逃走
レンタルした軽バンを駅前のロータリーに駐車すると、レンタカー会社に鍵を返却した。
そのままユサを連れて駅前のショッピングモールの駐車場に行き、軽トラに乗り込む。
幹線道路は出来るだけ避けて旧道や私道を通りながら隠れ家に向かいながらユサに。
「俺はこれから隣の県の隠れ家に向かう」
ユサの方を見ると、ジッとこちらを見ていた。
「しばらく一緒に隠れると良い、ほとぼりが冷めるまで」
そう言うとユサは首を振って。
「あの人達は…たぶん必死に探す」
私を…そう言いかけて言葉が止まった。
豊和興業の本宅に若頭は詰めていた。組長不在の為である。
「金庫室の不寝番と連絡が取れない?」
部屋の固定電話にも、詰めてる組員も出ないと聞いた若頭は、数人を引き連れて金庫室に向かった。
施錠されて無い玄関を開けると、死体と血溜まりが目に入った。
その後、部屋の中で4人の死体を見つけるも。
「娘が居ない…直ぐに探せ、あとここを処理屋にクリーニングさせろ」
死体をゴミ処理場で焼くのと部屋の血痕のクリーニングに掛かる費用を考えると頭が痛い、しかし。
「組長に報告する…」
組長である山下に報告する方が頭が痛かった。特に消えた娘の件で。
数時間掛けて県境を越えた伊達達は、隠れ家に到着した。
庭にある納屋に軽トラを隠すと、ユサを連れて家に入る。
居間にある炬燵のスイッチを入れ、灯油のストーブに火を付けると、やっと人心地着いた。
側に置いてあった段ボールからチョコレートバーを取り出すとユサに渡して。
「飯にするから、出来るまで座ってろ」
そう言うと隣の台所に立ち、作り置きしていたカレーの入った鍋に火を付けるとサラダを作り始めた。
ユサは炬燵に入ってチョコレートバーを齧りながら部屋を観察していた。
古い日本家屋の農家のこの家は、引き戸で部屋を分けるタイプで、キョロキョロ辺りを見ていると伊達が呼ぶ声が聴こえて来た。
隣の台所に行くとテーブルがあり電気ストーブが足元を暖めていた。テーブルの上には、
カレーライス、サラダ、ヨーグルト飲料の入ったコップなどが並んでおり、カレーの香りが食欲をそそる。
「まあ、座って食ってから話を聞こうか」
そう言うと伊達はカレーを食い出した。ユサも慌ててスプーンを握ると一緒になって貪り食う。
カレーは辛かった、しかしサラダとヨーグルト飲料がよく合う。たちまち皿が空になると伊達が2杯目を食い出した。
「米もルーもあるから、2杯目からはセルフで頼む」
そう言ってヨーグルト飲料を冷蔵庫から出すとコップに注ぎ足した。
豊和興業の組長、山下はゴリゴリの武闘派だ。若い頃は短刀と拳銃を懐に飲んで抗争に明け暮れていた。
若い頃からの暴飲暴食のせいか、中年になってから身体の中に不調を抱え、和歌山の個人病院に入院している。
若頭からの報告はそんな身体へのダブルパンチだった。売り上げが奪われ組員が殺され、
そして金庫室に閉じ込めて居た娘まで行方不明になったと聞き、怒髪天を着いた山下は電話越しに。
「いいか?娘の身柄を押さえろ…金に糸目は付けるな」
飼ってる警察や兄弟分の手を借りてでも探し出せ、そう言うと電話を切った。
電話を切った後、山下は真っ青な顔で汗を流しながら。
「糞が!…間に合わねえじゃねえか」
そう1人個室で毒を吐くと、やがて震え出した。




