灰色
伊達が話していると病室に男が入って来た。
ブランド物のスーツを着てキッチリと髪をセットしている姿は何処かで見覚えがある。
「馬鹿な!…なんでお前が?」
刑事が引きつった笑顔で男を指差すと。
「私の弁護人にこれ以上の質問は辞めてもらいますよ」
そう刑事を睨み付ける様に言うと伊達に向かって。
「伊達さん、貴方の元の奥様から依頼を受けております」
そう言うと名刺を渡して来た。
「弁護士の灰谷です、以後よろしくお願いします」
刑事と医者が部屋から出ると灰谷は椅子をベッドに近づけると資料を取り出した。
「まず、貴方が認めるのは」
拳銃の不法所持。
発射罪。
山下の殺害。
「これだけです、あとは黙秘で」
そう言うと伊達に説明を始めた。
「警察関係に見られている事以外は、全てが実証出来ません」
最初の実弾強盗も、金貸しの殺害も。
「拳銃のライフルマークはダムダム弾の為、証拠には使えません、また空薬莢の傷も実証には前例がありません」
「それと少女の監禁されて居たマンションですが」
死体が見つかって無いので殺人があったか実証出来ないと言い。
「少女はマンションの近くで保護した、迎えが来るまで世話をして居ただけ」
それで通して下さいと言い。
「奈良の山林の銃撃事件も、たまたま居合わせたで結構」
ビデオの録画と銃撃事件は関係無いと押し倒す事。
「認めるのは拳銃不法所持、それも拾ったで押し通します」
リフトの件も事故で手が滑ったで押し通すと言い、伊達は空いた口が塞がらなかった。
「だいたい、この事件の全てを裁判にしていたら…失礼ですが伊達さんの寿命が…」
そう言うと検察も早い結果が欲しいはずです、連日マスコミやワイドショーが特番を組む関心ぶりで。
「私も出演させて貰っておりますよ」
そう言うと良い笑顔でニコリと笑った。
打ち合わせが終わって灰谷が帰る時に。
「そうそう、奥様から伝言が」
伊達が聴くと、灰谷は背筋を伸ばして。
「今回の費用は貴方が送って来たお金で払って居ます、2度と連絡しないでください」
そう伝える様に言付かって来たと言い。
「あと、これは意味がわからないんですが」
相変わらず、効率の悪い人。
そう言っていたと聞いて伊達は苦笑する。
何のことかわからない灰谷に伊達は。
「昔、子供達が小学生だった時に淡路島に旅行に行って」
釣りも出来る、プールもある。
一日中そこにいて子供達を遊ばせていると。
「いつまでプールなの?他の施設も使って効率良く遊ばせないと」
妻がそんな事を言い出したので。
「決めるのは子供達だよ…一日中プールでも」
それで満足なら良いじゃ無いか。
そう言うと妻が鼻で笑って。
「ホント…効率の悪い人」
そう言うとその場を後にした。
伊達の裁判は灰谷の予想通り、嫌…たぶん司法取引でもあったのか。
検察の求刑20年に対し、懲役15年と実刑判決が出た、模範囚なら10年で出れるだろう
それを聞いてゴリが苦虫を噛み潰した顔で。
「やっぱ灰色の勝ちかよ」
司法取引で黒も灰色、灰色に変える男。
テレビやマスコミを手玉にとり民意を味方に付ける弁護士に、検察も引くしか無い。
そんなゴリを見て鳴神は。
「でもお前さん、伊達の裁判は早い方が良いって言ってただろうに」
そう言うとゴリも認めながら。
「当たり前だよ、裁判が長引いて拘置所から出れない、なんて事になったら」
あの娘が悲しむしな。
その言葉を飲み込んで、ゴリは次の事件と向き合った。
そして時が流れ、伊達の事をメディアで取り上げる事も無くなった。
そして…10年が経った。




