聖夜
クリスマスイブの夜、伊達はレンタルした軽バンをマンションの近くの路地に駐車すると準備を始めた。
缶ビールの空箱の横に穴を開けて消音器を付けたP17を取り出すと、スライドを引いて初弾を薬室に入れ、安全装置を掛ける。
そのまま拳銃を箱の中に入れ、目出し帽を取り出す。
目出し帽を頭の上にニット帽の様に被ると、イボ付き軍手を嵌めて車から降りた。
大きめのマスクを付けて顔を隠すと、豊和興業の金庫室のある三階に上がる。
廊下の一番奥、監視カメラが何台もある部屋の前まで行くとインターホンを押した。
部屋の中では、不寝番の若いチンピラがスマホを片手にモニターを見ていた。
運送会社の宅配なのか、作業服を着たジジイが缶ビールの箱を両手で捧げ持っている。
「宅配屋です」
奥の部屋で売り上げを数えている兄貴分達に声を掛けると、玄関に向かった。
伊達が外で待って居ると、ドアからチェーンが外れる音がした。
伊達が左手で支える様に持ったビールの空ケースの上に偽の伝票とボールペンを用意すると同時にドアが開いた。
中からチンピラの若い衆が出て来ると愛想笑いを浮かべながら。
「サインをお願いします」
チンピラが伝票に視線を向けたのを確認すると、素早く空箱の中に手を入れて安全装置を外し、チンピラの胸に2度、22LR弾を撃ち込んだ。
バスッバスッっと音がしてチンピラが崩れ落ちた。左手で扉を閉めると鍵を掛ける。
箱の中から拳銃を取り出すと、そのまま廊下をダッシュして奥の部屋に飛び込む。
2人の男が椅子から立ち上がる途中だった。
伊達は端から順番に撃ち倒して行く。2連射で胸を狙って2回。
10秒かからずに2人の胸に穴が空いたその時、通り過ぎた廊下のドアから半裸の男が拳銃を片手に飛び出して来た。
伊達はとっさに屈むとそのまま男の方に床の上を這う様にジャンプし、右手を伸ばして半裸の男の腹を2度撃つ。
腹を撃たれた男はその場で崩れ落ちた。腹を抱える様に蹲ると、手に持った拳銃を伊達に向ける。
撃鉄が起こされていないのを確認すると、伊達は左手で拳銃の弾倉を握り込む様に掴むとそのまま固定する。
引き金を引いてもビクともし無い状態を見て驚愕する男の顔に向けて、伊達は右手を向けると引き金を引いた。
その時、半裸の男が出て来た部屋から物音がした。
伊達が部屋の中に飛び込み、部屋の中央で360度ぐるりと見回すと人影が見えた。銃を向けて引き金を絞る瞬間、その指が止まった。
部屋の隅に敷かれたマットレスの上に、下着姿の少女が寝ていた。
顔を天井の方に向けて伊達の方など気にしてもい無い、ハイライトの消えた生気の無い瞳でただ天井を見ていた。
歳の頃は14歳くらいか。痩せて手足が長く、何処か日本人離れした黒髪の美少女がそこに居た。
ふと、伊達は妻が引き取った子供の顔が浮かんだ。隅に置かれたテーブルの上に蓋の空いた鞄が置いてあり、日本の物では無い茶色いパスポートが見えていた。
開くと少女の写真と名前が載っていた。
yusa bandeau ユサ バンドール
国籍はフィリピン、歳は14歳、2週間前に入国していた。
伊達は少女の方を見ると。
「名前はユサ?」
そう言うと何も反応が無かった少女の身体がピクリと反応した。伊達の方を見て、頭を縦に振るのを確認すると、伊達は話しかける。
「日本語は?わかるか?」
そう問うと、少女はまた首を縦に振る。
「フィリピンで日本人のボランティアから」
そう日本語で返して来たので、伊達は指を3本伸ばしてユサに見せる。
「君には選べるプランが3つある」
一つ、ここに留まる。
二つ、ここから別々に出る。
三つ、一緒にここから出る。
伊達はそう言うと、ユサに背を向けて部屋から出る。その間際に。
「一緒に出るなら…40秒で支度しろ」
そう言うと、まずは廊下の男から拳銃を奪い、玄関、奥の部屋と順番に財布を奪う。
奥の部屋を家探ししてスタンガン、特殊警棒、ナイフなどを奪うと取り出したトートバックの中に放り込む。引き出しにあった38スペシャルのホローポイント弾の箱も頂戴した。
床とテーブルに散った現金を拾い集めていると、着替えたユサが鞄を手に。
「一緒に…」
そう短く言うと、伊達の方を見ていた。
ユサさんのモデルはTwitterのフォロワー様です
名前の使用も快諾してくださいました
ありがとうございます