建ての家は離婚した嫁と子供達が住んで居る。
南河内の実家は平屋の家で、去年まで親父が1人で住んでいた、その親父も癌で亡くなって俺に残されたのは平屋の築40年のボロ家と10万キロ走った10年落ちの軽トラだけだ。
あとは離婚した嫁が持って行った、一戸建ての住宅も貯金も…子供達も全てだ。
収入面…それが全ての原因、法律が変わって残業が減った、仕事があるのに稼げない。
仕方が無いのでバイトしたら会社にバレた、あとは落ちるだけ。
会社を首になると収入面が下がって行く一方だ、初任給は安い、残業は無い、ある日帰ると離婚届を突き付けられた。
「家と子供達は貰います、養育費も要りません」
代わりの条件は、子供達と逢わない事、家に来ない事、俺は飲むしか無かった…軽トラに私物を積むと自分の実家に帰った。
そこまで思い出すと軽トラは実家に着いた。
玄関前に付けると鍵を開けてスーツケースを玄関に放り込む、軽トラを家の隣に駐車すると助手席のコンビニ袋を持って家に入る。
素早く鍵を閉めるとスーツケースを居間に置いた、親父が生前が土方だったので道具はそこそこ残っていた。
ノミや金槌、糸ノコ、ワイヤーカッター、スーツケースの鍵はすぐに壊れた。
男物の着替えなどでパッキングする様に、プラスチック製のケースが真ん中に収められていた。
KELTEC そう書かれたプラスチック製のケースを開けると、中から拳銃が出て来た。
ピカニティレールと呼ばれる溝が切ってある銃身、全体はプラスチックで出来た大振りの拳銃を見て一瞬身が凍る。
震える手で拳銃を掴むとまずはマガジンリリースボタンを探した。
グリップの下、ワルサーP38と同じ場所にそれはあった、左手の親指でそっと弾倉を開放する。
カチャッと音がして弾倉を手の平に落とすと観察する。
プラスチック製の透明なパーツには所々穴が空いていて数字が書いてあった、大きい数字を辿ると。
「30…33発入り弾倉」
中身が空なのを確認すると拳銃のスライドに目を向ける、安全装置を解除するとスライドを引いてスライドストップを掛ける。
ここまでやってやっと伊達は一息付いた、今の状態が一番安全だからだ。
「弾は無いんだな…銃だけか」
箱の中には他には、サイレンサーや予備弾倉そしてダットサイト。
もう一つのスーツケースを開けるとそこにもプラスチック製のケースが入っていた。
弾が出るのを期待して中身を見ると最初とは少し違う拳銃が出て来た。
P17と書かれたその拳銃は同じケルテック製の拳銃で最大の特徴は。
「同じ22LR弾だな…これ」
CP33とP17は同じ22LR弾が使える、これは射撃競技や自宅防衛上同じ弾薬が使える方が利便性が高い為だ。
二丁拳銃ながら弾は無しの状態を見て伊達は。
「まずは…弾だな」
そう言うとスマホの電源を入れて何やら検索し出した。
あとは弾だな