相棒
ユサは山の中の獣道をハスラーでひた走る。
遅れたら全てが水の泡になる、お爺さんが通り過ぎるまでに着かないと。
その思いが通じたのかアクシデントにもならずに目的地の岩まで辿り着いた。
林道のすぐそばに重なる様に鎮座している大岩は高さが5メートルを優に超える、下からは登れないが、山の上からなら、ほぼ平らになっている頭頂部に降りる様に辿り着く。
ユサはデイバックを下ろすと中から22LRが50発入った予備弾倉を3本取り出すと弾倉交換しやすい場所に感覚を開けて並べる。
その時微かにエンジン音が聞こえた。
岩の上で腹這いになると林道のカーブの向こうから軽トラが飛び出して来た。
伊達はバックミラーをチラチラと見ながら4WDモードにした軽トラを走らせる。
早く走ってはいけない、ユサが着く前に通り過ぎてしまう。
遅く走り過ぎてもいけない、背後から散発的に銃声が聞こえている、タイヤにでも当たったら目も当てられない。
絶妙な距離で二台を引き離すと、やがて目的地の大岩が見えて来た。
岩の上で振っている手がチラチラと見えた、ユサは間に合ったらしい。
頼もしい相棒にニヤリとすると、伊達はスピードを上げ出した。
ユサの視界に軽トラと追手のベンツとワゴン車が見える、ユサが手を振るとお爺さんの軽トラのライトが一回だけパッシングして来た。
次の瞬間、軽トラのスピードが上がった。
まるで今まで亀の様に走っていたのが兎にでも変わったかの様だ、追手の二台を引き離すとユサの射線にベンツが飛び込んで来る!
若頭はベンツの後部座席で冷や汗をかきながら前の組員を見ていた。
前の軽トラを止める為にタイヤを狙って撃てと指示はしているが、流れ弾が万が一娘に当たると全てが水の泡になる。
「タイヤだけだ、運転席は狙うなよ」
右手は山肌、左手は渓谷、おまけにガードレールは無し、万が一軽トラが渓谷に落ちたら娘が!っと考えたその時、前の軽トラがスピードを上げた。
「離されるな!」
そう若頭が叫んだ瞬間、前のフロントガラスに亀裂が入った!
ユサは光学照準の中心をベンツのフロントガラスに合わせると引き金を絞った。
軽い銃声が上がるとベンツのフロントガラスに亀裂が入った、そのまま連射して運転席に射線を誘導すると連射して撃ち込む!
タンッ!タンッ!タンッ!タンッ!
光学照準器を合わせながら無意識に引き金を絞るとベンツの運転手に当たったのか、ベンツが蛇行すると山側に突っ込んで林道を塞いだ。
そして後続のワゴン車がベンツの横っ腹に突っ込むと、ベンツが横倒しになった!
そのままワゴン車がベンツを押し出す様に停まる!
ユサは弾倉交換すると次はワゴン車に連射する!
その時、ワゴン車から人影が飛び出すと、山の中に入ろうとダッシュする。
ユサからは木が射線を塞いで狙えない。
その時、ユサから右手の方角から銃声が聞こえた!
「お爺さん!」
ユサが見ると伊達が軽トラの荷台に乗ってP17を構えると、タンッ!タンッ!タンッ!タンッ!っと連射する音が聞こえる。
伊達の方から背中が見えていた人影が倒れた!トドメに何発が撃ち込むとそのままベンツとワゴン車を銃撃する!
ユサと伊達、2人の十字砲火を受けて二台とも穴だらけになる、予備弾倉を1つだけ残して全てを撃ち込むと、銃撃はパタリと止んだ。
若頭はベンツの後部座席で身動きが取れなかった。
後続のワゴン車がベンツに衝突した時に、足が挟まって抜けなくなっていた。
逃げる事も出来ずに周りを見てみると、前に居る2人は事切れている。
胸に銃弾を浴びて蜂の巣になった部下を見ていると、足音が近付いて来た。
足音の主はベンツの近くに来ると、横倒しになった窓から若頭の方を見ると。
「生きてるかい?」
そう言うと、デジタルビデオカメラを持ち出して、若頭の方に向けると。
「質問がある…答え無い場合はこの車を燃やす」
もちろん、このままガソリンに火を着けると言われて、若頭は屈服した。