再会
最終回です
大阪は堺にある刑務所、そこに伊達は服役していた。
本来なら凶悪犯の入る広島刑務所に送還されるはずだったが、暴力団の多い広島刑務所だと報復の恐れがあるとして大阪刑務所になった。
夏の暑い日、室内の気温は40°度を超える。
伊達は全身、汗まみれになりながら木工作業をしている、しかし刑務所の風呂は2日に一回、汗でベタつきながら過ごすしか無い。
エアコンも扇風機も無い部屋で煎餅布団に身を横たえて寝るのも今日が最後。
明日は刑務所を出る。
日が昇り、気温が30度を超える頃、大阪刑務所を出る。
10年前の服はサイズが合わなくなっていた、糖質が最低限しか無い刑務所の飯はダイエットに最適だったらしい。
余るウエストをベルトで締め付けると、刑務所の外に一台の外車が駐車していた。
米国、ダッチのRAMピックアップ。
濃いブルーのダブルキャブの車体には、YUSA MATERIALのロゴが目立つ。
左側の運転席から背の高い美女が降りて来た。
身長は180センチ程、手足が細く八等身の人形の様な体型。
長い髪が背中までかかる黒髪は艶があって美しい。
あれから10年…美しい女性に成長した、しかし昔の面影もまだ残っている。
あの日、子供の頃の俺と同じ目をした少女。
ユサは俺の姿を見ると、俺に向かって駆け出して来た。
ドンっと俺の胸に飛び込むと、両手に荷物を持った俺を抱きしめた。
俺より10センチは高いのだ、胸に俺の顔を埋める様に抱きしめると。
「お帰り!…お爺ちゃん」
涙目で俺に笑顔を向けて来た。
俺はユサの胸に顔を埋めながら。
「ただいま……ユサ」
もう少しこのままで居よう、ユサのTシャツに染み込んだ俺の涙が乾くまで…
ピックアップに乗り込むとユサは奈良まで車を走らせる。
その途中、Mのマークのファーストフード店に立ち寄った。
「もっと贅沢して良いのに」
ユサが座って待って居る俺の前にトレイを置いた。
待望のファーストフードを震える手で食べながら。
「刑務所は薄味の和食ばかりでな」
フライドポテトを素手で掴んで数本を一度に口に加えると塩味と芋の味が口の中で広がる。
指に付いた塩を舐めながら。
「夢にまで見たよ、ファーストフードとケーキを腹一杯食うのを」
そう言うとユサが笑いながら。
「途中でケーキも買って行こうか?」
そう言いながら、後でこっそり予約していた高級料亭はキャンセルする事を心の中にメモをする。
「庭でバーベキューしようか?昔みたいに」
ユサがそう言うと伊達が良い笑顔で笑う。
奈良までの車中でユサが伊達にあれからの10年を話して聞かせて居た。
ユサは中学を卒業すると東京の高校に進学した。
「スカウトされたのよ」
東京のモデル事務所にスカウトされたユサは、モデル事務所に在籍しながら高校と仕事の二足の草鞋を履いた。
昼は学校、夜はスタジオで撮影。
「18になってから日本に帰化したの」
名前も遊佐と改名して18からは大学に通いながら仕事もこなした。
「大学で会社の設立に必要な資格も全部取ったし」
仕事を通じて知り合ったコネを活かして会社を設立した。
ユサ マテリアルは廃棄される携帯電話やスマホから希少金属を取り出す。
「うちの希少金属は純度が高いのよ、何故か金や銀がね」
そう言うとクスクスと笑い出した。
伊達もニヤリと笑いながらあの事を思い出す。
10年前のあの日ユサと伊達は契約した。
伊達が強奪した金と銀を2人で土に埋めた、奈良の山の中に。
そして伊達は離農した農家の家主に契約を30年延長したいと持ちかけて現金で払うと。
「名義をこの娘にして欲しい、そのかわり色を付ける」
そう言ってさらに100万円上乗せした、領収書も取らずに。
財布に浮いた金が入るとホクホク顔で家主は契約すると。
「お嬢ちゃんが大人になったら買い取ってくれても良い、あの辺は全部ウチの土地なんでな」
ユサは成人するとあの土地に自分の会社を建てた。
ユサ マテリアル あの農家のすぐ隣に工場を建てて、農家と納屋もリフォームする。
「お爺ちゃんの仕事もあるわよ」
フレキシブルコンテナで搬入するのでリフト作業もあるらしい。
地元の農家が閑散期や近所に住む子育て世代がパートに来ると言い。
「腐る物でも無いから、2、3人パートが来れば作業出来るし」
人数に合わせて作業量を変えて仕事をしているらしい。
「土日祭日は休み、盆も正月も最低3日から休み」
ホワイト企業だよ〜、そう言ってユサは笑った。
途中で肉とケーキを買い込むと懐かしい風景に出会った。
住んでいた農家と納屋は面影を残してリフォームされて居る、その隣には工場が建っていた。
家の中はすっかり改装されていた、木目の壁と長い廊下。
そして頑丈な扉の付いた電子錠の鍵の部屋が1つ。
リサが指紋認証で開けると中は六畳くらい、部屋の中にガンロッカーが壁に固定されて居る。
ロッカーを開くと散弾銃が二丁。
モスバーグとレミントン製の12ゲージが入っていた、ユサが成人してすぐに資格習得して買った物だ。
ユサがチェーンを外して伊達にレミントンを持たせる。
米国で警察や軍で使われる頑丈な鉄と木の塊。
伊達がポンプをスライドさせて薬室が空なのを確認すると壁に向かって散弾銃を構えた。
「俺は今年で63…後数年は身体が動く」
軽く引き金を絞るとカチンッっとハンマーが落ちる音がする。
「もうひと山、稼げるさ」
歯を剥き出して不適に笑う伊達を、ユサが笑顔で見守って居た。
==========fin ==========
最終回を書き上げました。
この作品で7作目、拳銃の記憶シリーズでは3作目になります。
この作品は沢山の皆様の協力で出来ております。
ハワイ在住やタイ在住の方に銃の知識を貰い。
元は機動隊の方からはニューナンブや片手撃ちのコメントを頂いたり。
特に名前を貸していただいた方々。
ガンイコライザーゴリパパ様
(株)豊和精機製作所様
レイヤーの遊佐様
この人達の協力無しではこの作品は完成しませんでした。
悪役や不幸なヒロイン役ですいません(汗)
しかしその甲斐あって沢山の皆様のお目に留まっております。
本当にありがとうございました。
拳銃の記憶シリーズはまだまだ書く予定です。
その時は皆様、また読んで下さい。
ありがとうございました。




