訓練
濃厚な1日だった、買い物、遊び、久しぶりに充実していた、夕飯にすき焼きを食べて風呂に入った後、ユサが伊達に話があると炬燵に誘うと。
「お爺さん…私、話さなきゃいけない事があるの」
それからの話は伊達には信じられない事の連続だった、これが本当なら命が危ない…ユサの。
「明日から正月か…丁度良い」
キョトンとするユサに伊達は。
「山に入る、練習しようか」
翌日朝早く、伊達とユサは山に入る。
CP33に肩当て、消音器、光学照準器、50連弾倉を付けて背負い紐を付けるとユサに渡す。
操作方法を教えるとユサは一度で覚えた、山の中で射撃を覚えさせ、スズキハスラー80で山の中の獣道を走らせて山を越えさせる。
山を越えると岩のある林道に出る、谷側にはガードレールも無い林業専門の土の道。
何度も山を超えると身体が覚え出す、迷って判断が鈍らない様に繰り返す、何度でも。
正月が明けてから伊達はユサを連れて大きめの街まで出て来た。
「準備も出来たし、そろそろ餌を撒こう」
伊達がそう言うと、不思議そうな顔をしてユサがキョトンとしている。
まずはユサを美容院に連れて行った、カットして明るめの色に染めると見栄えが変わる。
そのまま百貨店の化粧品売り場でメイクをしてもらう、レクチャーを受ける授業料として高級化粧品をガンガン買う。
最後にブランド品の服と靴、バックを揃えると十代後半に見える、元が美人だった為、皆が振り向く大人の女性に変身していた。
「元々、背が高くてスタイルも良いから変わるもんだなぁ…手も足も細いし」
芸能事務所にスカウトされても不思議でも何でもない、そんな感じにユサをドレスアップすると、街の中を端から端まで移動して回る、明らかに視線を感じ始めた。
「釣れたかな…ユサ、寄り道して帰ろう」
ユサに大きなクマのぬいぐるみを買ってやると、抱き締めて離さなくなった。
他にも様々な買い物をすると、伊達とユサは隠れ家まで真っ直ぐ帰ると夜になっていた。
その夜、豊和興業に一本の電話が掛かって来た。
町外れの離農した農家に最近、年寄りの男とハーフっぽい女が住んで居ると。
知らせを聞いた豊和興業の若頭が電話の応対を済ませると。
「道具と車の手配をしろ、俺を入れて6人、車は二台で行く」
深夜に、ベンツとスモークを貼ったハイエースが高速をひた走る、目的地は奈良の山の中へ。
目的地の農家の近くへ着くと二台の車はエンジンを切った。
「様子を見てこい…まだ気づかれるなよ」
手下の2人が農家に近付くと部屋の照明が消えた。
気づかれたか?、そう思って暫く様子を見て見ると家の中は動く気配が無かった。
どうやら寝たらしい、2人は車に戻ると若頭に報告を入れる。
「さっきまで部屋の明かりが点いてましたがついさっき消えました、寝たようです」
動く気配が無いと聞くと若頭は少し考え込んだ。
人は寝てから数時間経った方が眠りが深くなる、幸いあと2時間もすれば夜が明ける。
「周りが見えるくらい明るくなったら、襲撃する」
車の中で2時間、まんじりと過ごすと周りが明るくなり出した。
6人は車から離れると、農家を囲む様に範囲を広げて近付いて行った、その時。
納屋の中からエンジン音が聞こえた、急発進する軽トラの運転席と助手席に人影が見える!
「逃げたぞ!車に乗れ!追うぞ!」
6人は慌てて車に乗り込むと、二台で軽トラを追い出した。
それから暫くすると農家からユサの姿が出て来た、バイクのオフロード用のヘルメットに革の手袋、背にはディバッグとフル装備のCP33。
納屋からスズキハスラー80を引っ張り出すとキックスタートでエンジンを駆ける。
「まっててね、お爺さん」
決意を秘めた顔で唇を噛むと、ハスラーをウイリー気味に急発進させると山を越え出した。