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拳銃の記憶  ケルテックCP33  作者: かばパパ
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記憶

 夢を見ていた。


 小さい頃の思い出せる一番古い記憶。


 トタン屋根のあちこちに穴が空いている。


 昼に明かりの無い部屋を見ると穴から日が差していた。


 雨が降ると雨漏りがする為、茶碗や洗面器を下に置く。


 ぽつん、ぽつんっと、雨だれの音が闇の中で聞こえた。



 貧乏だった、両親は田舎から仕事を探して大阪に出て来た。


 夫婦で同じ工場で働いた、硝子製の魔法瓶の工場。


 しかしそのうち、ステンレス製の魔法瓶が出ると工場は閉鎖になった。


 田舎者の両親は市役所に相談もせずに。

 唯々(ただただ)働き口を求めた、しかし40代の父親にロクな再就職先も無く。


 土方になった、毎日汗だらけで20代の小僧に怒鳴り散らされる。


「アホッ!そんな事も出来んのか!」


 名前も呼んで貰えずに怒鳴り散らされる毎日。


 そのうち酒に逃げる様になる、そして母に暴力を振るう、物に当たる。


 部屋にある物は皆んな割れるか欠けていた、そしてそれを見てまた暴れ出す。


 そんな暴力の鬱憤の吐口(はけぐち)を母は自分より弱い存在に求めた。


 標的は自分と…弟……だった。




 そこまで思い出した時、夢から覚めた。


 おそらく病院なのだろう、バイタルを測る機械に繋がれてマスクから酸素が流れてくる。


 知らない天井を眺めて居ると看護師が入って来た。


「気分はいかがですか?伊達さん」


 伊達の手を取って脈を測ると担当の先生を呼んでくると出て行った。


 それから暫くすると、男の医者が伊達の診察を始めた。


「腹部に入っていた弾の摘出は問題ありません、傷口も経過は良好です」


 暫くしたらリハビリも始めると言うと。


「警察が質問があるそうです」


 具合が悪ければ日を改めるが?っと聞く医者に、会うと頷くと外で待っていたのだろう。


 伊達に拳銃(ニューナンブ)を向けていたあの刑事が入って来た。


 医者が刑事に15分だけだと念を押してから質問が始まった。


「1週間ぶりだな」


 そう聞いて伊達は驚いた。


「1週間?…そんなにか?」


 刑事は頷くと、1週間気が付かなかったと言い。


「あの娘は元気にしてるよ、今は奈良の孤児院に居る」


 警察のパトカーが24時間、孤児院に張り込んで居ると言い。


「あんたに会いたがっていたよ」


 そう言うと、豊和興業は解散したと言い。


「上部組織から絶縁状が送られて来てな極道(ヤクザ)としては復帰は無理だ」


 ヤクザはリンチ、破門、絶縁と制裁の段階がある。

 一家を追放される破門よりも絶縁の方が重い。


 全国の組織に回状が回る為だ、何処の組織も入れてはくれない。


「子供を…それも自分の実の娘から心臓を取ろうとした事がバレて、テレビや新聞が毎日報道しててな」


 神戸の本部にまで警察のガサ入れが入った、逮捕者も十数名出ている。


「あの娘の所にも詫びに来てたらしい」


 上層部のトップの妻、姉御と呼ばれる女性が孤児院に来ていたらしい。


「今までの養育費と成人するまでの養育費の小切手を孤児院に寄付してな、孤児院の外に貼ってたマスコミに」


 下部組織のやった事とは言え、ケジメは付けると言い、その日に回状が回ったそうだ。


 ここまで話すと刑事は伊達に。


「アンタ…なんであそこまで…」


 護ろうとしたのか?そう聞きたそうな顔で見てきたので。


「あの娘に会った次の日…」


 伊達がそう語り出すと刑事は驚いた顔をしていた、喋るとは思わなかったらしい。


「買い物に行って…晩にすき焼きを食べてる時に」


 娘は自分の事を伊達に少しずつ話し出した。


 母親の事、ボランティア団体のシスターの事、そして。


 自分の育った家の事。


「屋根がトタンでね…雨が降ると雨漏りが酷くて」



 コップやバケツを下に置いて、残りの僅かな場所に母と寄り添って寝て。


「雨が…嫌いだった」


それを聞いた時、自分の子供時代を思い出した。


 雨漏りの事、父親の暴力と母親の…。



「俺の母親は俺たち兄弟を殴る時に…」


 自分のベルトを外させてそれで自分と弟を殴った。


「素手だと…自分の手が痛いから、そんな理由でベルトで殴られて…」


 弟を連れて家を出ようと、毎日そればかり考えて高校には進学しなかった。


「中卒で働いて…でも、その金も親に全部盗られて」


 毒親…まさにそれだった、酔った父親に反撃して親父を殴り倒した夜。


 弟を連れて家を出た…あの日にやっと解放された。


「子は親を選べない、それがどんな毒親でも…」


 だから助けたかった…あの日の自分と、同じ目をした。



 あの(ユサ)を…助けたかった。


 あの日の…自分自身を…


 

 作者の少年時代の頃の事をベースにしています

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