尾行
その電話は深夜を過ぎてから掛かって来た。
待っていた若頭名義からのスマホからの電話。
豊和興業の組長、山下は慌てて電話に出ると。
「場所を言う、北港にある倉庫群だ」
詳しい場所を言うと通話は切れた。
山下は子分達を睨み付けると。
「車を出せ、電話番だけ残して後は向かうぞ」
総勢、十数名のヤクザが四台の車に分乗して一路北へ向かった。
そして移動している豊和興業を、尾行している白いクラウン。
その中にはゴリ達、南河内署の面々が乗り込んでいた。
「張り込んでいた豊和興業ですが、今しがた四台に分乗して高速に乗りました、 Nシステムでの追跡、及び交代の尾行車両の手配をお願いします」
返事はすぐに来た。
「ヘリで追跡する、それと特殊部隊の出動を要請した」
気付かれない様に距離を取って尾行せよとの指示で、ゴリはクラウンのスピードを下げた。
山下達を乗せた四台の車は北港で高速を降りると指定されたプロロジに向かう。
電話で言われた通り、一階ゲートは無人で入り口も開いていた、そのままスロープを上がり5階へ向かうと天井の蛍光灯が明るく光っていた。
丁度、通路の中心付近に階段のある出入り口があり、階段に座り込む人影があった。
中年から初老になりかけた男で白髪が目立つ、冬の深夜で冷える為か防寒着の上下を着てポケットに両手を突っ込んでいる。
四台の車が階段を取り囲む様に駐車すると中から山下達が降りて来た。
階段に座っていた男が立ち上がると。
「山下さんかい?」
ベンツの後部座席から出て来た山下を見て、上下防寒着の男が言ってきた。
山下は頷くと手下達に目配せしながら。
「そうだ…あんたは?」
男は少し考えてから。
「伊達」
そう言うと山下の目を見ながら。
「何で…自分の娘を犠牲にする?」
そう聞かれたので山下は黒い笑いを顔に浮かべながら。
「娘?…確かに血は繋がってるかも知れんが、俺はあの娘を身内だなんて思った事は無いな」
そして、くくくっと乾いた笑いをすると。
「タダの臓器移植の為の肉の塊だよ…まあ、養育費は一銭も払って無いから」
それだけは親孝行だったな、そう言ってから。
「ああ…それと」
伊達の方を見ながら嫌らしい笑みを浮かべて。
「アソコの締り具合は母親そっくりだったぜ」
そう言った瞬間にダァン!っと38スペシャルの銃声が辺りに響いた。
見れば伊達の防寒着の右手が入っているポケットに穴が開いて薄らと煙が上がっていた。
「ガアッ!」
組員達が見ると組長の左足の膝から出血して、関節があり得ない方向に曲がっていた。
伊達が右手をポケットから出すと拳銃が握られていた、そのまま組員達に残りの5発を3秒で撃ち込む。
ドガガガッっと銃声は3回しか聞こえない、ダブルアクションで撃った銃弾は車のガラスを砕き、ドアに穴を開ける。
組員達が車の影に隠れる隙を狙って、伊達は階段をダッシュで上がった。
左手をポケットから出すと、所長から奪ったカードキーを出してドアロックを解くと中に滑り込んだ。
組員達が慌ててドアに殺到するがロックされてて開かない。
「散弾銃を持って来い!」
鹿弾の入った12ゲージ散弾銃を車のトランクから出すとドアノブを撃ち飛ばした。
伊達はドアに滑り込むとエレベーターホールの2つあるエレベーターの右の上昇ボタンを押す。
予め準備していたので5階に来ていたエレベーターのドアが開いた。
伊達はドアを手で押さえると、屋上のボタンを押して素早く外へ出る。
空のままのエレベーターのドアが閉まるとそのままエレベーターホールを突っ切って倉庫内の入り口をカードキーで開けると中に飛び込んだ。
外の組員達がドアノブを吹き飛ばして中に入ると、そこはエレベーターホールだった。
右のエレベーターが動いている、そのまま屋上で止まったのを確認すると。
「奴は屋上へ逃げたぞ!車で向かえ!」
外にそう伝えると、左のエレベーターに数人乗り込んで屋上に向かった。
伊達は倉庫の中で拳銃の弾込めをしていた。
右手の親指でロックを解くと弾倉をスイングアウトする。
左手で弾倉を持つとそのまま銃口を上に向けてシリンダーラッチを左手の親指で押し込んだ。
6発の空薬莢が床に落ちるとそのまま銃口を下に下げて、右手で防寒着の右の胸ポケットに入っていたスピードローダーを取り出すと、シリンダーの中に落とし込む様に6発の38スペシャル弾を補充する。
そのままシリンダーを閉じると空になったスピードローダーを右胸のポケットに戻した。
拳銃を防寒着の腰のポケットに入れると伊達はカウンターリフトまで走って素早く乗り込む。
キーを左に捻って余熱してから右に捻る。
轟々とディーゼル機関の音が辺りに響く、伊達はレバーを前進にすると低速に切り替えてから、左足でクラッチを踏み込むと右足をブレーキからアクセルに踏み替えた。
アクセルを全開にしながらマストの上昇レバーを引くと特殊合金製の爪が目の高さに上がって来るとそのまま目の前のシャッターに突っ込んだ。
組長の山下は足を止血するとベンツの後部座席に避難していた。
エレベーターで屋上に逃げても袋のネズミだ。
捕まえて袋叩きにしてから、爪を剥がしてバーナーで炙ってやる。
そう考えていた時、シャッターの向こう側からエンジン音が聞こえて来た。
「奴か!」
山下がそう言った途端、シャッターが轟音を上げながら裂けると中からフォークリフトが飛び出して来た!




