咆哮
日本キリスト教会 奈良支部は作者の想像上の組織です
日本キリスト教会、奈良支部の職員は事務員を除けばほぼシスターばかりだ。
ここで孤児の面倒を見たりして修行してから海外にボランティアなどに趣く。
そのうち1人のシスターが玄関前にいる少女に気が付いた。
歳はおそらく中学生くらい、目鼻立ちはハーフっぽい日本人離れした美少女で、長い髪が夕陽を浴びてキラキラと光っている。
大きな熊の縫いぐるみを抱えて、海外旅行用の巨大なスーツケースと背中にディバッグを下げながら、吸い込まれそうな瞳でこちらを見ていた。
「えーと…貴女のお名前は?」
日本語が通じるかな?そう思いながら聴くと。
「ユサ…」
そう返事をするとポケットから手紙を取り出して渡してきた。
日本キリスト教会、奈良支部の職員様へ。
そう書かれていた便箋を開封して中を見ると一枚の手紙と記録メディアか同封されており、手紙の内容は。
拝啓、日本キリスト教会、奈良支部の職員様。
この少女はあなた方の職員がフィリピンで保護した娘さんです。
事情は同封している記録メディアにありますが、日本のヤクザに拉致監禁されておりました。
この少女、ユサを保護して警察に連絡をよろしくお願いします。
追伸、ユサはヤクザに命を狙われております、必ず安全の確保を念押ししてください。
よろしくお願いいたします。
手紙を読んだシスターはユサを連れて教会に入ると叫んだ。
「神父様を呼んでください、あと警察に連絡を!」
奈良に出張しているゴリに上司から連絡があったのは、捜査協力を頼んでいる奈良県警の捜査員に大阪の事件の説明をしている最中だった。
「豊和興業?…あそこの名前が出てるんですか?」
そうゴリが言った途端に目の前の奈良県警の捜査員がハッとした顔をして。
「今回の銃撃事件の生存者も豊和興業の者らしいんです!」
ゴリは呆然とした顔をして。
「何が起こっているんだ…一体…」
豊和興業組長、山下は自宅でもある組事務所に戻って来ていた。
ソファにドカリと座り、組員が入れた茶を飲みながら。
「糞がぁ!あの娘ゃあ!」
次に捕まえたらそのまま和歌山に連れて行く。
手足の腱を切って動けなくしてやる!。
そう思って泣き叫ぶ姿を想像して、黒い笑いを顔に張り付かせていた。
一方その頃、伊達は大阪の北港に向かっていた。
高速道路を避け、奈良の国道25号線から旧外環状線の旧170号線を渡り。
阿部野から国道43号線を北に向かうと北港道路に出る。
ユニバーサルスタジオを左手に舞洲大橋を渡ると、舞洲に着く。
ユニークなデザインの巨大なゴミ処理場の周りは全て、巨大な倉庫群、プロロジばかりが目立つ。
軽トラはそれらを通り過ぎて一路キャンプ場に向かう、冬のこの時期は客足はほとんど無い。
深夜まで時間を潰すと、伊達は前の職場であるプロロジの5階に向かった。
車両ゲートは空いている、しかしガードマンの姿は無い、搬出先の倉庫が休みの次の日は入庫作業はほぼ無い、必要最低限の警備員以外は休みになる。
伊達は5階に上がると一部だけシャッターの開いている場所を通り過ぎてから軽トラを駐車した。
目出し帽を被り、拳銃を取り出すと右手に持って軽トラを降りる。
今日の搬入作業は終わっていた、午前8時の出荷作業までは誰も来ない。
トラックバースから階段で上に上がると所長が1人で検品作業をしていた、伊達に気がつくと目を見開いて驚愕する。
「だ!誰だお前は?」
伊達は無言で拳銃を構えると、近くにあった荷物の冷蔵庫に撃ち込んだ。
バンッっと38スペシャル弾の銃声が倉庫内に響くと梱包した冷蔵庫に穴が空いた。
「ヒイッ!」
悲鳴を上げる所長に伊達は。
「拘束するが命までは取らん、大人しくするならな」
そう言うと所長は頭を縦にコクコクと振るとその場にへたり込んだ。
所長の口にガムテープを貼ってから麻袋を頭に被せる。
手足も簡易手錠で拘束してから床に転がした。
伊達はリフトのキー置き場から小松のディーゼル車のキーを取るとホーム下のトラックバースに向かった。
トラックバースの端にそれは置いてあった。
小松製ディーゼルエンジンを持つカウンターリフトは3・5トン迄の貨物を搬送出来る。
つまりはその倍の重量である7トン以上の車重を持ち、運転席の後のバラストは鉄の塊だ。
運転席の前にある爪は特殊合金で出来ており10トン以上の荷重が掛かっても折れる事は無い。
伊達はダブルタイヤのステップカバーに足を乗せるとそのまま運転席に座った。
キーを差し込んでまずは左に捻るとニクロム線がジリジリと焼ける音がする。
トラックもそうだがディーゼルエンジンはまずはこのニクロム線を加熱させる、余熱させてからキーを右に捻ってスターターを回すとキュルキュルとバッテリーからの音がした。
伊達は右足のアクセルペダルを踏み込んだ、ディーゼルエンジンが始動するとそのままアクセルを踏み込んで暖気させる。
轟々とディーゼル機関が雄叫びを上げる。
まるで野獣の咆哮の様な音が倉庫群にこだましていた。
作者の乗っていた小松のディーゼル車は古いので
ニクロム線が赤くなるのが見えてました




